昨晩、『純喫茶磯辺』のプロデューサーであるムービー・アイの小出健氏と、
吉田恵輔監督と飲む機会を得た。
小出氏とは同じ学年、吉田恵輔監督とは1つ違いなので、3人とも同世代だ。
『純喫茶磯辺』を見た時に、同世代であるプロデューサーと映画監督が、
こんなにも素晴らしい作品を作り上げたことに少々衝撃を受けまして、
元々面識のあった小出氏に懇願して、一席設けてもらった。
吉田恵輔監督には、『純喫茶磯辺』の公開時に、
キャストの仲里依紗ちゃんと一緒に取材させてもらったんだけど、
その時は前の取材が押しまくって、結局取材時間10分以下となってしまった。
しかも、2媒体による合同取材。
ツーショットで、合同取材で、動画カメラ回していて、
10分以下ってのは無いんちゃう?って。
伊藤Pは元宣伝マンなんで、取材を組む側の苦労もわかっているつもり。
取材は水モンなんで、滅多なことでは腹が立たないんだけども、
流石に文句のひとつも言いたくなったね。
そんな経緯もあったんで、今回、いろいろと話を聞こうってね。
『純喫茶磯辺』や過去作の『なま夏』、『机のなかみ』といった吉田恵輔監督作品には、
いくつかの共通点が見受けられる。
オッサンと高校生が主人公。
オッサンの悲哀が描かれている。
都合の良い様に物事を解釈して失敗するという、おめでたい自滅型のオッサンである。
『なま夏』の主人公・益雄(三島ゆたか)は、高校生(蒼井そら)に執着し、
ストーカーチックな行動に出る。
『机のなかみ』の家庭教師・馬場は、教え子の高校生・望に対して、
あわよくば、ものにしてやろうと下心を丸出しにする。
『純喫茶磯辺』でも、喫茶室を経営する磯辺裕次郎(宮迫博之)は、
バイトの素子(麻生久美子)に手を出そうとする。
ストーカー行為とか、高校生に手を出すとか、
多感な時期の娘がいるのにバイトの女をどうにかしようとしたりとか、
まぁ、よろしくない行動に出る男たちなんだけども、
野郎どもの多くは、やらないにしても、同様の欲望を心に秘めている。
それは男の悲しい性。
吉田恵輔監督は、
あまり触れて欲しくない男の恥部を描くんで、
見ているこっちは見透かされた気分になる。
感じたくないんだけど、シンパシーを感じちゃう。
でも共鳴する部分があるから見ていて面白い。
間の取り方や構図も上手い。
登場人物がそれぞれ好き勝手な行動を取り、
同じ場所にいるにも関わらず、
まったく同じ方向を向いていないというシチュエーションも多い。
最強に痛いし、スリリングなんだけど、見ている側はそれが面白い。
で、吉田恵輔監督に、その発想の源を聞いてみたら、
「当事者にとって切実な瞬間でも、周りの人はそんなの関係ない。
その落差が面白いと思っている」
とのこと。
例えば、『なま夏』。
電車の中でとんでもない出来事が起きているにも関わらず、
車掌は何事もなく次の停車駅をアナウンスし、しかも言い間違える。
(因みにこの声は吉田恵輔監督なんだってさ)
『純喫茶磯辺』では、
居酒屋で、主人公たちが真剣な話をしているにも関わらず、
隣の席の外国人連中は「とりあえずビールねぇ」と注文している。
世の中そんなもんだって。
確かにそうだ。
着眼点が面白い。
そんな映画の中身の話だけでなく、
俳優さんたちの話もたくさんした。
小出氏、吉田恵輔監督、伊藤Pにはある共通項がある。
それは麻生久美子ファンであるということ。
みんなで麻生さんの美しさと才能を褒めちぎた。
あと、『なま夏』、『机のなかみ』で最高に良い味を出していた三島ゆたかさん。
本当に素晴らしいってね。
『純喫茶磯辺』にも少しだけ出ているんで、吉田恵輔作品には欠かせない存在だ。
他に、先日ハワイで開催されたルイ・ヴィトン・ハワイ国際映画祭に参加した時のエピソードも面白かった。
いきなりヤンキーの多い学校で講師をやらされ、
誰も話を聞いてくれなかったそうな。
そして、やっぱり今の日本映画界の現状についても語り合った。
まぁ、いろいろ話したんだけど、
やっぱり一番伊藤P的に思うところは、
才能ある人が、映画をどんどん撮れる環境になっていないって話だね。
オリジナリティがなく、稚拙な内容にも関わらず、ヒットする映画業界。
勿論、そういう映画があっても良いんだけど、
それだけじゃダメでしょう。
でもやっぱり商売だからねぇ・・・
金にならないと企画は成立しない。
そんな映画製作のジレンマをリアルに体験している小出氏と吉田恵輔監督だからこその話なんで、、
なかなか重みがあった。
幸い『純喫茶磯辺』はヒットし、
次も小出氏と吉田恵輔監督のコンビで『麦子さんと』が決まっているという。
これは朗報だ。
プロデューサーと映画監督の付き合いってのは、
それぞれの成功のために、当たり前だけどかなり重要だ。
ジェリー・ブラッカイマーとマイケル・ベイ。
ジョエル・シルバーとウォシャウスキー兄弟。
亀山千広と三谷幸喜。
李鳳宇と井筒和幸。
一瀬隆重と清水崇。
などなど、
プロデューサーが監督を起用し、監督がプロデューサーの期待に応える。
もっと言っちゃえば、プロデューサーが監督を育て、監督が成長する。
このお互いの立場を尊重した信頼関係がないと映画は成立しない。
伊藤Pは、小出氏と吉田恵輔監督の関係は、
とても良いように感じた。
なかなか厳しい映画業界だけど、
吉田恵輔監督には今後の日本映画界を背負って頂きたい。
小出氏も逆境・苦境を打破して、
日本を代表する名プロデューサーとして、この業界に君臨して欲しい。
まぁ、伊藤Pは映画業界においてチンカスみたいな存在だし、
一般的にも影響力なんてたかが知れておりますが、
面白い映画は面白い!
才能ある人はある!
って、伝えていきたいと常々思っている。
微力ながら出来る限り協力させて頂きます。
お二方には、
今後の更なる飛躍に期待しております。
※『純喫茶磯辺』作品評
※『純喫茶磯辺』仲里依紗&吉田恵輔 インタビュー テキスト