今月は実在の人物を題材にした作品が3本公開される。 1本目は「ピーター・パン」の原作者バリの物語で、どのようにして「ピーター・パン」が書かれたかを、女友達とその家族との交流を軸に描いた「ネバーランド」。2本目はイギリスの名優ピーター・セラーズに焦点を当てた「ライフ・イズ・コメディ!ピーター・セラーズの愛し方」。最後に盲目のミュージシャン、レイ・チャールズの半生を描いた「Ray」。
この三本には様々な共通点が見受けられる。
■天才である
「ネバーランド」のバリは天才作家。
ピーター・セラーズは役者として天才的な能力を発揮した。
レイ・チャールズは音楽家としてオリジナリティを持った稀有な天才。
■ダークなところがある
バリは女友達とその子供たちに興味を持つが、特に子供への関心が強い。 映画では明確に描かれていないが、ちょっとキナ臭さも感じる。(うちの番組スタッフは「バリはそういった意味でM・ジャクソンの先輩です」と言っていた)そして、ピーターは情緒不安定で暴力的志向が強く、レイは麻薬に溺れている。
■私生活が滅茶苦茶である
全員天才だけど、私生活は壊滅状態。当たり前だけどバリと奥さんは完全に冷めた状態。ピーターもその破天荒ぶりに嫌気がさされ奥さんに逃げられる。レイも女大好き!で、奥さんと深い溝がある。
■役者が素晴らしい
ピーター・セラーズを演じるのはジェフリー・ラッシュ。レイを演じるのはジェイミー・フォックス。ともに成り切り演技を見せてくれる。特にジェイミー・フォックスはレイ・チャールズから指名されてだけあって、本当にそっくり。バリは前者2人と違って、映像とか残っていないので似せる演技ではないけど、流石はジョニー・デップなので説得力がある。今年の賞関係でこの3人の名前は頻繁に見ることになるでしょう。
■映画として素晴らしい
「ネバーランド」は「ピーター・パン」のストーリーと映画自体の物語を重ね合わせつつ、人間ドラマもしっかりと描いていて、後半に向けての高揚感は尋常じゃない。
「ライフ・イズ・コメディ!」は伝記映画としては珍しいほど対象者の生活を赤裸々に描いている。映画だから多少の誇張があるのだろうけど、はっきり言ってピーターという人物は側にいて欲しくないとも思う。それでも、俳優ピーター・セラーズを嫌いになることはなく、彼の出演作をもう一度見たくなる衝動に駆られる。それはピーターの繊細で過剰すぎる愛情をキチンと描いているからだと思う。
そして、「Ray」はレイ・チャールズの代表曲を彼の人生に照らし合わせながら挿入する手法を取り、レイの人生そのものであった音楽を映画の中に見事に溶け込ませている。盲目というハンディを背負いながらも、人々をハッピーな気分にさせた彼の音楽同様、「Ray」も至福の一時を体験できる。
最後に、この3本で特に感じたのが人間味。人は時として、他人の迷惑を顧みず自分の本能で突き進んでしまうことがある。バリにしろ、ピーターにしろ、レイにしろ、人々に感動と喜びを与えた天才だけど、一人の人間として我々同様、苦悩し、挫折し、葛藤し、悲しんだ。そして、喜び、楽しんだ。
雲の上の人たちだけど、そんな彼らに少しでも共鳴できて良かったと思う。
ということで、珍しく硬い内容ですが、本年もよろしくお願い致します。