それを解説するためには、まずマカロニ・ウエスタンの説明が必要だ。
マカロニ・ウエスタンとは60年代〜70年代初頭にイタリアで量産された西部劇のこと。
イタリアの貧乏弱小映画製作会社が、製作費を抑えるためにハリウッドで失業状態だった安い俳優を雇った。
雇われた俳優はクリント・イーストウッド。
見てくれが厳ついから西部劇にするかぁ〜ということで、低予算で作った『荒野の用心棒』が世界中でまさかの大ヒット。
以降、雨後の筍の如くマカロニ・ウエスタンは世に送り出されブームとなった。
イタリア産なので、海外ではスパゲッティ・ウエスタンと呼ばれているのですが、
ここ日本では「スパゲッティだと細くて弱々しいから」という理由でマカロニとなった。
言いだしっぺは映画評論家の故淀川長治大先生である。
で、『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』ですが、
“マカロニ”ならぬ“スキヤキ”ウエスタンということで、日本が舞台の西部劇である。
続いて、“ジャンゴ”ですが、
これはフランコ・ネロ主演のマカロニ・ウエスタン『続・荒野の用心棒』の原題であり、主人公の名前である。
そんな訳で、『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』の物語の設定は、『続・荒野の用心棒』とほぼ一緒。
というか『続』って付いているけど、『続・荒野の用心棒』は『荒野の用心棒』の続編ではなく、共に黒澤明の『用心棒』をパクッているので、『用心棒』と一緒ということになる。
※『荒野の用心棒』が黒澤明から訴えられたのは有名な話ですが、『続・荒野の用心棒』と『用心棒』の類似性は特に指摘されていない。
しかしながら、ストーリーはほとんど一緒。
壇ノ浦の戦い(1185年)から数百年後。
とある寒村に眠る秘宝を巡り対立する源氏ギャングと平家ギャング。
そして、そこへやって来た謎のスゴ腕ガンマンが繰り広げる壮絶な戦いを描いている。
火縄銃すら存在していない時代に、源義経と平清盛が銃をぶっ放す。
かなり荒唐無稽なお話なのですが、それもまた狙い。
話が凄けりゃ、キャストも凄い。
謎のガンマンを演じるのは伊藤英明。源義経に伊勢谷友介、平清盛に佐藤浩市。
その他、安藤政信、石橋貴明、木村佳乃、香川照之、桃井かおり。
そして『キル・ビル』や公開中の『デス・プルーフ in グラインドハウス』の監督クエンティン・タランティーノも出演。
さらに冒頭、誰もが知っている人がカメオ出演している。
まぁ、このカメオ出演、個人的にはいらないと思うけど。。。
とにもかくにも、新旧入り混じった日本を代表する個性派俳優が大終結している。
しかも、セリフは全て英語。
そして、これだけのキャストが揃うと一番難しくなるのが、バランスなのですが、『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』は見事な配分で出演者全員に見せ場がある。
とはいっても、最後は桃井かおりが全部掻っ攫っていく。
流石である。
さて、Made in JAPANだから“スキヤキ”と書きましたが、“スキヤキ”はそれだけの意味にあらず。
『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』には、マカロニ・ウエスタンと黒澤明へのオマージュは勿論、
シェークスピアの「ヘンリー6世」、『シェーン』などなど様々な要素がぶち込まれている。
それはまるで、肉に野菜にしらたきに豆腐と様々な具をいっぺんに楽しめるスキヤキのよう。
そして、スキヤキの肝となる“割下”を担当したのは三池崇史監督。
“世界一忙しい監督”という異名を持つ様に、多作家として有名だけど、
その分作品の出来不出来に相当のバラツキがある。
というか、不出来の方が多いので、伊藤P的には過大評価されている監督だと思う。
しかしながら、今回は、濃いキャストと濃い三池色が上手く絡まり、最高の味付けになった。
派手でグロテスクで、おかしくて、美しくて、洗練されている。
まぁ、“くだらない”を前提にした作品だから、万人受けするとは思わないけど、
個人的には三池最高傑作ですな。