8月22日よりシネカノン有楽町1丁目ほか全国にて 配給会社:ギャガ・コミュニケーションズ (C) 2009「ちゃんと伝える」製作委員会 |
2009年暫定ナンバー1である『愛のむきだし』園子温監督の最新作。
今までのイケイケドンドンな作風から打って変わって、
日本映画らしい日常生活を切り取った、静かで、情感豊かな人間ドラマになっている。
主人公史郎の父親は厳格な高校教師で、家庭でも学校でも史郎に対して厳しい。
そのため史郎は父親に対して屈折した感情を抱いていた。
しかし、父親が病に倒れたことをきっかけに、
史郎は父親と真剣に向き合うことを決め、毎日病院へ見舞いに行く。
そんな史郎に父親は、
“元気になったらお前と湖に行って釣りをしたいんだ”と言う。
しかし、ある日、医者から史郎に残酷な宣告が下される。
“史郎さん。あなたがガンです”
ガンや死を扱っているけど、世に氾濫するお涙頂戴の余命ものではない。
園子温監督は2008年1月に父親を亡くしている。
その父親への思いを込めた私的な作品ではあるが、
決して、独りよがりのマスターベーションにはなっておらず、
自分の今までの人生、これからの人生に、
そして、父親はもちろん、自分を取り巻く人たちとの関係について色々と考えさせられた。
監督自身の私的体験を元にしていながらにして、
見る者の心に突き刺さり、
人生を見つめ直させるという点で、『ぐるりのこと。』と似ていると感じた。
更に、2006年に他界した伊藤Pの父親自身が、
“息子である自分に対して、どのような思いであったのか?”
“何を伝えようとしたのか?”
という今では想像するしかないことまで考えてしまった。
そんな様々な思いをめぐらせることを可能にしたのは、
作品の内容は勿論だけど、役者のナチュラルな演技があるから。
史郎を演じたのはEXILEのAKIRA。
映画にはちょいちょい出演しているようだが、
今回は初主演にして、複雑な感情表現を求められる難役を見事にこなしている。
正直、EXILEにまるで興味がないんで、
“EXILEのAKIRA”という見方はあまりしなかった。
それでも漠然としてあるEXILEのイメージとは掛け離れていて、
AKIRAはどこにでもいるごく普通の青年にしか見えなかった。
で、今日、テレビのCMに出演しているAKIRAを見たんだけど、
テロップを読むまでAKIRAだって気が付かなかった。
きっとEXILEのAKIRAを知っている人が『ちゃんと伝える』を見たら驚くと思う。
父親を演じた奥田瑛二は、流石の貫禄。
サッカー部を指導する時の鬼気迫る様と、
時折見せる優しさの落差を違和感なく表現している。
そして、本当に素晴らしかったのが伊藤歩。
たまーに、どうにもならない演技をさせられていることのある女優さんですが、
この手のナチュラルな演技を求められる作品では、俄然映える。
とあるシーンのクローズアップと、また別の長回しシーンで見せる表情と、
釣堀りで語るセリフに完全ノックアウト・・・
こういう役者の良さを引き出すのも監督の手腕だと思う。
今、伊藤Pは35歳。
まだ35歳なのか?もう35歳なのか?
ひょっとしたら、夏の到来と終わりをちゃんと伝えるセミのように、
短い生涯を遂げるかもしれない。
いつ終わるともわからない人生。
その間、自分は大切な人に自分の気持ちをちゃんと伝えているだろうか?
伝える勇気と伝えなかったことへの後悔。
遅かれ早かれやってくる最期の瞬間。
その時が突然であっても良いように、
いろんな意味で備えておかなくてはならないのかなと。
そして、この映画の良さがこの文章でちゃんと伝わり、
多くの人が見に行ってくれることを願う。