10/10より新宿ピカデリーほか全国にて 配給会社:角川映画、角川エンタテインメント (C)2009 Imagi Crystal Limited Original Manga (C)Tezuka Productions Co., Ltd. |
日本が誇る「鉄腕アトム」のハリウッド版。
日本が誇るとか書いていながら、
「鉄腕アトム」をちゃんと読んだことも見たこともない。
でもその分かえって、このCGで描かれた「鉄腕アトム」を抵抗なく、
すんなりと受け入れることが出来たのかもしれない。
天才科学者テンマの息子トビーが、予期せぬアクシデントで命を落とす。
悲しみに暮れるテンマは息子と瓜二つのロボットを作りだす。
そのロボットはテンマの元を離れ、やがてアトムと名乗るようになり、
過酷な運命に立ち向かっていく。
冒頭からお尻までテンポが良く、飽きることなく見ることが出来た。
しかしながら、テンポを良くし過ぎたか、
テンマとアトムの親子関係の描写が甘い。
アトムの戸惑いの心情はまだ理解出来るものの、
テンマの考えがコロコロ変わって困る。
というか、俺らより翻弄されるアトムが可哀想だろ!
まぁ、所詮、子供は親の我が侭に振り回される運命なのさ。
そんな話はさておき、
親子愛の部分は、日本の宣伝展開でかなり強調されていたので、
期待していたんだけど肩透かしだった。
テンマの心境の変化が段階を踏めていないから、説得力がない。
でもね、プロデューサーのマリアン・ガーガーにインタビューをした際に、
『ATOM』のセールスポイントについて質問したら、親子愛という言葉はなく、
優れたストーリーとそれを彩るアクション、コメディと言っていた。
インタビューの時間に余裕があったから、
蛇足で“好きな映画は?”って聞いたら、『サウンド・オブ・ミュージック』を挙げ、
その理由の3番目位に父親と子の要素を出してきた。
そして、“それは『ATOM』にもあるわよね”、といった程度のノリだった。
つまりそこまで重要じゃないってことだね。
映画が持っている様々な要素を切り出して、
日本のマーケットに合った独自の宣伝方針を取ることは洋画では当たり前だ。
だからこの類の期待感のズレは致し方ないとは思う。
『ATOM』に至っては、本編中にちゃんと親子のテーマが入っているから、
誇大広告でもないしね。
そんな感じでちょっと宣伝文句に引っかかっちゃった親子関係以外の部分は、
どれも良かったと思う。
先述の通り、テンポは良いし、
アクションの描写にも引き込まれた。
初めてアトムが自らの能力を知り、大空を飛ぶシーンは爽快だったし、
敵との空中チェイス&バトルもスピーディーなうえ、ユニークで面白かった。
先の親子愛をはじめ、出会い、友情、裏切り、勇気、優しさ、道徳観といった、
この手の作品に必要不可欠なポイントは押さえている。
子供に見せても安心だ。
更に環境破壊、機械化産業の弊害など、
現代社会が抱える問題に対するメッセージも鼻につかない程度で好ましい。
CG化されたキャラクターのビジュアルは、
見る前は“どうかなー”って、ちょっと懐疑的だったけど、
動く絵を見たらまるで気にならなかった。
アトム可愛いって思えたから一安心。
古くは『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』
(不幸にも一番最初に映画館で見た洋画がコレというスタッフがいる)、
最近だと『DRAGONBALL EVOLUTION』と日本が産み出したエンターテイメント文化が、
ハリウッドで映画化されると酷いことになるケースが多かった。
今回は初期段階から手塚治虫先生の長男である手塚眞さんが、
監修として加わっているし、手塚プロもかなり協力的だったという。
この辺が、製作総指揮として名前だけ貸して悲惨な目に遭ってしまった鳥山明先生と違うところ。
作品の世界観をきちんと理解している人物(原作者や権利所有者)と製作陣が、
どれだけ意見交換出来るか。
これがオリジナルとの乖離を防ぐように思う。
特に海外資本で映画化する際は、絶対に必要だと思う。
また、製作陣が余りにオリジナルを愛し過ぎても視野が狭くなってしまうから、
客観的に見る力とオリジナルに対する適度な愛情と敬意と誠実さが必要だ。
『ATOM』はこれが出来ていたのでしょう。
オリジナルを大切にしようとする暖かい愛情が伝わって来た。
そして、最後に一言。
今回、日本語吹き替え版で見たんだけど、
アトムの声を当てた上戸彩の巧さに驚いた。
誰がやっているのか思い出させないぐらい一体化していた。
■『ATOM』
※マリアン・ガーガー(プロデューサー) インタビュー テキスト