2008年02月27日更新

裏#52 『明日への遺言』

大戦中、捕虜殺害を命じ、戦後、B級戦犯として罪に問われた岡田資(たすく)中将。
部下の命を救うため己の信念を貫き、全ての責任を一身に負おうとする岡田中将
の姿を描いた人間ドラマ。




明日への遺言
『明日への遺言』
3/1より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にて
配給:アスミック・エース
(C)2007『明日への遺言』製作委員会




申し訳ないけど、とてつもなく退屈だった。


後日、別の試写室で著名な女性映画評論家が、本作品を大絶賛していた。
さらに昔から参考にさせて頂いている野島孝一さんも褒めていた


プロのベテラン評論家が賛辞を惜しまない『明日への遺言』。


それでも伊藤Pはつまらなかった。


自分も含めてですが、今の日本は責任逃れが当たり前。
悪いことをしてそれがバレても、責任を取らずに適当にあしらって、
スルスルとすり抜けてノウノウと生きている人が多い。


それに対して、岡田中将は戦後の混乱期にも関わらず、
毅然と裁判に立ち向かい、そして、きちんと自らの戦争責任を負おうとする。


その生き様は、確かに素晴らしいと思うし、自分に出来るかと言ったら出来ないよ。
主演の藤田まことさんが言うように「理想のリーダー像」なのかもしれない。


そう、岡田中将の信念とかは良いんですよ。


でもそれを描く映画としてはどうなの?って。


冒頭の記録映像を使ったナレーション。
興味深い話なんだけど、冒頭からニュース映像的なもの見せられてガクッと落ちた。


『男たちの大和/YAMATO』とかもそうだったけど、日本映画はこういうナレーショ
ン手法しか取れないのかな?
ドラマの中に状況や説明を盛り込むことは出来ないのかな?


次いで始まる法廷シーン。


事前にどんな作品かも調べずに見たからか、
それとも伊藤Pに読み解く力がないからか、
軍事裁判の論点がイマイチわからなかった。


まぁ、多分、後者なのでしょうが、知識ゼロで見る作品じゃないね。
主人公がどんな人なのかは知っておいて方が、
より本作の理解が深まると思います。


あと、文字にしたら理解できるのかもしれないけど、
口語としては難しいんじゃないの?って言葉が結構バンンバン出てくる。


で、この裁判シーン、延々と続く。
一息つけるような逃げの展開がないので、
息苦しくて仕方なかったっす。


やっと法廷シーンが終わったかと思うと、
今度は岡田中将が収監されている1室での日常シーン。


その部屋、何畳ですか?


く、苦しいよぉ〜。


そして、風呂場で部下と一緒に歌を歌いだすシーンでは、
なんだか白けてしまった。
本当にこういう交流があったのかもしれないし、
年配の方々はグッとくるのかもしれないけど、
我々の世代にはこういう演出はいまいちピンと来ないと思う。


その後の
岡田中将と弁護士との交流、
岡田中将と妻とのやりとり、
岡田中将が孫に見せる笑顔。


どれもこれもが想定内。
全く意外性がない。


そして、富司純子さんが演じる妻の心情がナレーションで語られる。


ずっこけた。
もう日本映画でナレーション用いた感情表現は禁止!!


さらに岡田中将の罪を死刑から終身刑に減刑するという恩赦の存在が、
最後の方で明らかになる。
これもナレーション。


結局、マッカーサーが判を押さずに、岡田中将は死刑となる。


自分は演出家じゃないからわからないし、
いろいろと映画製作において事情はあるのだろうけど、
例えば、岡田中将の軍事裁判劇をメインに置きつつ、
恩赦が受理されるかされないかの動向をサイドストーリー的に追っていくってのはどう?


その両方を見せられた観客は、もしかしたら減刑されるかも!?という期待を寄せる。
だって、岡田中将は全責任を一人で負おうとしているんだよ。
本人は望まないかもしれないけど、我々としては岡田中将を助けたいじゃない。
こっちの方がドラマチックでドキドキする。


岡田中将の裁判の過程と、
恩赦のいきさつを平行して描けば、恩赦が受理され絞首刑に処せられた時、
高潔に散っていた岡田中将に対して、観客は無念の思いをより強く持つと思う。


実はロバート・デ・ニーロ監督作品の『グッド・シェパード』を見た直後に、
『明日への遺言』を見た。


この2作品、テーマは違うけど軸になる話の周りに歴史・妻・子供・仲間・事件
を配置して、
一人の男の生き様を浮き彫りにするという点では似ていると思う。


だから『グッド・シェパード』の様に、ナレーションも記録映像も使わないで、
もっとスリリングにドラマチックに描くことが出来たんじゃないかな?って。


まぁ、予算とか撮影期間とかロケーションとかいろいろあるのでしょう。


小泉堯史(たかし)監督が長い年月、苦労を重ねやっと完成に漕ぎつけた作品であり、
藤田まことさんもこの役に凄まじい情熱を注いでいる。
それは重々承知しているつもり。


作品の性質上、ドラマチックに描く必要もないし、
観客には無念さよりも、潔さを感じて欲しかったのかも
淡々としている方がより情感に訴えるのかもしれない。


どうやら伊藤Pには、『明日への遺言』を咀嚼して感銘を受けるまでの鑑賞力は、
まだ身についていないようだ。


好き勝手言ってすんませんでした。






『明日への遺言』
※スティーブ・マックィーンの息子が検事役で出演!
  フレッド・マックィーン インタビュー 動画テキスト

※弁護士と裁判長
  ロバート・レッサー&リチャード・ニール インタビュー テキスト

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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