6月6日よりユーロスペース、シネカノン有楽町2丁目ほか全国にて順次公開 配給会社:リトル・モア (C)2009「ウルトラミラクルラブストーリー」製作委員会 |
鑑賞直後、その意味不明さに唖然とさせられた『ウルトラミラクルラブストーリー』。
別に分からないからと言っても、
試験じゃないんだから落ちるわけじゃないし、誰からも咎められない。
「わかんねぇーよぉ!」とポイッと理解を放棄してしまうのは簡単だ。
がっ!
やっぱり「わからないまま」では悔しいということで、
自分なりに解釈を試みてみました。
いつも通りの但し書きになりますが、
様々な解釈が可能な作品ですし、元来、映画の見方に正解なんてないので、
違った感想や考えを持つ方も沢山いる。
あくまでも、伊藤Pの解釈だという前提でお読み下さい。
また、ネタバレしていますので、読む際はご注意下さい。
『ウルトラミラクルラブストーリー』を見てから読むことをお薦めいたします。
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舞台は青森県の田舎。
主人公の陽人は、農業を営む青年。
部屋の片付けは出来ないし、一日の行動もホワイトボードに書かないとダメ。
言動も子供じみているかなり風変わりな人物。
もう一人の重要人物となる町子は、浮かない顔をして東京からやって来る。
町子は、交通事故で要(かなめ)という名の彼氏を失った。
しかも要の首は事故の衝撃ですっ飛び、未だに見つかっていない。
失意の町子はかねしろ幼稚園に新しい先生として勤め始める。
そこで、近所に野菜を売りに来た陽人と出会う。
陽人は町子先生に一目惚れしてしまい、
その後も幼稚園に訪れて町子に無理矢理会おうと試みる。
しかし、町子は、要のことを引きずり続けているし、
陽人のテンションについていけない。
それでも陽人は、無神経というか、なんというか、
強引ゴー!
町子先生に対する思いを諦めない。
そこら中で騒動を起こす陽人は、ばあちゃんのもつから外出禁止令を喰らう。
どこにも行けない陽人は、小学生と遊びながらキャベツ畑に首だけ出して埋まる。
小学生は近くにあった噴霧器で農薬を撒き散らす。
陽人の顔も農薬だらけとなる。
飽きた小学生は、陽人を埋めたまま帰ってしまう。
それでも陽人は笑顔で埋まり続け、身動きが取れないままやがて夜を迎える。
ここまでは普通なんだけど、
この後から、本作は奇想天外な物語を展開していく。
三沢病院のベッドで目を覚ます陽人。
畑に埋まった陽人は、やがて気を失ったのか、病院に担ぎ込まれていた。
目覚めた陽人は、今までとは違い、
静かで、落ち着いていて、言葉遣いも、礼儀も正しい。
再び町子先生に会うために幼稚園を訪れた陽人の好青年ぶりに、
町子は驚き、困惑するも陽人と一緒に帰る。
歩く道すがら、人が変わった陽人に心を少し開いたのか、
町子先生は陽人に自分の携帯電話の番号を教える。
(陽人は電話を持っていない)
「好きな人いるの?片思い?」という陽人の質問に、
町子は「両思い」と嘘をつき、陽人を残して自転車を漕いで行ってしまう。
幼馴染みの太の所へ遊びに行った陽人は、
そこで突然ゲロを吐く。
嘔吐した陽人はまた元の陽人へと戻ってしまった。
これでは町子先生に嫌われてしまう!
町子は町のカミサマと呼ばれる祈祷師(?)から、
「生きている者は死んでいる者の声に耳を澄ませ」と諭される。
陽人の結婚資金としてもつが貯めていた金を仏壇から盗み、
太から農薬を大量に買う。
そこで、陽人は太から町子の彼氏に関する噂話を耳にする。
家にいた町子の携帯が鳴る。
表示は“公衆電話”。
要からの電話だと思い込んで出るが、聞こえて来たのは一方的に話続ける陽人の声。
陽人は再び農薬を浴び、好青年となり、
町子と一緒に帰る。
町子が生物の進化についての話をしている最中、
陽人はしゃがみ込む。
町子を先に帰らせ、バレないようにゲロを吐く陽人。
三沢病院で診察を受ける陽人。
心臓の音がほとんど聞こえない。
病院から町子に電話をかけ、心臓がほとんど止まっていること、
町子先生と結婚して、一緒に住みたいことを告げる。
町子は動揺しながら「結婚できない」と断る。
はしゃぎながら道を歩いている陽人。
そこに首の無い男(ARATAが演じている)が通り過ぎる。
要だと直ぐに察知した陽人は、声をかける。
他愛のない話をする2人。
別れ際、陽人は要から靴を貰う。
心臓が止まった陽人。
三沢病院で、死亡が確認された。
翌日、普通に農作業をしている陽人。
そこに町子が現れ、陽人の胸に耳を当て、心臓の音が聞こえないことを確かめる。
その時、陽人が履いている靴が要のものであることに気が付く。
陽人は「ゾンビ!」と子供たちにからかわれる。
ここから町子の陽人への接し方が変わる。
ガラクタだらけの家を掃除し、一緒に暮らし、陽人の日々の体調を書き留める。
陽人は何も食べない。クソも出ない。
ある日、町子は陽人が農薬を浴びているのを発見し、
「死んじゃうじゃない!」と怒る。
森の中を歩く陽人と町子。
陽人は再び町子先生に好かれて、結婚して一緒に暮らしたい、
そのための薬が農薬だと言う。
それに対して、
「なるべく今まで通り一緒に暮らすから、農薬なんかに頼らないで」
と町子が言うと、
陽人は大喜びで走り出す。
そして、熊と間違えられて猟師に射殺される。
陽人の葬式。
誰も泣いていない。
葬式に参加せず、一人で畑を耕すもつに声を掛ける町子。
やがて、たくさんの子供たちも畑にやって来て、
立派に育った野菜を引っこ抜き始める。
陽人の部屋で、
陽人がテープに吹き込んだ野菜の育て方を聞く町子。
ホワイトボードには“自分が死んだら町子先生に脳味噌をあげる”と汚い字で書いてある。
ある日、町子が子供たちと一緒に森を歩いている。
リュックの中にはホルマリン漬けにされた陽人の脳味噌が入っている。
はしゃぐ子供たち。
森の中で輪になって座り、真ん中に脳味噌を置く。
カミサマの教え通に「耳を澄ませてみよう」と町子が言う。
どこからかテープレコーダーの陽人の声が聞こえてくる。
そして、茂みの中から熊が現れる。
自分と、子供たちの身を守るためか、
町子はホルマリン漬けの瓶を空け、
陽人の脳味噌を熊めがけて投げつける。
脳味噌をムシャムシャと食べる熊。
微笑む町子。
ここで映画が終わる。
かなり端折っているので、
映画を見ていない人はこれだけじゃ分からないかもしれないけど、
中盤から後半にかけて、かなり変なお話だ(特に後半)。
ストーリーだけでかなり長くなってしまって、
申し訳ないんだけど、ここから解釈。
町子の彼氏であった要は交通事故で頭部を失っている。
つまり脳味噌がない。
それが町子のトラウマにもなっている。
陽人は農薬を浴びて、数回ゲロした後、心臓が止まる。
陽人の死亡が三沢病院で確認されるシーンの直前、
陽人は要と出会う。
恐らくこれは、
町子に好かれたい、両思いになりたいと思い続けた末に見た陽人の夢でしょう。
ここで心臓のない陽人と頭(脳味噌)のない要は同化したのだと思う。
その象徴が陽人が貰った要の靴。
町子が生き返った陽人と一緒に暮らし、
ちょっとずつ受け入れ始めるのも同化があったから。
だからこそ、ずっと一緒にいるという。
その直後に陽人は射殺される。
陽人の葬式で誰ひとりとして泣いていない。
続いて、陽人がきちんと育てたキャベツを収穫するシーンがある。
作物の種はまた新たな作物を作り出す。
陽人は亡祖父が吹き込んだ野菜の作り方のテープを真似て、
新たにジャガイモの育て方、収穫の仕方を録音する。
ジャガイモが育って、それが次の年のジャガイモの元になる。
陽人は「また来年!」と語る。
そして、ラストシーン。
町子は脳味噌を熊に投げる。
この町子の行為は、頭が無かった要との決別を意味する。
だから最後の町子の表情は笑顔だ。
多分、陽人に感謝したんだと思う。
陽人はいつまでも要の一件を引きずっている町子に、
新たな人生を歩んで欲しくて蘇った。
命を落としても復活し、
愛する人に幸せになってもらいたいという陽人の思い。
まさに“ウルトラミラクルラブストーリー”!
究極の愛情表現だ。
手塩を掛けて育てたジャガイモやキャベツの成長が、
次の年の実りへと繋がるように、
人は様々な経験や出会いを通して成長する。
野菜も人間もちゃんと面倒みないと育ったない。
※町子が幼稚園の先生で、生物学を学んでいたのにも意味がある?
そして、野菜が人に多くの栄養素をもたらすように、
生きている間、人は様々な感情(栄養)を他者に与え、一生を終える。
人が死ぬことによって残る死者の思い出。
それは悲しいことばかりではない。
残された者は、その人との思い出を胸に残しつつも、
決別し、希望を持って新たな一歩を踏み出さなくてはならない。
そして、カミサマが町子にいうように、
死者の声に耳を澄ませ、そこから何を聞き取るか?
カセットテープの野菜の育て方が、
おじいちゃん → 陽人
という風に受け継がれているのも比喩的表現の一つでしょう。
本作の最大のテーマは、“生と死と希望”だ。
人間は死んだら、その人の生きた証が残る。
野菜と同じ様に、それを次に繋げるということかな。
また、農薬だけど、
農薬を散布するヘリコプター(の音)が、かなり印象的に登場する。
結構、不気味な演出が施されているし、
陽人自体も農薬にやられてしまう。
農薬は野菜を育てるのに必要なのかもしれないけど、
一つ間違えると大変なことになりますよ。
という横浜聡子監督のメッセージか!?
深読みし過ぎ!?
『ウルトラミラクルラブストーリー』の資料に、
山本政志監督が「横浜聡子は理詰めじゃない」と書いていた。
おっしゃる通り『ウルトラミラクルラブストーリー』は、
細かく分析するというよりは、体感型の作品だと思う。
それでも、セリフや登場人物の言動には“意味がある”わけだから、
そこを紐解くのもまた本作を見る楽しみの一つだかなと。
ということで、『ウルトラミラクルラブストーリー』のネタバレ解釈篇でした。
コメント (4)
はじめまして。
ネタバレ解釈読ませていただきました。
実はこの映画は今の所、3回観に行ってますが、毎回色んな事に気づき、泣き、度肝抜かれる・・・といった事を繰り返していました。
心に何も残らないようで、じわじわとどんどん色んな思いが込み上げて来て、
色々自分なりに考えたくなる。。。
考えるな!感じろ!
と横浜監督が前宣伝でも仰ってましたが、考えなくても、考えさせられるような・・・逆にいろんな想像が浮かんで、深い?と思うようになりました。
>野菜も人間もちゃんと面倒みないと育ったない。
この言葉響きました。
この映画は対峙だな、とは思ってましたが、首の無い要と心臓を町子先生にあげた陽人の併せ解釈はあああ!っと新たな驚きで面白かったです。
そして、もう一つ。
この映画は大好きな絶叫マシーンに乗る前と乗った後の感覚にもすごく似ているなーと思いました☆
明日はそれを踏まえてもう一回観てこようと思います!
長々と失礼いたしました。
どうもありがとうございました。
投稿者: ちり | 2009年06月12日 10:41
>ちりさん
コメントありがとうございます。3回も見ているんですか?凄いですね。しかも4回目にトライするとは・・・。脱帽です。
それだけ魅力的な作品ということなのでしょう。
確かに、全部見て、ある程度解釈してからもう一度見るとまるで気にならなかったことが、改めて「あぁ!そうだったのか!」という風になるケースがあるように思います。
そして、仰るとおり、“Don't think.Feeeeeeeeeeel!”と言われても、
考えてしまう作品ですよね。
投稿者: 伊藤P | 2009年06月12日 20:33
はじめまして、ネタバレ解釈を読ませていただきました。
先日レンタルして、初めてこの作品を観たのですが、最初の感想は「なんじゃこれ・・・」でした。でもそれから毎日この作品が頭の中でぐるぐる何回も出てきて、気になって仕方がないのです。
ネタバレ解釈を読んで、なるほど、と思いました。その解釈を納得するわけではないのですが、ちょっとすっきりしました。
まだまだ色々考えそうですが、当時この作品がどのような評価をされたのかは、知りませんが、いい作品だと思います。
松山くんと麻生さんにしか、出来ない、いい作品だと私は思います。
投稿者: ゆみこやま | 2011年02月24日 23:57
自分は陽人の脳みそがクマに食べられて陽人がクマとして蘇ったのがミラクルラブストーリーかなと思ってました。
投稿者: 通りすがり | 2014年09月04日 23:43