2009年02月20日更新

アカデミー作品賞の行方

さて、いよいよ来週の月曜日(日本時間)、第81回アカデミー賞の発表です。


今回、作品賞にノミネートされているのは、


・『スラムドッグ$ミリオネア』
・『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
・『フロスト×ニクソン』
・『ミルク』
・『愛を読むひと』


の5作品。


『ミルク』、『愛を読むひと』はまだ見ていないのですが、
下馬評を読むに、
『スラムドッグ$ミリオネア』と『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の一騎打ちになりそうだ。




ベンジャミン・バトン
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
全国にて公開中
配給会社:ワーナー・ブラザース映画
(C) 2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment All Rights Reserved.






スラムドッグ$ミリオネア
『スラムドッグ$ミリオネア』
4月、TOHOシネマズシャンテほか全国にて順次公開
配給会社:ギャガ・コミュニケーションズ
(C)2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation




両作品とも良い作品なので、どちらがとってもおかしくないのですが、
アカデミー賞は、作品の本質とは違うところで、票が左右されてしまうことがある。


対象作品ではなく、今までの功績が重んじられたり、
同性愛を扱った映画や外国人監督が撮った作品が冷遇されたりしている。


で、今回なのですが、これまた作品の中身というよりは、
ハリウッドの今の現状が大きな影響を及ぼすような気がする。


『ベンジャミン・バトン』は、製作費1億5000万ドルを投じたハリウッド超大作で、
ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェットという二大スターが出演している。


一方の『スラムドッグ$ミリオネア』は、製作費1500万ドルのイギリス映画。
監督はイギリス人のダニー・ボイル。
インドで撮影され、出演者も無名の俳優たちばかり。
言語も全体の3分の1がヒンディー語。


まさに互いが対極に位置する作品と言える。


で、今のハリウッドにおいて、このインドが超重要。


先日、スティーヴン・スピルバーグ率いるドリームワークス社が、
ウォルト ディズニー スタジオと長期配給契約を結んだ。


世界的な知名度を誇るディズニーと天才ヒットメーカーとの強力タッグが実現した訳だ。


一度は経営難に陥ったものの、2006年にパラマウント・ピクチャーズの傘下に入り、
『トランスフォーマー』などのヒットで、見事復興を遂げたドリームワークス社が、
引き続きハリウッドで大きな力を持つことになるでしょう。


そんなドリームワークス社と提携しているのが、
インドのムンバイを拠点とする大映画会社リライアンス・ビッグ・エンターテイメントだ。


2008年9月に提携契約が締結され、リライアンス社は推定5億ドル出資ていると言われている。


ドリームワークス社は米国大手ブローカーから5〜7億ドルぐらいの融資を受けており、
アメリカとインド、半々で成り立っている。
コチラの記事より)


更に、リライアンス社は、ニコラス・ケイジのサターン・プロダクションズ、
ジム・キャリーのJC23エンターテインメント、
ジョージ・クルーニーのスモークハウス・プロダクションズ、
クリス・コロンバスの1492ピクチャーズ、
トム・ハンクスのプレイストーン・プロダクションズ、
ジュリア・ロバーツのレッド・オム・フィルムズ、
といったハリウッドスター、監督が設立した映画会社とも連携関係にある。


そして、今、アメリカは100年に一度の大不況に見舞われており、
アメリカの企業は映画への出資に及び腰になっている。


つまり、今のハリウッドはインドからの出資がないと成り立たないってことだ。


で、アカデミー賞ですが、
アカデミー賞は俳優、スタッフといった同業者たちが投票する賞で、保守的なわけだから、
普通に考えたらメイド・イン・ハリウッドである『ベンジャミン・バトン』に票が集まることが予測される。


でも、今後のハリウッド映画へのインド企業からの出資という経済的な状況を念頭に入れると、
メイド・イン・イングランドだけど多分にインド色の強い『スラムドッグ$ミリオネア』
という線も無視できない。


インド人を喜ばして、気前良くさせた方が良いわけだからね。
(追記:インド人はみんながみんな喜んではいなかった・・・


『スラムドッグ$ミリオネア』は、2008年11月18日にたったの10館で公開が始まり、
公開6週目で589館に拡大公開され、ボックスオフィス8位に登場。
その後何度かトップ10圏外に落ちたものの、
更に拡大公開を続け1月中旬以降、ずっとトップ10にランクインし続け、
2月15日の時点で、8874万ドル稼ぎ出している。


普通だったら見向きもされない小規模な作品が、
息の長い興行を続けヒットを記録していることは、
恐らく、ヒットして当たり前の『ベンジャミン・バトン』よりもインパクト大でしょう。
(『ベンジャミン・バトン』の成績は、現在1億2271万ドル)


インパクトも話題性もあり、
ゴールデン・グローブ賞のドラマ部門で作品賞を受賞している『スラムドッグ$ミリオネア』の方が、
受賞の可能性が高いように思われる。


しかし、最近のアカデミー賞の結果を見ると・・・


2年前の第79回アカデミー賞では、
ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門で作品賞を受賞した『バベル』が有力視されていたのにも関わらず、
作品賞を獲得したのは『ディパーテッド』だった。


アカデミー会員たちのスコセッシ監督に対するリスペクトが生んだ結果でしょう。
(『ディバーテッド』と『ベンジャミン・バトン』の配給はワーナーで、
 『バベル』と『スラムドッグ$ミリオネア』の配給がGAGAってところがまた面白い)


更にその1年前の第78回アカデミー賞でも、
ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門で作品賞を受賞し、
受賞するだろうと予想されていた『ブロークバック・マウンテン』が賞を逃し、
『クラッシュ』が受賞するという意外な結果になっている。


『バベル』はメキシコ人監督のアレハンドロ=ゴンサレス・イニャリトゥ、
『ブロークバック・マウンテン』は、台湾出身のアン・リー監督で、内容は同性愛を扱っていた。


アン・リー監督は、受賞を逃したことについて「アカデミー賞は保守的だ」と述べている。
これぞアカデミー賞の特色。


ということで、ハリウッド然とした『ベンジャミン・バトン』が受賞するのか?
インド色が強く、今後の製作状況にも影響を及ぼしかねない『スラムドッグ$ミリオネア』が受賞するのか?


作品の中身とは別のところで、とても興味深いのであります。


そして、どっちに投票するのか一番悩んでいるのは、ブラッド・ピットかもしれない。
何故なら、ブラッド・ピットが作った映画会社プランBエンターテインメントも、
リライアンス社と提携を結んでいるから。


そして、同じくリライアンス社と提携している映画会社の設立者であるジョージ・クルーニーも、
盟友ブラピの出演作か、インドかで迷っているかもしれない。


因みに『スラムドッグ$ミリオネア』が作品賞を獲得した場合、
『ラストエンペラー』以来21年ぶりに、アメリカ資本が入っていない作品が受賞したことになる。


こんな分析しておいて、他の作品が受賞したりして・・・

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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