6月27日 より シネカノン有楽町1丁目ほか全国にて 配給会社:エンジンフイルム、アスミック・エース エンタテインメント (C)2009『Dear Doctor』製作委員会 |
山あいの小さな村。
村人たちや都会からやって来た研修医の青年から慕われていた医師が失踪する。
この小さな村で起きた大事件によって、医師に隠されたある秘密が暴かれる。
『蛇イチゴ』、『ゆれる』に続く西川美和監督待望の長編第三弾。
人がつく嘘と、その嘘が与える影響。
前2作同様、人間の曖昧でグレーな部分(2面性)を描いているんだけど、
相変わらず、上手い。
上手過ぎて、鼻に付く人もいるんじゃないか?ってぐらい上手い。
笑福亭鶴瓶が演じる失踪する医師・伊野。
伊野の“秘密=嘘”は早い段階で察しがつく。
そもそも予測出来るような構成になっている。
伊野の嘘の内容が概ね分かってからは、
見ているこちらは伊野の行動や他者との交流に対してドキドキするようになる。
ましてや医師だ。
人の命を預かる身。
嘘がばれるだけでなく、人の生死に関わってくる嘘なので、
ダブルでハラハラさせられる。
殺人事件が起こるわけでもない。
怪獣やエイリアンが襲ってくるわけでもない。
なのに十分サスペンスだ。
伊野が嘘を貫き通さずにいられなくなる流れも面白い。
身から出た錆とでもいうべき窮地。
そんな伊野が、かづ子という村の未亡人と出会い、
彼女の秘密を共有した時に出る行動が痛ましい。
嘘をついているのは伊野だ。
それを暴こうとする警察は、決して悪いことをしているわけではない。
なのに、嘘を暴くことが、村人にとって必ずしも幸せではない。
真相を追う警察の方が悪者になってしまっている。
何が良くて何が悪いのか?
ある人にとっては善人でも、別の人からすると悪人。
そんな人と人との曖昧な関わり合いを見事に描きつつ、
人に対する思いやり、暖かさ、悲しさ、哀れさをも感じさせる作りになっている。
『ゆれる』の時も書いたけど、西川美和監督と伊藤Pはタメ。
西川美和監督の人間観察力と洞察力には毎度毎度驚かされる。
凄いねぇ・・・
凄いといえば、役者さんたちもみんな素晴らしかった。
笑福亭鶴瓶の起用は、
“良い人”というお茶の間のイメージを利用したドンピシャのキャスティング。
笑福亭鶴瓶も初主演という気負いもなく、
伊野という医師の大らかさと強かさを体現している。
研修医の相馬を演じた売れっ子の瑛太も、
伊野の影響を受けて医師としての自覚を形成していく過程と、
真実を知った時のナーバスな心境を巧みに演じている。
伊野をサポートする看護師役の余貴美子は、
どの作品でもそうだけど、圧倒的な存在感だ。
この女優さんを主演にした大人のビターなラブストーリーを誰かに撮って欲しい
その他、井川遥、松重豊、岩松了、笹野高史、中村勘三郎、香川照之、
そして、八千草薫と錚々たる実力派俳優が集結。
中にはワンシーン、数シーンだけの出演なのに、強烈なインパクトを残す。
尚且つ説得力がある。
優れた役者たちを使った、西川美和独特の鋭利で、奥深い人間ドラマが堪能できる1本。
*唯一残念だったのが、井川遥の就寝シーン。
『レイン・フォール/雨の牙』の長谷川京子同様、バッチリメイク・・・