9/26より有楽町スバル座ほか全国にて 配給会社:キノフィルムズ (C)2009「のんちゃんのり弁」製作委員会 |
マンガの映画化らしいが、元々マンガには疎いからか存在すら知らなかった。
調べたところ95年から98年に「モーニング」に連載されていた同名マンガだった。
10年以上も前の作品で連載も終了しているし、マンガ自体絶版。
『カムイ外伝』同様、“何故、今?”って。
でも今回の企画はマンガありきからスタートしたのではなく、
プロデューサーたちが緒方明監督と一緒に映画を作りたいと思い、
緒方監督に合った題材を探しているうちに原作のマンガに巡り会ったという。
その点では昨今のマンガの実写化とはスタンスがちょっと違う。
主人公の小巻は親のスネかじりで働こうとしない旦那に愛想を付かし、
一人娘ののんちゃんを連れて実家に帰ってしまう。
でも今後のことは、ノープラン。
貯金も底をつき始め、流石にヤバイと仕事を探すも、
理想が高すぎて上手く事は運ばない。
ビラ配りや飲み屋の仕事をしてみるものの、どれも長続きしない。
今までぬくぬくと生きて来た小巻は、社会の厳しさも知らず、
特技と言えば、娘に作ってあげるのり弁当ぐらい。
ところが、ひょんなことから小巻ののり弁が評判になり、
小巻は人生最大の決意をする。
時代設定はマンガが連載されていた90年代から現代に置き換えられている。
この10年間、世の中の流れの早さは凄まじく30代女性の意識も大きく変化した。
原作を読んでいないから確実なことは言えないけど、
その辺を的確に汲み取りつつ、小巻のキャラクターの面白さを活かし、
今の時代にマッチするような作りにしたのでしょう。
製作陣は30代の普通の女性が、
今の時代を生き抜いていくことがどれだけ困難かを訴えつつ、
それでも頑張って生きていこうとする小巻の姿を描くことで、
ちょっとでも勇気を持ってくれればと思って作ったに違いない。
本作を見た女性がどれぐらい共感するのかは分からないけど、
男の自分が見ても前向きになれたから、
決してマイナス的な捉え方はしないでしょう。
作風自体もコメディタッチで非常にライトな作りになっており、
肩肘張らず、気楽に見ることが出来る。
お気楽さの中に適度なビターテイストを馴染ませたのは、
緒方明監督の手腕によるところが大きいんだろうけど、
主演の小西真奈美の役割もでかい。
かつて「水10!ココリコミラクルタイプ」で小西真奈美のコントを見た時に、
この人はヤバイと思った。
嫌な女、怖い女、可愛い女、したたかな女、面白い女、どんな女にも成りきっていた。
ひとつのコントの中で、複数の女を演じ分けていることもあった。
小巻は映画の中で、様々な表情を見せる。
泣いて、笑って、喧嘩して、よっ!ど根性ガエル!
・・・もとい、そんな小巻の感情を巧みに且つ、自然に演じている。
コメディの部分もやり過ぎないギリギリのラインで押し留めており、
浮かないようにしている。
(岡田義徳演じる夫との喧嘩シーンだけは、ちょっと微妙だったけど)
きっと多くの女性が、小西真奈美演じる小巻に共感するんじゃないかな。
それから小巻を取り巻く人たちの描写が行き届いている。
小巻は離婚を決意するけど、のんちゃんはパパが大好き。
親の身勝手に振り回されるのんちゃんの心情もちゃんと描いている。
実を言うと女の生き様よりも小巻と娘ののんちゃんの関係に心打たれた。
隣で見ていた女性は、ラスト近くにある小西真奈美の大一番のシーンで泣いていた。
確かに泣き所だ。
でもそれよりも、ラストカット前の、手のクローズアップのショットにウルっときた。
小巻がお世話になる小料理屋“ととや”の主人・戸谷が、
小巻に向けて発した一言がもの凄い活きてくるシーンだった。
ここでは詳しく書かないので、是非、映画を見て確認して欲しい。
この他、「お金を稼ぐことは悪いことじゃない」など、
戸谷はナイスな格言を残してくれる。
そんな戸谷を演じた岸部一徳を筆頭に、母親役の倍賞美津子、
小巻といい感じになる川口役の村上淳といった脇を固める役者さんたちも流石の演技だった。
あと、小巻が作るのり弁を始め、出てくる料理が全部美味しそう。
見たらお腹空くよ。
のり弁ののりが食べる時にガバっと剥がれない裏技も教えてくれて、
ちょっと「伊東家の食卓」だった。
甘味と渋味がほど良くブレンドされ、
ホッと出来て、さっぱりとした気分になれる緑茶みたいな映画だった。