4月25日より丸の内ピカデリー3ほか全国にて 配給会社:ワーナー・ブラザース映画 (c)2009 Warner Bros. Entertainment Inc. and Village Roadshow Films (BVI) Limited. All Rights Reserved. |
子供たちからも煙たがられている頑固で差別主義者のウォルト・コワルスキー。
偏屈なクソジジィが近隣に住むアジア系移民モン族とひょんなことから交流を持ったことで、
次第に視野を広げ、自らの偏狭しきった考えを改め始める。
しかし、ウォルトが移民同士の抗争に首を突っ込んだことで、
事態は思わぬ方向へと向かってしまう。
このところ監督業に専念していたクリント・イーストウッドが、
『ミリオンダラー・ベイビー』以来4年ぶりに監督だけでなく、主演も兼ねた人間ドラマ。
イーストウッドが、演じるウォルトは朝鮮戦争に従事した経験を持ち、
フォードの自動車工として長年働いてきた男。
しかし、今は定年を迎え決まりきった毎日を繰り返していたうえ、
遂には妻にも先立たれ、唯一の話相手は飼い犬という孤独な状態。
イーストウッドはそんな老人を貫禄たっぷりに、そして、哀愁を持って演じている。
タイトルのグラン・トリノとは、
アメ車全盛時代にフォードが販売したトリノの高級バージョンとして、
72年に生産されたゴージャスなヴィンテージ・カーで、
ウォルトが何よりも大切にしている代物だ。
隣りに住む少年タオが、不良グループたちにそそのかされ、
グラン・トリノを盗もうとしたことがきっかけとなり、ウォルトとタオの交流が始まるのだが、
当然の如くジェネレーション・ギャップがある。
また一方で、ウォルトはタオの姉スーとも仲良くなり、
多くのモン族たちと接することになる。
今度は、カルチャー・ギャップにぶちあたるウォルト。
今まで自分の信じた生き方を貫き通してきたウォルトは、
まるで違う文化や孫ぐらい離れた世代との触れ合うことで、大いに戸惑う。
そんなウォルトが滑稽で、笑える。
イーストウッド作品といえば、重厚なイメージが強いし、特に近年はその傾向にあるんだけど、
『ダーティファイター』や『ブロンコ・ビリー』、
『ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場』、『ピンク・キャデラック』、
割と最近だと『スペース カウボーイ』といった作品には、
コメディの要素も多分にある。
『グラン・トリノ』にも、
イーストウッドならではのシニカルなユーモアが要所要所に散りばめられていて、
かなり笑わせてくれた。
この感覚はイーストウッドの持ち味なんで、久しぶりに見られて嬉しかった。
でも『グラン・トリノ』はコメディ映画では勿論ない。
イーストウッドは、移り行く世の中の流れへの順応、
異文化への理解・関心、人と人の繋がりと助け合いの大切さ、
人生の喜び、生きることの大切さを説く。
しかもそれがちっとも説教臭くない。
ジワッと心に沁み込んで来る。
そして、何よりも多くのバイオレンス映画に携わってきたイーストウッドの“暴力”に対する回答が、
イーストウッドを追いかけ続けて来た人たちには、一番響くのではないだろうか?
『許されざる者』に通ずるものがあった。
そんなイーストウッドに泣けました。