10/24より全国東宝系にて 配給会社:東宝 (C)2009 「沈まぬ太陽」製作委員会 |
2006年、角川ヘラルド映画(現:角川映画)が、
山崎豊子先生の「沈まぬ太陽」を映画化すると発表した時、
なんて無謀なことを、絶対に映画化は不可能だと思った。
しかし、製作発表から3年後、映画は本当に完成した。
まさにまさかの心境だった。
国民航空社に勤める恩地元。
労働組合長として会社と闘ったことが災いし、
カラチ、テヘラン、ナイロビと僻地へ左遷させられる。
家族と離れ離れで暮らし、親の死も看取ることさえ出来ない。
会社による理不尽な処遇と孤独との戦い。
やっと本社での勤務となるが、
その矢先に航空機史上最悪の墜落事故が起きてしまう・・・。
巨大組織に翻弄される一人の男。
彼を取り巻く家族、仲間、ライバル、そして、被害者遺族たち。
己の信念を貫き通そうとする男の生き様と企業組織の腐敗、
そして、1985年の日航ジャンボ機墜落事故・・・。
山崎豊子が渾身の思いで書き上げた、全5巻に及ぶこの小説は、
一言では語れない重く痛切なテーマを読む者に投げかけてくる。
数年前に読んだが、
人生観が変わってしまった。
それ程強烈な影響を及ぼした原作の映画化である。
原作のスケールとテーマ性を考えると、
作り手も中途半端な作品を作ることは出来ないでしょう。
でも、やはり見る前は不安だったし、期待しないように努めた。
果たしてどう映像化されているのか?
原作はほぼ時系列通りに進むのに対して、
映画はいきなりジャンボ機墜落。
その思い切った編集にちょっと動揺させられた。
その後も回想シーンを挟みながら、スピーディーに物語がガツガツと進んでいく。
長大な原作の全てを入れることは到底無理だし、
映画化に際して、山崎豊子先生から、
“一本の映画にして欲しい”という命題を課せられていたということで、
かなりザックリやっちゃっているんだけど、
原作にあった要点はキチンと抑えられていたように思う。
簡単に言えば、よくまとまっている。
“よく作ろうと思ったなぁー”ってのが、
“よく作ったなぁー”という意識に変わった。
スケール感もあったし、役者の演技も安定していて素晴らしい。
邦画では久しく感じることのなかった、
“これぞ、映画!映画を見た!”という重量感があった。
というわけで、
個人的にはかなり満足な3時間22分でした。
そして、何よりもこの映画を見て、原作にあったある疑問が氷解した。
これが大収穫だった。
何故、恩地元は会社を辞めないのか?
この疑問は、恩地元を演じた渡辺謙さんも原作を読んだ時に感じていたらしく、
その答えを模索しながら演じたと鑑賞後に読んだ資料に記されていた。
ちゃんと答えを出したという訳だ。
あと原作は、登場人物の名前が偽名ではあるものの、
明らかにモデルがいて、実際に起きた未曾有の飛行機墜落事故の原因と、
事故を引き起こした企業の実態を鋭くえぐった実録社会派という感じだった。
一方の映画は社会派な部分を少しだけ薄めて、
家族の在り方を原作以上に問掛けるという作りになっていた。
この向きを嫌がる原作ファンもいるかもしれないけど、
原作を単に追うのではなく、映画ならではの要素を入れた製作陣の勇気を買いたい。
原作の要所を抽出するだけでも大変な作業なのにね。
そして、ラスト。
原作を読み終えた時には感じることの出来なかった思いに至った。
原作はどちらかというと、
ジャンボ機墜落事故の凄惨さと遺族の深い悲しみに心を打たれ、
航空会社の傲慢さに憤りを感じた。
この部分が最も印象に残った。
しかし、映画は恩地元の生き様や家族の在り方は勿論だが、
その枠を少し越えた思いに辿り着いた。
人間は空を飛べない。
だから飛行機を作り出した。
でもそれは自然の摂理に反する行為とも言える。
飛行機に限らず、文明が進化し、世の中は便利になった。
しかし、利便性、合理性を追求するあまり、人類は大切な何かを失い、
そして、破壊してきた。
人間の英知の行き着く先は果たしてどこなのか?
ポスターのビジュアルにもなっているアフリカの太陽。
壮大なスケールの大自然。
映像だからこそ伝えられる何かがある。
これこそが、“映画化する理由”だと思う。
自分の中では、原作と映画を合わせて、「沈まぬ太陽」が完結した。
所詮、人間は自然には勝てない。
■『沈まぬ太陽』
※若松節朗監督 インタビュー テキスト
※若松節朗監督 取材記
※【控え室】「日航機墜落事故」