1/10よりシネカノン有楽町1丁目ほか全国にて順次公開 配給会社:アグン・インク (C)2008「クローンは故郷をめざす」製作委員会 |
殉職した宇宙飛行士・高原耕平はクローンとして蘇る。
自らの死体を発見したクローンの耕平は、それを幼少時代に亡くした弟と錯覚し、
母親の元へ届けるため、死体を背負い、かつて暮していた故郷をめざして歩き出す。
詩的なキービジュアル、製作総指揮ヴィム・ヴェンダースということで、
「やや難解かな?」と、見る前から予測はしていたんだけど、
やはり極力説明を排した感性を試される作品だった。
正直、全部を理解出来たかと言われると、悲しいかな否なんだよね。
鑑賞後、資料に書いてあった監督のコメントを読んで、
ある程度の解釈には至ったんだけど、やはり映画本編のみで理解したかった・・・
死んだ人間をテクノロジーによって生き返らせる。
果たしてそれが正しいことのなのか?
愛する人に先立たれ人間は、悲しみを背負いながらも生きていく。
そして、死者に対して畏敬の念を持ち、生前の思い出を大切にする。
生きる者と死んだ者。
その双方の在り方を問う作品なんだけど、
何にしてもとても不思議な質感があった。
どこか懐かしくて牧歌的。
ミステリアスで、妖しくて、次に何か出てくるんじゃないかという期待もあったりする。
ヴェンダースというよりも、アンドレイ・タルコフスキー色が強い。
崇高、神秘的、近未来、宇宙。
『惑星ソラリス』が思い浮かぶ。
それに古い日本家と霧が再三登場するので、『雨月物語』も思い出された。
こういった厳かな雰囲気を持った静かな日本映画は、最近、あまり無かったのでは?
そんな特殊な世界観を持った作品の看板を背負ったのは、
意外にも映画初主演となる及川光博。
インタビューで、「これまでのスキルが通用しないし、
及川光博というパブリック・イメージも全く必要とされない役だった」と語っているように、
今までのイメージからだいぶかけ離れた役柄に挑戦し、新境地を開拓している。
それから耕平の妻役を演じた永作博美。
前から演技力には定評があったけど、今回も素晴らしい演技を披露している。
母親を演じた石田えりも貫禄十分だった。
ただ、科学者役の嶋田久作の声がかなりくぐもっていて、
聞き取りにくかったのが残念だった。
そして、何よりも凄いのが、
御歳90歳の美術監督木村威夫が手掛けた美術。
荘厳!
あまり一般的な作品ではないけど、
たまにはこの様な作品に触れてみるのも良いかと。
ただかなり静かな映画なので、眠くなる可能性あり。
だから満腹状態で見ない方が良いんだけど、
逆に空腹過ぎるとお腹が鳴った時に、その音が響き渡ってしまう恐れが・・・
なかなか体調管理が難しい映画であります。
※クローン人間についての映画だけど、
先日、年内にもクローン牛が食用として流通される可能性があると報道された。
あまり食べたくないよね・・・
『クローンは故郷をめざす』
※及川光博 インタビュー テキスト
※及川光博 取材記
写真=あすか
ヘア&メイクアップ=たなべこうた
スタイリスト=森保夫