“大”傑作!
だと思っていたら、毎日新聞の映画評(1月4日夕刊)で、
“失敗作”、“心理描写が判り難い”、“ブラピにカリスマ性を感じない”等と叩かれており、正月早々凍りついた。
人の感想なんてどうでもいいんだけど、
比較的自分の感性や作品の捉えどころとかも似ているし、
しっかりした鑑賞眼で作品を見ていると思っていた毎日新聞のライター陣と、
自分の感じたことがまるっきり正反対とは。。。
まぁ、良いんだけどさ。でも好きだからさ。この作品。
ということで、擁護チックに作品紹介。って、どうでも良いと思っていないな。。。
『ジェシー・ジェームズの暗殺』 1/12より丸の内プラゼールほか全国にて 配給会社:ワーナー・ブラザース映画 (C)2007 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. |
まず、ジェシー・ジェームズという人物を知っていないと、
この作品はスムーズに鑑賞出来ないでしょう。
アメリカでは英雄的な人物だから、知っていて当たり前なのかもしれないけど、
ほとんどの日本人はジェシーがどんな人だったかなんて知らない。
伊藤Pもシェールのアルバムに「Just Like Jesse James」って曲があったなぁー程度の認識で、
どんな人物か全く知らないで見た。
ついでに言うとブラピ主演の西部劇という以外の知識なし。
ジェシーが強盗団のリーダーで、犯罪者なのにも関わらず英雄視されていると知るまでに、
かなりの時間を要してしまった。
なので、これから見る人は、最低限ここは押させておくべきポイントですね。
知らないで見ると、前半何が描かれているのか飲み込めないまま、
睡魔が襲ってくるでしょう。
そして、ジェシーを英雄として慕い、ギャングの一味になることを熱望するロバート。
コイツの位置付けがもっと判らなくて戸惑った。
お前は何がしたいんだ!と。
やがて、ジェシーは足を洗って逃亡生活に入るが、
精神不安定になり、猜疑心を募らせ、おかしくなっていく。
それに呼応するかのようにロバートの心境にも変化が表れる。
この辺りから全体の構図が見てくる。
英雄視していた人物への幻滅、戸惑い、怒り、
その人を追い越し、淘汰しようとする心理。
追われる側は、それに脅え、怖れ、自分の領域を死守し、プライドを守ろうとする。
映画で言うと『イヴの総て』、
プロレスで言うと(幻滅はしていないと思うけど)、ジャンボ鶴田と三沢光晴、アントニオ猪木と藤波辰爾、
格闘技で言うと前田日明と山本宜久の構図だ。
(えっ?判り難いし、ちょっと違うって?)
しかしながら、毎日新聞でも書かれてるように、
それでも所々、二人の心情が理解出来ない部分があった。
<以降、ネタバレ的>
で、
なんとーなーく、そういう心境なのかなぁ〜という確信のない状態のまま、
丸腰のジェシーがロバートに撃ち殺される。
しかも背後から。
その後、ロバートの激白。
ここからこの作品は一気に動き出す。
ジェシーは生きても死んでもアイコンに成り得、
未だに歌にまでなる人物であるのに対して
ジェシーを殺した暗殺者は卑怯者のレッテルを貼られる。
この事実を突きつけられた時に、
ロバートの人生の儚さ、曖昧さ、切なさ、理不尽さを思い知る。
なんで、散々悪行三昧だった人物がヒーローになり、
たった一人、しかも無法者を射殺した者が卑怯者になるのか?
撃ち殺されるまでジェシーに感情移入させておいて、
暗殺後はロバートに感情移入をさせる。
この切り返しの演出にはちょっと唸った。
そして、ロバートのなんとも言えない表情のUPで終わり、エンドクレジットが始まる。
オープニングの「スコット・フリー・プロダクション」のロゴで気が付くべきだったんだけど、
リドリー・スコットが製作に名を連ねていることを知る。
リドリー=対決
だと思っているので、ここで「これは愛憎劇というよりも、二人の男の戦いだったんだ」と確信。
ジェシーはロバートと心理合戦を繰り返し、
結果、後ろから撃たれて死ぬ。
戦いに負けた。
ロバートはジェシーとの戦いに勝ったけど、
死んだジェシーの亡霊とも戦わなくてはならず、
その戦いは完全に負け。
結果、勝ったのはジェシー。(※1)
続いて、映画のタイトルがバーンと出る。
JESSE JAMESよりもROBERT FORDのフォントの方が小さい。
しかもロバートの前にはCOWARD(臆病者)が付いている。
長いタイトルにこだわった理由が良くわかった。
タイトルロゴが二人の生き様を表していることに気付かされ、
エンドクレジットが流れている間に、
ジェシーとロバートの関係性と生き方を顧みて涙が出てきた。
劇中、泣かずにエンドロールで、
今見た映画を回想してジワジワと涙を流した映画は、生まれて初めて。
善悪のいい加減さ、
人間はグレーなのだということ、
己のしてきたことに溺れ、脅え、破滅していく人間の滑稽さ。
名声を得るがために背伸びをして、失敗してしまう人間の愚かさ。
それが人間。
そして、心理描写の判らなさですが、
二人の心情が判らなくて当たり前だと思った。
ジェシーもロバートも、自分たちのことをよく判ってなかったんでしょう。
自分のことを理解している人間なんて、どれだけいるのか?
しかも二人の置かれていた環境は、正常とは言えない。
二人の心境は揺れ動いていたのだから、
見ているこっちが戸惑うのは当然であり、
監督の意図としては、そういう曖昧さや危うさも人間であり、
何を考えているかを探って欲しかったのだと解釈。
そして、鑑賞後、思い返すと「多分、こういう心境だったのだろう」に至る訳だ。
もう一度見れば、きっと違った印象を残す、そんな作品。
で、そんな心情を演じたブラピの演技は凄い。
なんでブラピの演技に対して、ベネチア映画祭で失笑が漏れたのかが良くわからん。
笑った記者に対して、伊藤Pが失笑してやる。
クスクスッ。
ケイシーは20歳にはとても見えないけど、
スゲー演技力ですよ。
ネットでロバートの写真を見たけどソックリでした。
おべっか笑いのサム・ロックウェルも良い。
でもね、ハリウッドスター然としたかっこいいブラピだけをこの作品に求めるのであれば、
見ないほうが無難でしょう。
苦しむブラピの姿に何も感じない人にはオススメしません。
そういう人は「オーシャンズ」を見てください。
苦悩するブラピも素敵、悩める男は美しいと思える、
母性本能が強い方は、OKでしょう。
単に苦しむ男を見るのが楽しいというSな方もOKでしょう。
確かに万人受けする作品ではないかもしれないけど、
個人的には早くも本年度ベスト3候補の作品。
大好きです!!
因みに毎日新聞のライター陣の師匠である、
野島孝一さんは本作を褒めていました。
(※1)
後で気が付いたのですが、これはいまのアメリカ社会にも当てはまる。
終わっていませんがイラク戦争。
アメリカが圧倒的な武力でイラクを叩きまくって、
勝っているように見えるけど実は負けている。
その後、ベネチア映画祭での失笑に関しての情報を得ましたので、
続報です。
「え?ケイシーが主演じゃないの?」ということで、
失笑が漏れたそうです。
つまり、ブラピに対して失笑が漏れたのでもないし、
“失敗作”にしか見えない映画に賞を贈った審査員の判断に対してでもないということですね。
それから、『ジェシー・ジェームズの暗殺』の各賞の評価です。(1月9日現在)
●ゴールデン・グローブ賞 助演男優賞(ノミネート)
●サテライト賞 助演男優賞 撮影賞 美術賞 作曲賞(ノミネート)
●ナショナル・ボード・オブ・レヴュー賞 助演男優賞 作品トップ10(受賞)
●ブロードキャスト映画批評家協会賞 助演男優賞(ノミネート)
●シカゴ映画批評家協会賞 助演男優賞 撮影賞 作曲賞(ノミネート)
●サンフランシスコ映画批評家協会賞 作品賞 助演男優賞(受賞)
●ロンドン映画批評家協会賞 作品賞 男優賞(ノミネート)
●ベネチア国際映画祭 最優秀主演男優賞(ブラッド・ピット:受賞) 撮影賞(受賞)
●全米映画批評家協会賞 助演男優賞(受賞)
●シカゴ映画批評家協会賞 助演男優賞(ノミネート)撮影賞(受賞)
●ラスヴェガス映画批評家協会賞 作品トップ10 4位
●デトロイト映画批評家協会賞 助演男優賞(ノミネート)
●サウスイースタン批評家協会賞 助演男優賞(ノミネート)作品トップ10 7位
●ダラス フォートワース批評家協会賞 助演男優賞(ノミネート) 作品トップ10 9位
●セントルイス映画批評家協会賞 作品賞(ノミネート)助演男優賞(受賞)撮影賞(受賞)作曲賞(ノミネート)
●フロリダ映画批評家協会賞 撮影賞(受賞)
●ユタ映画批評家協会賞 助演男優賞(ノミネート)作品トップ10に選出
●ヒューストン映画批評家協会賞 撮影賞(受賞)
●トロント映画批評家協会賞 助演男優賞(ノミネート)
●オンライン映画批評家協会賞 助演男優賞、撮影賞(ノミネート)→発表2月8日
●インディアイワー映画批評家協会賞 作品賞トップ10 7位
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