本コラムの#80で作品の内容には触れなかった「宇宙戦争」ですが、公開も始まり情報解禁ということで感想を。
さて、スピルバーグのイメージってどうなんでしょう?数名にリサーチした結果、娯楽色が強く、ファンタジーで、ヒューマニズム色が強いという意見が多かった。確かにそう思う。しかしながら、伊藤Pはスピルバーグ監督って「ダークで怖い」一面も多分にあると思っている。
「未知との遭遇」以降、「E.T.」を筆頭に優しい感じなイメージですが、「激突!」、「ジョーズ」といった初期2作品はホラー色が強いし、近年の「A.I.」、「マイノリティ・リポート」に至っては暗いし、映像も冷たい。
作品のイメージはエンタメだけど、「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」には猿の脳味噌シャーベットが出てきたり、「ジュラシック・パーク」ではトイレに座っている人をパクリと恐竜が食べちゃったりと、結構、エグいシーンがあったりする。
「プライベート・ライアン」だって、アンチテーゼだと理解できるけど、腕は千切れるは、足は吹っ飛ぶは、内臓は飛び散るはで、スプラッターもぶっ飛ぶグログロシーンが炸裂する。
といったように、スピルバーグ監督は決して優しくなんかない。そして、伊藤Pはそんなスピルバーグの暗部が好きだったりする。反面、「ターミナル」みたいなヒューマニズムに拠り過ぎる作品はちょっと引いてしまう。
で、「宇宙戦争」ですが、スピルバーグが初めて宇宙人を人類の敵として描いた作品なので、「ダークで怖い」部分を多分に見せてくれると期待していた。
そして、宇宙人が街を破壊し尽くすシーンは、観客も未知の恐怖体験を一緒に味わえ、トム・クルーズと一緒にひたすら逃げたくなる。
トムがただ逃げているだけで面白くないと言う人もいるのですが、伊藤P的には反ってそれが良かったりする。
いつもだったらどうにかしてくれるヒーロー像バリバリのトムが、ただの無責任で無骨な人という役柄を演じ、突然の出来事に成す術もなく逃げ惑うのである。(「マイノリティ」でも逃げてたけど、エリート役であることに変わりはない)だからこそ、どうやってこの危機を切り抜けるのだろうと不安に駆られる。
なもんで、前半はそれなりにダークで怖い。「よし!いいぞ!!スピルバーグ!!」と思っていたのも束の間、途中から家族愛に目覚めたトム・クルーズがヒーローと化し、いつものトム様に変身だ!!
それに伴い映画も無理矢理ヒューマニズムへと方向転換。
「おぉ!そりゃぁ〜ないぜぇ〜!!!」
前半部分でも飛行機が墜落して、家がメチャクチャになっているのに、何で死体がないの!何でトムの車だけ壊れてないの!と突っ込みたかったけど、そんな予定調和を帳消しにしてくれるぐらいの勢いがあったのに、失速ですわぁ〜。
映画のオチもヘコって感じだったけど、それより以前に伊藤P的にはガックリとオチてしまったよ。
でもね、決してつまんない訳ではないのですよ。オチだって、映画のテーマ性を考えれば、まぁ納得できるし、映像だって当たり前のようにスゲェーですよ。
ただ個人的にどちらかというとあまり好みでない方のスピルバーグが出てしまっただけの話なんでね。そっちのスピルバーグが好きな人も沢山いるだろうし、娯楽作品として充分に楽しめますよ。