![]() 9/26よりシネマライズ、新宿バルト9ほか全国にて 配給会社:アスミック・エース エンタテインメント (C)業田良家/小学館/2009『空気人形』製作委員会 写真/瀧本幹也 |
ボロアパートに住む冴えない独身中年男・秀雄の寂しさを紛らすための空気人形が、
ある日突然、心を持ってしまう。
外の世界に出た空気人形はたくさんの人たちと出会い、
多くのモノに触れ、様々な事を吸収していく。
そして、バイト先で出会った純一に想いを寄せ始めるが。。。
本来心を持たない人形に心を持たすことによって、
逆に心を持っている人間の虚無感を浮き彫りにした作品。
原作として短編マンガがあるらしいが、
是枝裕和監督が作り出した本作は独創的だ。
空気人形とはダッチワイフのことな訳で、
一歩間違えると卑猥になってしまうが、その世界観は聡明透明であり神秘的。
そして時に辛辣だ。
普段、我々が生活していくにあたり接触する物事が、空気人形にとっては新鮮で、
当たり前なことが当たり前ではない。
また人間が平然と生み出すゴミも象徴的に描かれている。
人にしろ物にしろ存在意義がある(はず)。
しかし現代社会に生きる人たちの多くは疲弊し、気力を失っているし、
世の中には物が溢れ次々と消費されていく。
自分のことばかり考え、道端に咲く花に目を向けることもない。
空気人形は勘違いをして、ある人物を殺めてしまい、
他の人たちがしている様に袋に入れてゴミ収集所に死体を捨てる。
かなり残酷な話だが、人を人と思わず、
消耗品として捉えるようになってしまった今の日本社会を表しているようだ。
舞台が昭和の面影を残す町並みで、
高層ビルに囲まれた場所に位置している点も意味深い。

是枝監督は様々な描写、小道具、設定、セリフを用いて、
捻じ曲がった世の中に生きる人たちの空虚感を描き出す。
そんな是枝監督の意図を理解し、
人形でありながらも世の中を映し出す役割を担うという難役をこなしたぺ・ドゥナが素晴らしい。
前からその演技力には定評があるけど、心を持ってしまった人形という、
決して日常生活では経験することの出来ない心情や動作を体言するのは、
困難だったに違いない。
暗く重いテーマを内包した作品だけど、
ペ・ドゥナの存在がある種の清涼感と優しさを生み出している。

その他、ARATA、板尾創路、高橋昌也、余貴美子、岩松了、星野真里、
柄本佑、寺島進、オダギリ ジョー、富司純子と豪華キャストがゾロゾロと登場。
この俳優さんたちが演じている登場人物の共通点は、孤独。
自分はこの登場人物たちほど孤独を感じてはいない。
勿論、日々、不安やストレスを抱えているけど、
ダッチワイフは持っていないし、過食症じゃないし、若さを追い求めてもいないし、
ストーカーでもない。
だからマイナスオーラをデフォルトされた登場人物を見せられたからって、
正直、“だから何?”って。
彼らが再生されたとしても、自分の日々の不安やストレスが解消される訳でもない。
いくら現代社会の病理を描いても、“世の中変わらないぜ!”って。
そして、気付いてしまった。
実は俺が病んでるじゃん・・・って。
こんな風にしか映画が見られなくなった自分に愕然・・・
映画は心の栄養となるはずじゃないのか!?
勇気をもらえるんじゃないのか!?
いや、空気人形を通して、
現代社会の虚無感を浮き彫りにするというアイディアは斬新だし、
それを描くことも見事に成功していると思う。
ファンタジーだけどリアルという世界観も良い。
なのに、最後に残ったのは己の空虚感。
やべぇ、再生しないと!