1970年代初頭のニューヨーク。
麻薬ビジネスで財を成し、ハーレムを仕切るまでに成長したギャングのボス、フランク・ルーカス。
麻薬ルートを解明し、フランクを追い詰める熱血漢刑事リッチー・ロバーツ。
二人の闘い、そして、生き様をリドリー・スコット監督が丹念に描いた大作だ。
『アメリカン・ギャングスター』 2/1より日劇1ほか全国にて 配給会社:東宝東和 (C)2007 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED. |
大してアクションシーンもないのに、
ドラマだけで2時間37分見せきってしまう。
常に対決を描き続けたリドリーの面目躍如。
暗黒街を扱った作品は、対決の構図が作り易いけど、
意外にもリドリーはこのジャンルを描いたことがなかった。
『暗黒街の顔役』(ハワード・ホークス監督)
『バラキ』(テレンス・ヤング監督)
『ゴッドファーザー』シリーズ(フランシス・フォード・コッポラ監督)、
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(セリジオ・レオーネ監督)、
『スカーフェイス』、『アンタッチャブル』(ブライアン・デ・パルマ監督)
『ミラーズ・クロッシング』(コーエン兄弟)
『バグジー』(バリー・レヴィンソン監督)
『ロード・トゥ・パーディション』(サム・メンデス監督)
と言ったように、名だたる巨匠・名匠がこのジャンルで作品を残し、
高い評価を得てきた。
そして、遂に2006年度のアカデミー賞で、『ディパーテッド』が作品賞と監督賞を受賞。
『グッドフェローズ』、『ギャング・オブ・ニューヨーク』等、
再三ノミネートで終わっていたマーティン・スコセッシが、遂にオスカー像を手にした。
受賞式で年甲斐もなく大はしゃぎするマーティンを見てリドリーは、
「『グラディエーター』が作品賞に輝いたが、監督賞は受賞していない。
3度もノミネートされている。ナイトの称号も得ている。
トロフィーを飾る棚に無いのは、監督賞のオスカー像だけだ!
お、俺も欲しい!!!しかも俺の方がマーティンよりも年上なんだぞ!!」
って思ったに違いない。
しかし、2007年度アカデミー賞、『アメギャン』は冷遇された。
助演女優賞のルビー・ディーと美術賞ノミネートのみ。
やはり2年連続同ジャンルってのが災いしたか。。。
フランクを演じたデンゼル・ワシントンも、リッチーを演じたラッセル・クロウも良い。
ただ、もうこの二人の場合、良い演技が出来て当たり前の領域だから、
更に上を求められちゃうんでしょう。
あと、フランク・ルーカスは否定しているけど、本作は実録ものだから、
事実を追いかけざるを得ない。
よって、過剰な味付けが出来ないためドライな演出になり、
見る者をグッとさせる何かが欠けてしまったように思う。
フランクのキャラクターもグッとこない要因として挙げられる。
フランク・ルーカスはギャングスターだ。
そう、ギャングなんですよ。
ギャングとマフィア。
これは同義語ではない。
マフィアはそもそもイタリアのシチリア島の犯罪秘密結社コーザ・ノストラに由来する。
イタリアではマフィア=コーザ・ノストラだ。
マフィアはギャング以上に、組織化された犯罪集団で、
警察、政治家、裁判官、芸能界までにも勢力を及ぼし利用する。
そして、何よりも掟の厳守が義務付けられている。掟を破れば、あるのは死のみだ。
逆に言えば結束力が強い。
ファミリーである。
フランク・ルーカスも周りを身内で固めるが、
ミスを犯した者への制裁は身内だろうとなんだろうと冷徹だ。
しかも窮地に陥ると家族よりも金になる麻薬ルートを守ろうとする。
血縁よりも金と地位を優先するギャングスターだ。
仁義・任侠が好きな日本人にはちょっと合わない。
ラッセル・クロウが演じたリッチー刑事も、
不正を嫌う真面目男だが、女にだらしなく、家庭もボロボロ。
人間味があるといえばあるんだけど、
そのダメさが反って、感情移入の邪魔になる。
だから『アンタッチャブル』のような、判り易い勧善懲悪にもならない。
また、敵対する者同士だけど、
「お前、やるなぁー」的なお互いの認め合い、尊重もない。
敵ながらアッパレ!
違う形で出会っていれば・・・
というような男の友情系だけでももう少しあればなぁーという感じ。
とはいうものの、素晴らしい映画であることには変わりない。
徹底したリアリズムは、ケチのつけようが無い。
役者もみんな良い。
70年代の雰囲気も良く出ている。
デンゼルとラッセルという2大オスカー俳優が対峙するシーンとかは、
久しぶりに俳優の顔合わせだけでゾクゾクさせられた。
悪徳警官を演じたジョシュ・ブローリンも良い味出している。
『プラネット・テラー in グラインドハウス』、『ノーカントリー』、
そして本作と、立て続けに最高の存在感だ。
元グーニーズ!頑張れ!!
君しか残っていない!!
(マイキーもホビットで頑張っているけど)
しかも嫁さんは我が世代永遠のクィーン、ダイアン・レイン!
(ついでにいうと、継母はバーブラ・ストライサンド。スゲー一家だ)
フランクとリッチーが手組んで、ジョッシュを追い詰めるパートを、
事実関係にこだわらず、もっとエンターテイメント風に描いたら、
面白い作品が出来るような気もするな。
PS:
フランク・ルーカスって、
『No Country For Old Men』をリアルに体現しているような気がした。