12/5よりTOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 梅田にて限定公開 2010年1月9日全国公開 配給会社:ショウゲート (C)2009 USEN CORPORATION All Rights Reserved. |
ドキュメンタリー映画を娯楽映画に昇華させたマイケル・ムーア監督の新作。
今回のテーマは“資本主義(キャピタリズム)”だ。
2008年9月15日のリーマン・ブラザース経営破綻が引き金となった金融危機。
そして、瞬く間に広がった世界同時不況。
アメリカでは住宅市場の大暴落や企業・銀行の倒産が相次ぎ、
一般市民は自宅と職を失っていった。
一体、なぜこんな自体が起きてしまったのか?
その原因をマイケル・ムーアが分かり易く説明してくれると共に、
金融危機を引き起こした投資銀行や保険会社の好待遇に切り込み、
「こんな世の中でいいのか?」と我々に問いかけてくる。
マイケル・ムーアの演出は偏っていることがある。
彼の主張を正当化するために、都合の良い情報しか開示していない。
例えば『シッコ』では、フランス、イギリスの医療を例に取り、
如何にアメリカと違って素晴らしい制度かを訴える。
でもきっとフランスやイギリスの医療制度に対して不満を持つ人もいるだろうし、
問題点もあるに違いない。
そういう部分をまったく取り上げない。
だからマイケル・ムーアのドキュメンタリー映画は客観性に欠けているということだ。
確かにそうかもしれないけど、
マイケル・ムーアの映画は、ドキュメンタリー映画の範疇を越えているように思う。
恐らく、題材を決めた際に、オチも考えていて、
思い通りのオチに行き着くために脚本を考え、それに沿った形で取材をしているのでしょう。
だから、ドキュメンタリー映画でありながらも、ちゃんとストーリーがあるし、
マイケル・ムーアの主義主張も明確に提示されるのだと思う。
これがマイケル・ムーアの作家性と言える。
しかも先日の初来日記者会見で、それぞれの国の制度は、
実際に住んでみないと分からないし、住んでみて分かることもあるだろうと明言していた。
本人も分かっているのである。
で、そもそもドキュメンタリー映画の定義なんだけど、
Yahoo!百科事典では下記となっている。
「劇映画と対比される映画の種類で、記録映画ともいう。
映画の本質的な成立条件である「記録性」を活用して事実を記録したノンフィクション映画をいう。
ニュースの速報、報道を第一義とするニュース映画とは区別される」
(Yahoo!百科事典参照)
オウム真理教を題材としたドキュメンタリー映画『A』、『A2』で知られる森達也氏は、
自身の著書「ドキュメンタリーは嘘をつく」で、
ドキュメンタリー映画の定義の曖昧さを訴えているし、
「ドキュメンタリーは事実の記録なのか?」という設問自体に無理があると述べている。
(参考文献:草思社公式HP)
つまり、ドキュメンタリー映画は、必ずしも客観的じゃないし、
作り手の意図する方向にディレクションすることが多々あるということだ。
ここがドキュメンタリー映画と客観性を重視する報道の違いとなる。
よって、マイケル・ムーアの作品には公平さがないと批難するのは、
ナンセスと言えるのかもしれない。
そんな訳で、マイケル・ムーアは今回も体制側を敵に廻して、
吠えまくる。
個人的にマイケル・ムーアって良いなぁーって思うところは、
彼が常に弱者の立場に立っていること。
本作でも弱者の視点だ。
家を失った者、職を奪われた者。
何故、彼がこんな目に遭わなくてはならないのか?
その原因を追究して行き着いたのが、“資本主義”と、
それを良いように操るごくごく限られた権力者たちだ。
周知の通り、今回の金融破綻は、ここ日本にもかなり影響を与えている。
映画業界もご多聞に漏れずで、
知る限り、今年に入って3つの配給会社が倒産、もしくは夜逃げした。
伊藤P自身も不況の余波を食らった。
『ボーリング・フォー・コロンバイン』、『華氏911』、『シッコ』で取り上げられた問題は、
間接的には影響があったかもしれないけど、
直接的な被害を被ったわけではないので、ちょっと対岸の火事だった。
しかしながら、今回ばかりは、劇中に登場する人々よりはまだマシだが、
他人事とは思えない。
いつ彼らと同じ様な状況に放り出されるかも分からない。
だからこそ、弱者の上に踏ん反り返って胡坐をかいている人たちに対して、
怒りと憤りを感じた。
まぁ、この怒りに関しては映画を見る前に、
金融危機の原因となった企業が公的資金で救われ、
その役員たちが億単位のボーナスをもらったと言う報道を目にした時点で、
感じていたことではあるんだけどね・・・。
で、マイケル・ムーアは、ちゃんと「こうしたらどうだろうか?」という提案をする。
ここが彼の良いところだと思う。
批判するだけでなくて、ちゃんと提案する。
これって重要だ。
この映画が世界不況を無くしてくれることはない。
それでも、
世界経済の事情が楽しく学べて、
尚且つ、今の自分の生活に当てはめてることが出来る。
更には勇気がもらえる。
凄い映画だと思う。
マイケル・ムーアは、「これが最後の作品のつもりで取り組んだ」と語っているけど、
貴重な存在なので、世の中の“不思議”にメスを入れて続けて欲しい。