強盗を企てるも失敗に終わり、窮地に陥る兄弟の姿を描いたサスペンスフルな人間ドラマ。
『その土曜日、7時58分』 10/11より恵比寿ガーデンシネマほか全国にて順次公開 配給会社:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント |
監督は巨匠シドニー・ルメット。
日本では1999年シャロン・ストーン主演の『グロリア』以来の登場。
<その間、テレビドラマや短編、「Find Me Guilty」('06 未)を手掛けている>
84歳にしてこんなに濃厚な作品を撮ってしまうんだから、改めて凄い監督だと思う。
いきなりフィリップ・シーモア・ホフマン演じるアンディと、
マリサ・トメイ演じるジーナのセックス・シーンから始まる。
43歳(撮影時)とは思えない肉体を持つマリサ・トメイの美尻に、
ホフマンのメタボーな腹がボテッと乗っかる。
このインパクトのあるセックスの体位(バック)は、
二人の夫婦関係を実は表しているってことが追々判ったりする。
タイトルに続き、強盗シーンを淡々と描いた後、突然のフラッシュバック。
以降、時系列を行ったり来たりしながら、
アンディが弱気な弟ハンクに強盗の計画を持ちかけ、犯行に至るまでの過程、
金が必要だった理由、
強盗失敗がもたらす悲劇の連鎖を克明に描いて行く。
犯罪そのものを描くだけでなく、キャラクターを深堀し、
兄弟・親子の確執、夫婦間の問題といった人間関係を炙り出していく演出は流石だし、
状況に応じて様々な感情を表現する俳優陣も素晴らしい。
フィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク、
アルバート・フィニー、マリサ・トメイ...
怒り、驚き、憎しみ、妬み、悲しみ、絶望感、焦燥感、喪失感がビシビシと伝わってくる。
はっきり言って、アンディが考えた犯罪計画はヌルイ。
弟のハンクの性格を理解しているのなら、もう少し綿密に計画を立てるべきだし、
心のケアもしておくべきだろう。
それでも自身に危機が迫り、早急に金が必要となるアンディの状況を考えれば、
焦りも出てくるだろうという推測が出来る。
ハンクもボビーを勝手に仲間に引き入れ、
これから強盗に行くという朝、ボビーの同居人に堂々と姿を見られる。
かなり無防備で軽率な行動だ。
でも頭の悪いハンクならそこまで注意を払わないだろうって思えてしまう。
普通だったら「おいおい」って引っかかってしまうようなエピソードに説得力を持たせ、
観客を納得させるのは、キャラクター設定と役者の演技かなと。
12人の陪審員を明確にキャラクター分けした『12人の怒れる男』。
警察の腐敗を内部告発し、孤立無援となってしまった刑事の孤独感を描いた『セルピコ』。
無計画に銀行を襲った強盗が主人公の『狼たちの午後』。
視聴率を稼ぐためTV局の女重役が、ノイローゼになったTV司会者を利用しまくる『ネットワーク』。
『セルピコ』同様、警察内部の汚職を描き、
汚職警官と内部捜査官の心理合戦が白熱する『プリンス・オブ・シティ』。
これらシドニー・ルメットの代表作の要素が、
『その土曜日、7時58分』には散りばめられている。
そして、ルメット監督は既に新作に取り掛かっている。
まだまだ現役バリバリだ。
引き続き、硬派な映画を撮り続けて欲しい。