「傑作でした」
鑑賞後、宣伝担当の方に送った感想なのですが、この一言だけだった。
『歩いても 歩いても』 6/28よりシネカノン有楽町1丁目、アミューズCQN、新宿武蔵野館ほか全国にて 配給会社:シネカノン |
父、母、娘、娘の結婚相手と子供、
息子、息子の妻とその連れ子。
夏。15年前に溺れた子供を救うも、自らの命を落としてしまった長男の命日。
横山家に集まった人々たちが織り成す“家族像”。
たった1日。
なんの事件も起こらない。
なのに見る者の感情を激しく揺さぶる。
しかも、“家族って良いよね”みたいな単純なものではなく、
愛おしくて、煩わしくて、厄介で、時に残酷な“家族”が描かれる。
それ故なのか、自分の体験と重ね合わせ、様々な感情が沸きあがり、
ひとつひとつのエピソードにいちいち刺さりまくる。
久しぶりに実家に帰ってきた息子が、土産のスイカを冷やすために風呂場へ行く。
風呂場には前は無かった手摺が付けられ、タイルも剥がれている。
この描写にセリフはないし、短いカットだ。
でも観客は多くの事柄を感じ取る。
風呂場だけでなく、湯沸かし器、
物が雑然と詰め込まれ物置と化した部屋、
縁側、縁側の下のスペースに仕舞い込まれた瓦、
四角型の電気の傘、テーブル、玄関の置かれた懐中電灯など、
横山家に置かれたあらゆる物が自分の記憶にリーチしまくる。
家族間の会話も「仕事はうまくいっているのか」とか、
どこにでもある会話なんだけど、
“あぁ、オレもオヤジと会えば必ず聞かれたな”って思い出す。
孫たちのためにアイスを買ってきた時の、
母、娘、その子供たちの会話とかも、
“あぁ、あったなぁー、こういうやりとり”ってなる。
夫婦、父と息子、母と娘、嫁と姑。
それぞれの人間関係が巧みに描き出されているから、
見る人によって“あぁ、わかる!”というセリフも違うことでしょう。
脚本が上手いよ。
その他、頻繁に登場する階段や坂。
昇って降りての繰り返し。
これは「水戸黄門」の主題歌だ。
役者も良い。
実は、伊藤Pが今一番好きな日本人の俳優は阿部寛。
シリアスからコメディ、そして時代劇までこなすキャパシティの広さと、
その順応性は凄いと思う。
しかもどの役もしっかり“阿部寛”を主張している。
どちらかというと“濃い”役が多かったけど、
本作ではどこにでもいる男を演じている。
そして、見事にはまっている。
はまっているといえば、母親を演じた樹木希林。
今更、演技が上手いとかいう女優さんではないが、
あえて言う。
“上手すぎる”
この母親、優しくて世話好きで温厚そうに見えるけど、
とあるシーンで一瞬見せる表情と発言は、背筋がゾクッとするほど怖い。
今年一番のホラーシーンだった。
そう感じさせてしまう樹木希林は、怖いほど上手すぎる。
息子の嫁に対して発する、
無意識なのか意図しているのかわからない様な心無い発言とか、
この母親の多面性が見え隠れする。
で、この母親が取る行動がまた、“あぁ〜”ってなる。
例えば、娘に料理を任せられないとか、
お墓の脇の雑草をむしるとか、
物を捨てられないとか....
インタビューした際に阿部寛さんが、
「どう説明したらいいのかわからないぐらい、良い映画」
と言っているのですが、まさにその通りの作品。
こうやってなんでもない日常を切り取って見せて、
見た人にいろんな“心のお土産”をくれる映画って、
本当に凄いと思う。
たった1日の話なのに、人生を感じさせてくれる、
とてもとても奥深い映画。
感銘を受けまくったけど、多分、伊藤Pも、
阿部寛演じる息子の様に、
「結局、間に合わなかった」って言い訳するような気がする・・・
『歩いても 歩いても』 ※阿部寛 インタビュー 動画 & テキスト |
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» 「歩いても歩いても」完成度は高いが、映画的な驚きは無い 送信元 soramove
「歩いても歩いても」★★★☆
阿部寛 、樹木希林 、夏川結衣 、原田芳雄 、YOU 出演
是枝裕和 監督、114分、2008年
兄の命日... [詳しくはこちら]
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プロフィール
伊藤一之<♂>
2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。
本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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