2009年10月22日更新

『沈まぬ太陽』 若松節朗監督 取材記

今回は、前回取り上げた『沈まぬ太陽』を映画化した若松節朗監督の取材記。


若松節朗監督


若松監督は10年ほど前にも、
映像化が困難と言われていた真保裕一の「ホワイトアウト」を映画化している。
正直、映画『ホワイトアウト』はかなり微妙な出来だった。


オマケにその後沖縄で撮った『子宮の記憶 ここにあなたがいる』はもっと微妙だった。


テレビドラマでは、「振り返れば奴がいる」とか名作と呼ばれている多くの作品を残しているけど、
映画とテレビドラマは別モノでしょう。


なので『沈まぬ太陽』を若松監督が撮ると知った時、
ちょっと不安というか、あまりピンとくるものがなかった。


しかしながら、紹介記事で書いた通り、
若松監督はあらゆる面で映画化が困難な山崎豊子の「沈まぬ太陽」を手堅くまとめ、
更に映画ならではのテイストを作品に持ち込んでいた。


若松監督の取材日は、映画を見た翌日。


鑑賞直後よりも後からジワジワと来る作品だったんで、
その濃厚な余韻を身にまとった状態でのインタビューとなった。


取材部屋で待っているとオンタイムで、若松監督がやって来た。


今回はシーエスGyaOの番組でも取り上げるので、動画カメラが入っての取材。


入ってくるなり、テレビカメラの存在に気が付いた若松監督は、
「うわぁ〜、テレビカメラが入ってるよぉ〜」と明らかに困惑したご様子。


伊藤P 「撮る側から撮られる側ですね」


若松監督「だから嫌なんですよ」


伊藤P 「20分ばかり、ご辛抱下さい」


若松監督「編集しますよね?」


伊藤P 「勿論しますので、ご安心下さい」


若松監督「お手柔らかにお願いしますよ」



かなり苦手のようで・・・


でも、インタビューをしてみると、返しは端的でまとまっており、
苦手意識を持つ必要はないのでは?と思ってしまった。




「どうしても、この原作を映画化したかった」
「どうにかなると思って飛び込んでみたが、プレッシャーだらけだった」


映画化に対して情熱を持って挑んだものの、やはりかなりの重圧があったようだ。


そして、
「原作は企業モノ、事件モノといった社会派な部分と、
 権力や名誉欲といった人間のエゴが描かれていたが、
 映画化に際して、あえて家族、恋人の要素を多く入れた」


と語ったので、「原作と映画では少し印象が異なった」ということを伝えると、
逆に若松監督から質問を喰らった。


若松監督「印象が変わるのは、まずかったですかね?」


伊藤P 「いや、良かったと思います。原作を読んで感じた疑問が、最後のシーンで解けましたし」


若松監督「良かったです」



その後も若松監督は作品、そして原作に対する思いを熱く語ってくれたんだけど、
(内容はインタビュー記事に譲ります)
逆質問の攻撃も熱かった。


伊藤P 「原作者の山崎豊子さんが映画をご覧になったら、どう感じると思いますか?」

若松監督「きっと厳しいお言葉を頂くと思います。覚悟しております」


伊藤P 「この映画の出来だったら、文句言わないと思いますよ」


若松監督「そうなってくれれば嬉しいですけど」


伊藤P 「原作を踏襲しつつ、映画ならではの作品に仕上がっていたと思います」


若松監督「そうですか?恩地の生き様はちゃんと伝わりましたか?」


伊藤P 「その部分は原作以上に、伝わってきました」


若松監督「そうですか!じゃぁ、どっか良い感じで涙したシーンはありますか?」


伊藤P 「ラストと牛丼屋のシーンです」


若松監督「牛丼屋ですか?ありがとうございます!良いシーンですよね?」


伊藤P 「グッときました」


若松監督「奥さんの手を繋ぐところはどうでしょうか?」


伊藤P 「そこはあんまり・・・」


若松監督「そうですか?結構、見た方は女房の手を握りたくなったって言ってくれたんですけど」



すっかりインタビュアー若松節朗と化してしまいました。


やっぱりこれだけの規模で、いろんな面で期待されている作品を作った訳だから、
どれだけ受け入れられるか不安なのでしょう。


それだけプレッシャーがあったってことだと思う。


インタビュー自体は、とても良い話が聞けたと思うし、
何よりも若松監督の本作に掛けた意気込みを感じ取ることが出来た。


で、思ったのさ。


作品もしくは対象者に興味がないと、良いインタビューは出来ない。


中には作品はつまらないし、対象者にも興味がないしというインタビューが、
どうしてもある。


その手のインタビューは、大概、ダメだね。
グダグダか、面白くない。


今回は、原作が好き、映画も良く出来ていたし、
壮大なスケールの作品を手掛けた監督に話を聞いてみたいという、
インタビューに対するこちらの意気込みを強くさせる動機があった。


監督は当然、自分の作った作品なんだから愛情を持っている。
こちらも色々聞きたいという意志がある。


お互いの感情が上手く作用するから、インタビュー自体がスイングするんだと思う。


インタビューで良い話が聞けたときとか、全身に電気が走ったりすることもある。
鳥肌立ったりとかね。


これってインタビュアーが、その発言を引き出した瞬間ってことだ。


どうでも良い作品や興味があまりない人だったら、、
そういう発言を引き出したいと強く思わないじゃないかな。


興味がないならインタビューしなきゃいいじゃん!って思うかもしれませんが、
いろいろ事情があるのでございます・・・。


そんなこんなで、今回も全身にビリビリって電気が走る瞬間が何度かあった。
良かった、良かった。


あとは我々が若松監督の“熱”をちゃんと伝えなくちゃいけない。


インタビュー終了後、「ありがとうございました」と言って、
取材部屋を出ようと思ったら、若松監督がツカツカと寄って来た。


若松監督「映画の出来はどうでしたか?」


伊藤P 「良かったと思います」


若松監督「本当ですか?共感してもらえましたか?」


伊藤P 「人生のベスト5に入るぐらい原作が好きで、見る前は不安だったのですが、      
      3時間22分、アッという間でしたし、良かったです」


若松監督「編集してみたら、前半、ちょっとせわしないかなぁって思ったんですけど」


伊藤P 「それは仕方ないんじゃないでしょうか?上映時間の問題もありますし」


若松監督「そうですか。じゃ、インターミッション(途中10分の休憩がある)は?」


伊藤P 「僕はなくても良いかなぁと思いました」


若松監督「でもね、年を取ると3時間22分ずっと座っているの辛いんですよ」


伊藤P 「そうでしょうね。最近、インターミッションのある作品もなかったですから、     
     久しぶりに大作映画という感じで良いのではないでしょうか?」



本当にインタビュアー若松節朗でした。


そして、最後に若松監督は「この作品を何とか宣伝してやってください」
と言って、手を差し伸べて来た。


こちらも手を差し出し、固い握手を交わした。


若松監督は60歳です。


伊藤Pよりもずっと年上です。


なのにこのようなことをして頂くとは・・・
若松監督の人柄の良さを感じました。

※若松節朗監督 インタビュー テキスト



沈まぬ太陽

『沈まぬ太陽』

10/24より全国東宝系にて
配給会社:東宝
(C)2009 「沈まぬ太陽」製作委員会


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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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