3/28よりTOHOシネマズシャンテほか全国にて 配給会社:東宝東和 (C)2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED |
ウォーターゲート事件で失脚したアメリカ元大統領ニクソンに、
テレビ司会者のデビッド・フロストはインタビューを依頼する。
ニクソンはこのインタビューを利用して政界復帰を狙い、
対するフロストは、国民に頭を下げないで辞任したニクソンの尻尾を掴んで謝罪させ、
単なる司会者からジャーナリストへ飛躍しようとする。
そんな二人の思惑と駆け引きが交錯した歴史的インタビューを追った人間ドラマ。
フロストはニクソンを追い込むためにチームを編成するが、
このインタビューに価値を見出してくれるスポンサー探しに時間を取られてしまう。
放送も決まらないまま4日間に渡るインタビューがスタートするが、
ニクソンの巧みな話術によって核心になかなか踏み込めない。
苛立ちが募りチームの関係性もギクシャクし始め、
更に追い討ちをかけるようにフロストのレギュラー番組の打ち切りの報が伝えられる・・・
普段、伊藤Pは映画俳優や監督にインタビューをする仕事をしているけど、
このフロストのインタビューに賭ける情熱と執念は凄いと思った。
勿論、俳優にインタビューするのと、
アメリカ史上初となる辞任した元大統領にインタビューするのとでは、
丸っきり意味合いが違う。
でも何かを相手から引き出そうとする点では一緒だ。
単にインタビューと言っても様々なケースがあるんだけど、大きく二つに分けられる。
テーマなどに縛られず普通に話を俳優や監督から聞いて、
作品や俳優・監督業の魅力について語ってもらう場合と、
番組や雑誌、ネットなどで組まれる特集のテーマに沿ったコメントを引き出すケース。
後者の方が、使えるコメントを引き出す重要度が増すので、
よりスリリングだし、上手くいけば達成感もある。
作品のテーマと番組や特集のテーマが合致している場合はまだやり易いけど、
まるで関係がないと失敗することも。
伊藤Pも何度か失敗している。
それでも、俳優や監督の多くは、
インタビューがプロモーションだと理解して臨んでいるから、
インタビュアーの質問意図を汲んで積極的に話てくれる。
しかし、本作でのニクソンは、
フロストが何を聞き出そうとしているのか分かっていて、
更にその発言が自分にとってとてつもなく不利になる内容だということも認識している。
そんな相手からフロストは謝罪の言葉を引き出そうとしている。
こりゃ、超難関でしょう。
しかも、経済的にもキャリア的にも失敗が許されない八方塞がりの状況に、
フロストは追い込まれている訳で、
かなりの重圧が両肩にのしかかっていたのは想像に難くない。
一方のニクソンも失敗したら政界復帰は望めない。
そんな二人が対峙するインタビューは、
単なるインタビューではなく己れの進退を賭けた戦いだ。
まさに世紀の一戦。
見応え十分の本作は、
元々『クィーン』、『ラストキング・オブ・スコットランド』の脚本家ピーター・モーガンが手掛けた舞台劇で、
その舞台でフロストとニクソンを演じたマイケル・シーンとフランク・ランジェラが、
映画版でも同じ役で出演している。
マイケル・シーンは、どんな役にもはまるカメレオンみたいな役者だ。
立ち位置的にはマイケル・ケインに似ている。
ニクソン役のフランク・ランジェラは、流石の貫禄。
見た目は『ウォッチメン』に出て来たニクソン役の俳優の方が似ているけど、
そんなことはどうでも良いし、気にならないほどニクソン然としている。
監督はロン・ハワード。
アクション、ミステリー、サスペンス、人間ドラマとどんなジャンルでもお手のもの。
プロフェッショナルなキャストとスタッフは、素晴らしい人間ドラマを作り上げると共に、
奥行きのある深みを作品に盛り込んでいる。
インタビューに自身のキャリアを賭ける男たちの姿は凄いんだけど、
逆に言えばインタビューひとつで人の人生が変わってしまうということ。
今のテレビや雑誌、新聞、ラジオ、ウェブといったメディアに、
それだけ力があるのか分からない。
でも、多くの政治家が公の場で失言し、それが報道され辞任している。
(自業自得だけど・・・)
政界じゃないけど雑誌の浮気記事が発端となり自殺をした某社の社長や、
雑誌の誹謗中傷記事がネット上での脅迫へと繋がり、生命の危機を感じたタレントがいた。
近日公開される『天使と悪魔』の原作にも、凄惨な事件を追い、
それをカメラに収めて脚光を浴びようと躍起になるキャラクターが登場する。
ちょっと古いけど、
『マッドシティ』に登場するダスティン・ホフマンが演じた記者もそう。
情報を掴み、取材し、裏を取り、放送もしくは記事にした時、もしくは配信した時、
伝える側はその影響がいかほどのものか考えているのか?
そんなメディアの怖さを思い出すと共に、
他者を踏み台にしてまでも成功を勝ち取ろうとする人間の悲しい性を垣間見た。
でもそれが資本主義であり、人間が生きていく上で必要だと言う事も理解している。