数々の名曲を世に生み出した<生ける伝説>ボブ・ディラン。
ミュージシャン、詩人、俳優、監督など、
ボブ・ディランが持つ様々な人格を投影した6つの役柄を、6人の俳優が演じ分けている。
※クリスチャン・ベイルは2役なので、正しくは7人のボブ・ディランだと思うけど、
資料には6人と書かれている。
『アイム・ノット・ゼア』 4/26よりシネマライズ、シネカノン有楽町2丁目ほか全国にて 配給会社:ハピネット、デスペラード (c)2007 VIP Medienfonds 4 GmbH & Co.KG/All photos - Jonathan Wenk |
分類としては難解。
6人の俳優がボブ・ディランを時代ごとに演じているけど、時系列はメチャクチャ。
あっちに行ったり、こっちに行ったりする。
こんな内容だとは知らなかったので、少々面食らった。
それでも2時間16分、退屈せずに見れちゃうのは、
ユニークな発想と白黒含めた色彩の豊かさがあるからか?
ポップなところがあって、
60年代のリチャード・レスター監督(ビートルズ映画、『ナック』)ぽい雰囲気。
そして、リチャード・ギア、故ヒース・レジャー、クリスチャン・ベイルなど、
ボブ・ディランを演じた俳優たちの演技に因るところが大きいでしょう。
特にケイト・ブランシェット。
やっぱり凄いわ。
あと、ボブ・ディランの知識がある程度ないと、難解度が増すと思う。
伊藤Pはボブ・ディランの熱狂的なファンではない。
アルバムを数枚持っているのと、
彼にまつわる有名なエピソードをいくつか知っている程度だ。
知っていることは、そのエピソードが出ればモロにリンクしたんだけど、
それ以外は何かモチーフになる出来事や人物がいたのだろうと勝手に想像した。
脚本と監督を務めたトッド・ヘインズは、元々ディランのファンだった。
ディランの神秘的な側面に興味を持ち本作に取り掛かった。
その際、誇大な資料に目を通し、そこからインスパイアされたものが、
映画に反映されている。
つまり、本作はボブ・ディランを知り尽くしたトッド・ヘインズ監督の中にある、
ボブ・ディランの様々なイメージを映像化している。
あくまでも監督の解釈とイメージなので、ボブ・ディランの全てを、
そして、事実を語る必要がない。フィクションである。
なので、幾らでも飛躍できるし、難解にも出来る。
監督のイメージと歴史的事実と自分の知っているボブ・ディラン像が、
ゴチャゴチャに介在することになるので、訳がわからなくなる。
もちろん、これは監督が狙っていることだ。
ということで、全くボブ・ディランを知らないと、
かなりきついと思われ、最低限の予習として下記、
『アイム・ノット・ゼア』を見る前に押さえておくべきポイントです。
年 | 出来事 | 関連 |
1941 | ミネソタ州で生まれる。学生時代にランボーら象徴主義詩人の影響を受ける。 | アルチュール(ベン・ウィンショー) |
1959 | 大学卒業後、放浪の旅に出る | アルチュール(ベン・ウィンショー) |
1961 | 尊敬するフォーク・シンガーのウディ・ガスリーを見舞うため病院を訪ねる。フォークだけでなく、ロバート・ジョンソンらブルースにも影響を受ける。 | アルチュール(ベン・ウィンショー) |
1962 | 『ボブ・ディラン』でデビュー。 | ジャック(クリスチャン・ベイル) |
1963 | 社会派フォーク・シンガーとして注目を集め、女性フォーク・シンガーのジョーン・バエズと交流を持つ。 | ジャック(クリスチャン・ベイル) |
1964 | ビートルズのメンバー、特にジョン・レノン、ジョージ・ハリソンと交流を深める。 | ジュード(ケイト・ブランシェット) |
1965 | ニューポート・フォーク・フェスティバルでエレキ・ギターを持って登場、演奏し、大ブーイングを浴びる。ファッション・モデルのサラ・ラウンズと結婚。 | ジュード(ケイト・ブランシェット) |
1966 | マンチェスターでの公演で、観客から「ユダ!(裏切り者)」と罵倒される。 アンディ・ウォーホルのミューズ、イーディ・セジウィックと恋に落ちるも破局。 オートバイ事故に遭う。 | ジュード(ケイト・ブランシェット) |
1967 | 死亡説などが流布する。ツアーを追ったドキュメンタリー映画(監督も務める)が公開されるも酷評。『ジャン・ウェズリー・ハーディング』で復帰。 | ロビー(ヒース・レジャー) |
1973 | 『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』に出演、音楽を担当。 | ビリー(リチャード・ギア) |
1977 | サラと離婚。 | ロビー(ヒース・レジャー) |
1979 | キリスト教に傾倒し、キリスト教3部作と呼ばれるアルバムを発表。 | ジョン牧師(クリスチャン・ベイル) |
1983 | ここから数十年間、スランプに陥る。 | ビリー(リチャード・ギア) |
あと、登場する女性ですが、
サラ・ラウンズ≒クレア(シャルロット・ゲンズブール)、
ジョーン・バエス≒アリス・ファビアン(ジュリアン・ムーア)、
イーディ・セジウィック=ココ・リビングストン(ミシェル・ウィリアムズ)、
ということも把握しておいた方が良いでしょう。
(イーディに関しては【伊藤Pの部屋】#210 『ファクトリー・ガール』参照)
傑作『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』の有名なアルバム・ジャケットで、
ボブ・ディランに寄り添っているスージー・ロトロも、
シャルロット・ゲンズブールが演じている。
クレアはサラとスージーが投影されていると思われる。
と、ざっとボブ・ディランをまとめましたが、
それでも本作を全部理解することは困難かな。
リチャード・ギアは監督に、意味が判らないと質問しまくったという。
それでも決してつまらないわけではないので、
是非見て欲しいと思う一本。
“判らなくても良い”を前提に見てみよう。
こういう作品は久しぶりだ。
ヒース・レジャー曰く、
「脚本?全然理解できなかったよ。
分析などせずに旅を楽しんでほしい。分析は邪魔だ」
そもそも人間なんて誰であっても、
他人の全てを理解なんか出来るわけがない。
人は常に移り往く。
だから捉えどころがない。
「I'M NOT THERE」。
『アイム・ノット・ゼア』 ※ヒース・レジャー、トッド・ヘインズ監督 インタビュー 動画 |
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「アイム・ノット・ゼア」★★★
ケイト・ブランシェット 、ヒース・レジャー 、リチャード・ギア 主演
トッド・ヘインズ 監督、アメリカ、2007年、1... [詳しくはこちら]
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プロフィール
伊藤一之<♂>
2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。
本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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