今年はアメリカン・ヒーローが活躍する映画が多い。
以前、『スーパーマン・リターンズ』の時にちょっと触れましたが、
アメコミ・ヒーローたちは、歴史の浅いアメリカにとって国を代表するヒーロー、
つまりシンボルとして例えられることが多い。
それはヒーロー達が国を背負うと言うことでもある。
なので、この夏のヒーローたちとアメリカを照らし合わせてみると、
今のアメリカが浮き彫りになる。
以下、かなり強引なところもあるけど、
そこに着目してヒーローとアメリカの関係を紐付けてみよう。
各作品の核心部分に触れているところもあり、ネタバレもあるので、
読まれる際はご注意下さい。
■『ハンコック』
全国にて公開中 配給会社:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント |
ハンコックはアメコミ出身のヒーローではなく、映画オリジナルのヒーロー。
それゆえ、アメコミ・ヒーローを映画化する際に発生する、
キャラクターのイメージ像やルールに囚われることなく自由に物語を作ることが出来る。
超人的なパワーを持つハンコックは事件を解決しようとする度に、
かえって事態を悪化させ、国民から嫌われてしまう。
これはことあるごとに国際問題に首を突っ込み、
逆に事態を悪くさせ嫌われたアメリカと重なる。
そして、ハンコックは真面目にヒーローとして活躍するようになるのだが、
コスチュームには白頭鷲がデザインされている。
白頭鷲はアメリカの国鳥だ。
更にハンコックには強敵(ボスキャラ)が存在しない。
ファシズム、共産主義、中東、テロリズムと常に敵を求め、戦い続けて来たアメリカだが、
現在、敵が見つけられていない。
『ハンコック』最大の見せ場は、実はハンコックと同じようなパワーを持つ、
シャーリーズ・セロン演じるメアリーとの戦いだ。
戦いと言っても、この2人の戦いは、どちらかを殺すような類のものではなく、
夫婦喧嘩や痴話喧嘩に近い。
黒人のハンコックと白人女性のメアリー。
ある意味共有意識を持つ2人は一回ドカン!と大喧嘩をかました後、和解(?)する。
アメリカ国内で繰り広げられる黒人VS白人女性。
そして、その後のフレンドシップ。どっかで見たことが・・・
ハンコックとメアリーをちょっと苦しめる人たちが出てくる。
で、この人たちを共和党と考えると・・・
※伊藤P『ハンコック』の感想
■『ダークナイト』
全国にて公開中 配給会社:ワーナー・ブラザース映画 TM & (C) DC Comics (C) 2008 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved |
まず、バットマンが活躍するゴッサム・シティを世界の縮図と考えてみる。
バットマンはゴッサム・シティの悪を正すため戦うが、やがてジョーカーが出現する。
ジョーカーはバットマンが登場したことによって、現れた宿敵だ。
つまりバットマンがいなければ、ジョーカーも存在しない表裏一体の間柄。
アメリカは正義をかざして多くの世界の紛争に関与してきた。
そして、アルカイーダという反米テロ組織の台頭を生んでしまう。
映画『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』で描かれているように、
アメリカはソ連のアフガン侵攻で苦しんでいるアフガニスタンの民に武器を与えた。
善意で行ったこと(本当は反共のためだけど)が、アルカイーダを生む要因となり、
バットマンがジョーカーに悩まされる様に、散々、手を焼くことになる。
『ダークナイト』で、バットマンはジョーカーを捕らえるが、宙ぶらりんのまま放置する。
これは未だに逃げおおせているビン・ラーディン、
そして、解決をみない中東情勢と重なる。
因みに執事のアルフレッドは、ブルース・ウェインに忠告する。
「止めておけ、あなたにジョーカーは倒せない」ってね。
バットマンは夜の騎士として闇の活動をすることを決意するところで映画は終わる。
世界のメインストームを突き進んできたアメリカの今後を暗示させるかのようだ。
『ダークナイト』に関しては、突き詰めるともっと色々と出てくると思うけど、
ディープになりそうなんで止めておこう。
というか、そこまで語れねぇーって・・・
※伊藤P『ダークナイト』の感想
■『インクレディブル・ハルク』
全国にて公開中 配給会社:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント |
実はこの作品が一番シックリこないのでかなりこじつけ。
ブルース・バナーは心拍数が200を越えるとハルクに変身し、抑制不能に陥り暴れる。
心拍数200の沸点を9.11として、ハルクをアメリカに見立てれれば、
なんとなーく通じるものがある。
そして、『インクレディブル・ハルク』は暴れるハルクよりも、
暴れた後のブルース・バナーの戸惑い、
ハルクに変身しないための対処の方に重点が置かれている。
様々な自制と葛藤を経て、最終的にブルース・バナーは愛する者を守るため、
自分の運命を受け入れ、自らの意思と感情操作でハルクに変身し、敵と戦う。
今、アメリカは誰のために戦っているのか?
本来守るべきモノはなんなのか?
ちゃんと制御できているのか?
また、今回、ハルクと対峙する強敵アボミネーションが登場する。
アボミネーション誕生の経緯は、バットマンとジョーカーの関係性に近い。
まぁ、ブルース・バナーは好きで得意体質になったわけじゃないけどね。
※伊藤P『インクレディブル・ハルク』の感想
■『アイアンマン』
9/27より日劇3ほか全国にて 配給会社:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (C)2008 MVLFFLLC. TM & (C) 2008 Marvel Entertainment. All Rights Reserved. |
『アイアンマン』に関しては、アイアンマン=アメリカという方程式がそのまま当てはまらない。
でも今のアメリカ社会をもっとも反映しているように思う。
トニー・スタークは軍需産業で財を成した勝ち組の人物だが、
アフガニスタンで武装テロ組織に拉致られ、自分の会社が製造している兵器が、
テロリストの手に渡っているという事実を知り驚愕する。
厳しい監禁生活を経て、何とか脱出し、アメリカに帰国したスタークは、
軍需産業からの撤退を表明。
平和のために1人、パワードスーツの制作に情熱を燃やし始める。
兵器を作ることに何の疑問も持たず、悠々自適にセレブ生活を送っていたスタークが、
現実を目の当たりにして改心する。
誇り、愛国心、忠誠心を持って、イラク戦争に従事したアメリカ兵たち。
しかし、イラクで凄惨な現状を突き付けられ、戦争の意義を自問自答し、
良心の呵責に苦しんだ兵士たちもいる。
ポール・ハギスの『告発のとき』、ブライアン・デ・パルマの意欲作『リダクッテド/真実の価値』など、
戦争の悲惨さを体験した兵士たちの苦悩を描き、戦争の是非を投げ掛ける作品があるように、
今、アメリカはイラク戦争の意義を見失いつつある。
問題の大量破壊兵器も見つかっていない。
アメリカのためになんの迷いもなく兵器を作り続けたスタークと、
イラクという異国の地で戦闘を繰り広げた兵士たち。
共に信念を持っていたのだが・・・
また、先述の通り、アフガニスタンのテロ組織の礎を築かせたのはアメリカである。
(もしかしたら大量破壊兵器は見つかったんだけど、made in USAだったとか!?)
これら、現実社会の事実とトニー・スタークが知った事実は、モロにリンクする。
スタークは強い力を持つ人物だが、一市民であることには変わりない。
だから、スタークが自分のやっていたことは間違っていたと声明を出す行為は、
今のアメリカの戦争に対する世論を代弁しているのではないだろうか?
そして、更に『アイアンマン』が今のアメリカの物語っているなぁーと思うのが、
敵の切り替え。
アイアンマンの敵=スタークを拉致した武装テロ組織。
この流れで物語は進んでいくのだが、途中でアイアンマンの敵が変わる。
武装テロ組織ではなく、本当の敵が登場するのである。
しかもその敵はアメリカ国内にいる。
外に向けられていた目が、突然、内に向けられる。
これもアメリカの世論に因るものか?
といった感じで、ザッとですが、アメリカン・ヒーローとアメリカの関係性を述べてみました。
勿論、各作品の製作者たちが、このような意図や意識を持って作ったかどうかはわかりません。
だけど、かつて勧善懲悪であったアメリカン・ヒーローたちが、
現在、苦悩するヒーローとして描かれることが多くなってきているのは事実だ。
世界をリードしてきた大国アメリカが、2000年代に入ってから急速に失速し、
迷走しているのも事実。
まぁ、どの作品もエンターテイメント作品なんで、
こんな講釈はいらん!ってことで、楽しめると思うけど、
この悩めるアメリカン・ヒーローとアメリカの関係を踏まえた上で見たら、
新たな発見が得られるかもしれない!?
映画を見るひとつの楽しみになれば、これ幸い。
今まで各スタジオに跨っていたマーベル・コミックの実写映画化だが、
『アイアンマン』、『インクレディブル・ハルク』は、
マーベルが自らスタジオを立ち上げて、製作した作品だ。
この後も『アイアンマン2』、『X−MEN』のスピンオフ『ウルヴァリン』が控えている。
更に、マーベルコミックのヒーローたちが集結する『アヴェンジャーズ』の製作も噂されている。
その布石となるべく、『アイアンマン』と『インクレディブル・ハルク』には、
関連性を示す人物が登場する。
今後も引き続き作られるアメリカン・ヒーロー映画。
それらの作品を見る時に、ちょっとだけ“アメリカ”を意識してみては?
※GyaO「最新映画ナビ」 “ヒーロー映画特集”
※『ハンコック』ウィル・スミス&シャーリーズ・セロン インタビュー & 取材記
※『ダークナイト』クリスチャン・ベール インタビュー & 取材記
※『インクレディブル・ハルク』エドワード・ノートン インタビュー & 取材記
※『アイアンマン』ロバート・ダウニーJR. インタビュー(近日UP) & RDJ関連記事