5/22よりTOHOシネマズ スカラ座ほか全国にて 配給会社:東宝東和 (C)2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED. |
黒人少年の射殺事件を調べていたワシントン・グローブ紙のベテラン新聞記者カルは、
旧友であるコリンズ国会議員の下で働いていた女性の死亡事故との奇妙な接点を発見する。
同新聞社のウェブを担当する新米女性記者デラと共に調査を進めるカルだったが、
その先には想像を絶するアメリカ最大の陰謀が待ち受けていた。
『ラストキング・オブ・スコットランド』を撮ったケヴィン・マクドナルド監督の最新作。
ドキュメンタリー出身なだけあって、
今回も鋭い視点とジャーナリスティックなアプローチが如何なく発揮されている。
「巨大権力VS.新聞社」が最大のウリであり、
新聞記者カルがアンタッチャブルなタブーに触れてしまったがために、
自らも命の危険に晒される。
この展開がサスペンスを盛り上げるんだけど、
カルのジャーナリスト精神にちょっとばかり感銘を受けた。
カルは古参の新聞記者であり、人脈を利用して聞き込みをし、
裏を取り、ある時は違法な調査までする。
真実を伝えるためだったら、危険も顧みない。
一方で、そんな自分が時代遅れである事も承知している。
一緒にスクープを追うことになる駆け出しの女性記者デラは、ウェブ担当者だ。
最初、デラから話しかけられたカルはつっけんどんな返答をする。
明らかにウェブを疎ましく思っている。
新聞のメディアとしての衰退は著しい。
インターネットの存在はその衰退の最大要因のひとつだろう。
どんなにスピード化しても、新聞はネットの速さには絶対に勝てない。
しかも、デジタルカメラ、ビデオの普及により、
誰もがネットに写真や動画を瞬く間に掲載出来る時代だ。
ジョージ・A・ロメロの『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』でも、
この“誰もがメディアになれる情報化社会の混乱”に対して警笛を鳴らしていた。
「(必死になってスクープを追って記事にしても)今の時代、新聞なんか誰も読まない」
これはカルのセリフなんだけど、それでもカルは真実を伝えるためにスクープを追う。
もう意地だよね。
ここが沁みたねぇ・・・
ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件は、
ワシントン・ポストの記者が独自調査し、紙面に掲載したことで世に広まった。
日本でも新聞じゃないけど、オウム真理教の狂気性を最初に訴えたメディアはサンデー毎日だった。
かつて、ジャーナリストはスクープをつかみ、
真実を伝えることで、良いにしろ、悪いにしろ世間を揺るがすきっかけを作ることが出来た。
いわば報道の最前線に立つ、花形だったわけだ。
しかし、今は夕刊が休刊になったり、
紙面が減ったことにより記者がダブついているという話をチラホラと耳にする。
今まで報道の世界でバリバリやっていた記者が、
書くスペースがない、会社の経営が芳しくないという理由から、
キャリア丸無視でいきなり営業に異動という例もあるようだ。
カルみたいなジャーナリストが居なくなったら大変だよ。
本当か嘘かもわからないような情報に翻弄されてしまう。
そして、ヘレン・ミレン演じる編集局長は、
「新しい経営陣がこんな記事を載せると思っているの?」
「売上よ!売上!!」
と吠える。
事実を伝えるジャーナリズムも結局は商売であり、
売れてなんぼ。
しかも今は情報発信源が数多ある。
その中で、新聞が(あるいは雑誌)が果たすべき役割とは?
本当にメディアってなんだんだろう・・・
というわけで、サスペンスとか以前に、
ジャーナリズムの崩壊の部分に響いてしまいました。
おっと、いかんいかん・・・
『消されたヘッドライン』は娯楽映画ですよ!
湿っぽくなってどうする!
そうそう、まずですね、キャストが豪華。
ラッセル・クロウ、ベン・アフレック、レイチェル・マクアダムス(『君に読む物語』)、
ヘレン・ミレン、ロビン・ライト・ペン、
ジェイソン・ベイトマン(『JUNO/ジュノ』、『ハンコック』)、ジェフ・ダニエルズ。
主役、準主役クラスがゴロゴロしている。
(でも、今の日本において、この豪華さを理解してもらえることは、ほとんどないのでしょう)
それから、先述のウォーターゲート事件を題材にした『大統領の陰謀』がそうだったように、
アメリカ映画は、ジャーナリズムという硬派な題材を娯楽に昇華させるのが上手い。
堅苦しいこと考えずに、サスペンス映画として楽しめる。
がっ!
本作の最大の欠点は、最大のテーマをどこかに置いてきぼりにしてしまっている点。
で、結局のその肝心の部分はどうなったんでしょうか・・・?
コメント (2)
いつも楽しくブログ拝読させて頂いております。
本日、ようやく「消されたヘッドライン」を観て来ました。
伊藤Pさんのコメント通り、えっ???? という最後でがっかり。
んな事より、そっちでしょ。
と肩透かし。
報道という現場は過酷であり、肉体・精神的にもきつい所なんだな。
等々、改めて思ってしまう作品でした。
(クライマーズハイでも同感でした)
最近、自分が観て来た映画を後に伊藤Pさんのブログにて再検証するのが楽しみな自分。
元々、劇場に行って観るのが好きだった自分でした。
仕事の忙しさを理由に、劇場には足も遠のき、ついついレンタルで観てしまっていた自分・・。
伊藤Pさんのブログと出会い、劇場のあの銀幕で観る映画の素晴らしさを再認識させられました。
ありがとうございます!
これからも沢山の映画を紹介していって下さい!
PS:気分の高揚と共に、地元映画館の年間プレミアム会員になりました。
今では時間があれば!と、月に3本は観に行ってる次第であります。
長々とすいませんでした・・・。
投稿者: RR. | 2009年06月05日 19:23
>RRさん
コメントありがとうございます。
このところあまり良い出来事がなく、
やや疲れ、凹みチックな状態だったのですが、
RRさんのコメントを読んでかなり救われる思いでした。
見た映画は全部書くをモットーにやらせて頂いていますが、
正直、本来のサラリーマン業務をこなしつつ、
原稿を書き、記事をあげるのはしんどいです。
それでもこのブログを続けてきたのは、
少しでも多くの人に映画を見て頂きたい、
少しでも映画業界の活性化に貢献したいと思っているからです。
時たま、ボロカス書くこともあり、“それ逆効果じゃない?”ってのもありますが、
逆に本当に面白いと思った映画はとことんオススメしたいし、
クソ映画を見て、そのクソ度を確認するのも映画の楽しみの一つだと思っています。
RRさんのように見る前の参考にするのではなく、
見た後の再検証の場として利用していただけるのも本当に嬉しいです。
それが楽しみになって映画館に通うようになって頂けたなんて・・・
本気で涙ぐみました。
現在、立場上、見る本数が減少傾向なので、
今後、ご期待に添えられるか分かりませんが、
なるべく多くの映画を紹介出来るように頑張ります!
本当にありがとうございました。
引き続き、よろしくお願い致します。
そして、沢山の映画を見て頂ければ幸いです。
また感想等コメント投稿して下さい。
投稿者: 伊藤P | 2009年06月05日 21:27