12/20よりシネマライズほか全国にて 配給会社:東京テアトル (C) 2007 Celluloid Dreams Productions - Halcyon Pictures - Tartan Films -X Filme International |
今から7年ぐらい前に、
伊藤Pが担当していた映画情報専門チャンネル・カミングスーンTV(現CSGyaO)の番組で、
ミヒャエル・ハネケ監督の『ピアニスト』という映画を取り上げた。
イザベル・ユペールとブノワ・マジメルの浴室シーンを見た瞬間、
良く判らないんだけど不快に感じた。
上手く表現出来ないんだけど、生理的にダメな感じ。
以来、知り合いのディレクターから何度もハネケ作品を薦められたんだけど、
スルーし続けて来た。完全なる食わず嫌いってやつだ。
しかし、ハネケ監督が自身の作品をセリフリメイクした『ファニーゲームU.S.A.』で遂に初体験した。
見た理由は、知り合いのディレクターのイチオシが、
オリジナル版『ファニーゲーム』だったのと、
ナオミ・ワッツとティム・ロスが共演しているから。
で、見たわけだが、不快だった。
若者2人がゲーム感覚で、何の罪もない人たちを殺害する話で、
そこには理由も動機もない。
肉体的、精神的暴力を強調して、逆にそれらを否定する手法なのは判ったんだけど、
なんでこんな映画をわざわざリメイクしたのか、
ナオミ・ワッツが製作総指揮を買って出たのかが、全くわからなかった。
伊藤Pはホラー映画やバイオレンス映画が大好きだけど、
ホラー映画の残酷性はあくまでも観客にキャーキャー怖がって欲しいという、
作り手の遊び心があると思って見ている。
バイオレンス映画の銃撃シーンは、カッコ良さを追求していて、美学があると思っている。
『ソウ』シリーズもかなり残酷な描写があるけど、
そこにはジグソウなりの哲学と仕掛けの面白さがある。
だけど、『ファニーゲームU.S.A.』には、
それらの作品で描かれている暴力とは明らかに質の違う暴力がある。
理由も原因も救いもない暴力を映画にすると不快になるんだと認識。
でも不快だからってつまらないとか、嫌いって訳でもない。
冒頭、クラシックの調べに乗せて幸せそうな家族が登場するが、
突如、ハードコア・ノイズが鳴り響く。
これから一家に襲いかかるであろう狂気を予感させるこの演出は、カッコ良いって思った。
あとサスペンスの演出が上手い。
何が起こるかわからない不安感や緊張感が常に作品を支配している。
卵のように簡単に割れてしまうような危うさがある。
更に我々が見慣れたハリウッド映画では有り得ないような外しの展開の連続で、
絶望的な気分にさせられる。
普段だったら“やる側”のティム・ロスのやられっぷりは新鮮だし、
そうは言っても、なんとかしてくれるんじゃないかという期待感も捨てさせない。
ナオミ・ワッツもいつもだけど、本当に素晴らしい。
これだけ器用に様々な感情を表現出来る女優さんはあんまりいないんじゃないかな?
その辺にいそうな親近感もあるから、物語自体がファンタジーにならない。
不快と感じながらも、映画自体は面白かった。
そして、鑑賞後に資料を読んだんたけど、
ハネケ監督がアメリカ資本でリメイクした理由が明記されていた。
暴力を肯定的に描いているハリウッド映画に苦言を呈するために、オリジナルを作った。
しかし、ヨーロッパ映画ということで、肝心のアメリカでは小規模な公開に終わってしまった。
だからアメリカ映画として作れば、もっと見て貰えると思ったらしい。
残念ながらアメリカ資本で作っても、アメリカでは限定公開に留まったんだけどね・・・
やっぱりアメリカでは、エンターテイメント性の薄い不条理な暴力は受け入れられないのかな?
映画を見て、資料を読んでハネケのこの作品に込めた思いは理解出来たけど、
何も知らない人が見たらどう思うんだろう?
諸刃の剣にならんと良いのだが・・・
特にここ日本では「誰でも良かった」って、平気で人を殺しちゃうバカが多いからさ。
コメント (2)
>特にここ日本では「誰でも良かった」って、平気で人を殺しちゃうバカが多いからさ。
日本では、ということは他所の国には少ないんですか?
投稿者: 匿名 | 2009年10月20日 22:23
Anonymousさん
>日本では、ということは他所の国には少ないんですか?
さぁ、分かりません。
他国にもいるんじゃないでしょうか?
コロンバイン高校の事件とかありましたし、
『シティ・オブ・ゴッド』とか見ると、
「誰でも良かった」レベルどころではない殺戮が行われているようですしね。
ただ日本は比較的治安が良いですし、
ましてや自分たちが暮らしている国ですから、
国内で起きた無差別殺人は他国の事件以上に注目するし、
インパクトも強くなると個人的には思っています。
投稿者: 伊藤P | 2009年10月21日 16:24