2/14よりユーロスペースにてレイトショー 配給会社:マウンテンクロス (C)MOUNTAN-CROSS |
念願だった飲食店を出店するも、食中毒事件がきっかけで過食症に陥ってしまった料理人・涼子。
仕事への復帰を望む涼子をたしなめ、自らの手料理で涼子の症状を改善させようとする夫・大地。
涼子は、夫の愛という名の支配によって奪われた自尊心を取り戻すため、
過食症という不器用な自己主張をし、友達に対しても身勝手な行動を取ってしまう。
妻と同じく料理人である大地は、
自分よりも実力のある涼子に料理の腕を認められたいという欲求と愛を混同する。
擦れ違いの毎日。
そして、絶えない夫婦喧嘩。
その原因は共に依存し合っているから・・・
生きる方向性を見失ってしまった夫婦。
その感情のやり取りをリアルに描いた人間ドラマ。
自分は特別な存在だ。
もっとも愛する人にそれを認めてもらいたい。
私はこれだけやった、僕もこれだけやっている。
この奉仕を判って欲しい。
得てしてこういう思いは相手に伝わらなかったりする。
そして、それが依存であることに気が付かず、
“認めてくれない”、“判ってくれない”と仲違いが始まる。
夫婦に限らず、多くのカップル(男女だけでなく、男同士、女同士含む)が経験するであろう、
共依存に起因する摩擦。
人間は一人で生きていけないし、夫婦(あるいはカップル)という最少の集合体において、
共に依存するのは仕方ないし、当たり前のことだと思う。
二人でお互いのプラスの部分を引き立て、
マイナスの部分を補うのが理想的でしょう。
そこにはどうしたって依存が介在する。
ただ、その共依存に気付いているのか、いないのか、
この差が大きいんだと思う。
恐らく『ロストガール』の涼子と大地は気が付いていない。
そこが問題なのでしょう。
我々は、二人のやり取りを客観的に見るので、
“自分も依存しているかも・・・”ってことに気が付いたりする。
日常生活をしている上で、
あまり考えないことを改めて喚起してくれる作品。
どうにも埋まらない夫婦関係を描いているという点では、
『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』に似ていると思った。
『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』に登場する夫婦も、
共依存している。
でもこの両作品は、向かうベクトルが大きく異なっている。
どっちが良い悪いは別として、
『ロストガール』の方が、明るい未来があるように思う。
しかもその行き着いた先も、「えっ?そう来るの?」って。
予想外でユニークだった。
“なかなか考え深いし、繊細だし、視点が面白いし、
一体、どんな人がこの映画を作ったんだろう”って思っていたら、
監督の山岡大祐は33歳だった。
2007年の作品なので、作った時はまだ30歳か31歳ぐらいでしょう。
この若さでこの内容・・・
『チョコレート』を見た時に、マーク・フォースター監督が30代前半と知り、
ちょっと驚いたんだけど、それに似た感覚だった。
若い映画監督が質の高い作品をどんどん作って世に出すことは、
日本映画界の今後にとって、とても大切なことだと思う。
勿論、名のあるベテラン監督も必要だけど、
そればかりだと日本映画に未来はない。
近年、若い監督で良作だと思った作品がいくつかある。
『リアリズムの宿』(2003)、『リンダ リンダ リンダ』(2005)など:山下敦弘(1976年生)
『キトキト!』 (2006):吉田康弘(1979年生)
『酒井家のしあわせ』(2006):呉美保(1977年生)
『机のなかみ』(2007)、『純喫茶磯辺』 (2008):吉田恵輔(1975年生)
『蛇イチゴ』(2002)、『ゆれる』(2006):西川美和(1974年生)
山下敦弘監督、西川美和監督はコンスタントに撮っているし、
吉田恵輔監督も次回作が決まっている。
しかし、吉田康弘監督と呉美保監督は?
その後、全く音沙汰が無い・・・
『キトキト!』、『酒井家のしあわせ』は、
厳しい興行だったようだけど、
堤幸彦監督とか、一体、東映で何本こかしているの?って・・・
出資する方は、莫大な金が動くわけだから、
なかなか新人や実績の無い監督に委ねるの難しいと思う。
でも新しい人材を発掘していかないといけない。
映画はビジネスだから、なかなか難しい。
新人監督の作品に一流の役者が出て、
その作品が劇場で公開されること自体、実はあんまりない。
だからこそ、『ロストガール』は山岡大祐監督にとって、
とてもとても重要な作品になると思う。
そんな山岡大祐監督にエールを贈るべく、
もう一押し!
一流の役者と書いたが、『ロストガール』のキャストは凄いぞ。
涼子役は大傑作『愛のむきだし』で強烈な演技を披露した渡辺真起子。
そして、大地役はどんなに小さな役柄でも強い印象を残す山本浩司だ。
渡辺真起子と山本浩司が夫婦である。
こんな凄い夫婦が見られるのも『ロストガール』の魅力だ。
特に渡辺真起子は、今までうちに溜め込む役が多く、
己の感情を“むきだし”にする『愛のむきだし』のカオリを演じるにあたり、
この『ロストガール』の涼子役が布石になったという。
『ロストガール』があったからこそ、あの『愛のむきだし』があるのだ。
そして、そして、
『ロストガール』の上映劇場はユーロスペースで、
レイトショーという興行だ。
ユーロスペースといえば、
現在、『愛のむきだし』が公開中。
14:25の回の『愛のむきだし』を見て、ディナーを食べて、
21:10から『ロストガール』を見る。
そして、飲みに行く。
『愛のむきだし』は237分と長尺だが、
『ロストガール』の上映時間は嬉しいことに63分。
“渡辺真起子祭り!”
というのはどうだい!?
まぁ、流石にこのマラソン鑑賞はきついかもしれないけど、
『愛のむきだし』を見て、渡辺真起子の怪演にノックアウトされた方々は、
是非、『ロストガール』もご覧になって頂きたい。
(文中、敬称略)
■『ロストガール』
※渡辺真起子&山岡大祐監督 インタビュー テキスト