2008年12月16日更新

裏#71 『魔法遣いに大切なこと』(ネタバレ)


魔法遣いに大切なこと

『魔法遣いに大切なこと』

12/20よりシネマート新宿、シネマート六本木ほかにて
配給会社:日活
(C)2008 山田典枝 /「魔法遣いに大切なこと」製作委員会




『ハルフウェイ』で岡田将生の取材があり、
彼の出演作ってことで見たんだけども、
笑撃的な映像と無理矢理な展開は、『赤い糸』以上かもしれない。


“魔法士”という魔法遣いが普通に存在する世界。
手続きさえ取れば、誰でも魔法を依頼することができ、
魔法士が魔法を悪用しないように、“魔法局”なる国家機関まである。


そんな世界観にまずズッコケた。


魔法遣いの血筋を受け継ぐ16歳の少女ソラは、魔法士になるための研修を受けに上京。
同じく研修のためにやって来た落ちこぼれ緑川豪太と共に、
先輩魔法士の家にホームステイしながら実技指導を受ける。


様々な魔法の現場を目撃し、ソラは魔法が及ぼす影響力と矛盾に戸惑いながらも、
ある目的のために一人前の魔法士になることを目指す。
そんな物語。


魔法遣いに大切なこと


まず、強烈なのが「イルカ救出作戦」。


東京湾(お台場)に打ち上げられたイルカの群れを、
魔法士たちが魔法を使って助けるエピソードなんだけど、
ビジュアルが面白すぎる。


砂浜に打ち上げられたイルカが、オタオタ体を動かす。
このショットだけでもかなり爆笑。


ソラや豪太に救出方法を先輩魔法士が教えてくれる。


先輩魔法士「イルカは今、パニック状態」


あのオタオタはイルカのパニック状態を表していたのか!


先輩魔法士「だから水のまくに包んで一旦空中に持ち上げて、
      落ち着いたところを見計らって海に出す」


ソラたちがイルカに向かって手をかざしうねうねと腕を動かすと、
イルカの周りに水のまくができて、浮き上がる。


そんな魔法です。
せめて「チンカラホイ」ぐらい言って欲しい。


みんなが要領よくやっている中、
豪太だけが上手くできない。


見かねたソラが豪太に助け舟を出す。


「落ち着いて。あなたは出来る。私がきっかけになる。
 赤ちゃんは大人が歩くのを見て歩く。
 喋るのを真似て喋る。
 豪太くんはまだ赤ちゃんなの。
 今は集中して!私が力を貸すから。さぁ!」


そっと背中に手を添える。


魔法遣いに大切なこと


なんだその説得は・・・
それにそんな力添えはダメだろう。


真の魔法士になるのなら、自分の力で解決せにゃいかんと思うのだが、
再度イルカ救出作戦にトライした豪太は、
難なくイルカを水の幕に包み浮かび上がらせることに成功する。


先ほどの先輩魔法士が、
「海ほたるの先まで飛ばしますよ。せーの!」


水の球に包まれたイルカたちが、お台場の空を飛ぶ!!


恐らく本作最大の見せ場なんだろうけど、大爆笑だよ。
真面目に演出している分、余計に痛いシーンになっている。


続いて、デートに出掛けたソラと豪太は、
知り合いに誘われてとあるところに赴く。


“よさこいソーラン”の練習。


いきなりソーラン節で踊る人々。
一緒になって踊りだすソラと豪太。


ブルブル震えそうになるぐらい寒いぞ、この演出・・・


そして、次のシーンではあっさり手を握るソラと豪太。


「イルカ救出作戦」と「よさこいソーラン」のエピソードで、
ソラと豪太が恋に落ちる過程を描いているんだけど、
まるで納得出来ないっすね。


魔法が上手く使いこなせなくて、叱咤激励される。
先輩とかだったら良いけど、同じ研修生、しかも女性から言われたら・・・
しかもちょっと手助けされたみたいだし。


凹むし、悔しいって思う。
暢気にデートなんてしている場合ではない。


まぁ、次のシーンでフォローのセリフがあるんで、
「イルカ救出作戦」は良いとしても、
“よさこいソーラン”を一緒に踊って、なぜ恋に落ちるのだ・・・


鑑賞後、資料を読んだら中原俊監督のインタビューが載っていて、
このシーンの解説をしていた。


「映画の流れを切る危険を承知で“よさこいソーラン”のシーンを入れた。
 理由は、ソラが一度でいいから素の笑顔を見せる瞬間を撮りたかったから。
 そして、ソラを演じた映画初出演の山下リオに演技の不安を吹っ飛ばして、
 映画の達成感を感じて欲しかったから」


気持ちはワカランでもないが、
危険を冒してまでして、入れる必要があったのだろうか・・・
むしろ危惧したとおりの結果になっているように思う。
いくらでも“素の笑顔”を引き出す話は作れるでしょう。




<以下、ネタバレになるので、読まれる際はご注意ください>


そして、倒れるソラ。
ソラは不治の病に侵されていたのだ。


以前に一回意識を失うシーンがあったが、まさか余命いくばくも無いとは・・・


韓国映画級の強引な展開に唖然というか、
「また難病ものっすかぁ・・・」って、ゲンナリ。


でさぁ、死ぬって判っていながら、豪太と恋愛するのはいかがなものかと。
どう考えたって残される豪太を苦しめるだけでしょう。
そういった意味では、『恋空』のヒロよりもタチが悪い。


そして、死を覚悟して使った魔法ってのが、
“お母さんに自分の花嫁姿を見せたい!”という違反魔法。


そ、そうなんかい!?


今までは、意識不明の人の意識を呼び覚ます、
灰になった形見を再現させる、先の「イルカ救出作戦」と、
有形的な魔法が多かったのに、
突然、人にイメージを見せる魔法とは・・・


うーん・・・
ソラと豪太の恋愛関係、ソラと仲間の支え合い、
先輩魔法士たちとの交流、数々の魔法、
そのどれもが噛み合っていないんだよね。


だからクライマックスに向けて、ガァーって盛り上がらない。


周囲の評判はあまり悪くないし、害のある作品でもない。


でもオイラ、ピュアな心なんてもんは遥か昔に置いてきちゃったんでね、
個人的には共感出来る部分の無いまま映画が終わってしまったよ。

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コメント (2)

Qm:

そんなに爆笑できる作品とは…!!
決してキライな設定ではなかったので、少し気にはなっていたのですよ。


でも、にっくき難病展開なので、見たら発狂しそうです。
私なんぞは、ピュアな心なんて、あったかどうかも覚えてない程ですし…


イルカが飛んでいるシーンと聞いて
「銀河ヒッチハイクガイド」のOPが見たくなってしまいました。
(あ、アレは地球から退避するのか…)

伊藤P:

>Qmさん

コメントありがとうございます。
人によっては“爆笑”出来ると思いますが、悪意のある映画では決してありません。
ファンタジー映画が好きな人とか、普通に楽しめると思いますよ。

あと、難病モノは難病モノなんですけど、そこで泣かそうとかそういうのは無かったです。

個人的にツボに入ってしまった作品でございます。

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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