1/30より全国にて 配給会社:東宝 (C)2010「ゴールデンスランバー」製作委員会 |
首相暗殺犯に仕立てられた無実の男・青柳雅春の逃亡劇を描いた娯楽作品。
『アヒルと鴨とコインロッカー』、『フィッシュストーリー』に引き続き、
中村義洋監督が伊坂幸太郎の同名小説を映画化。
その中村義洋監督作『ジェネラル・ルージュの凱旋』で共演した堺雅人と竹内結子が、
逃げる青柳と青柳を助ける元恋人・樋口晴子をそれぞれ演じている。
原作者と監督、監督と出演者といった感じでそれぞれ繋がりがあり、
そこの部分に新鮮味は感じられないんだけど、先に挙げた作品の完成度が高かったので、
見る前からある程度の面白さは保障されていると思っていた。
そして、期待通りエンターテインメント作品として、十分楽しめる仕上がりになっている。
突然、暗殺犯となり、仙台の街を逃げ惑う青柳。
誰を信じて、誰を疑えばいいのか?
青柳同様、観客も疑心暗鬼になるが、
話が進むにつれ、敵味方の判別がつくようになる。
青柳は味方の助けを借りながら、
次々と降りかかってくる試練を乗り越えて行く。
一方、青柳を最もサポートする樋口は、
青柳がどうして暗殺犯となってしまったのか分からないし、
自分の行動が青柳にとって助けになっているのかも判断が尽かない。
“とりあえず信じて、やるだけやってみよう”という感じで動く。
過去の出来事と記憶、様々な出会いと偶然が、
青柳の運命を変えていく。
そこが見所であり、
その見所が上映時間2時間19分の中にぎっしり詰まっている。
ただ、全部が全部OKかと言われるとそうでもない。
青柳が飄々としているせいか、
あまり切迫しているようには見えず、見ているこちらも緊迫しない。
「どうにかなるでしょう」という感じで、
今一歩サスペンスが盛り上がらない。
味方が判明してからは、
窮地を脱する方法や手段が、やや予定調和な感じがする。
青柳を暗殺犯に仕立て上げた張本人が誰であるかも、
警察という国家権力を動かせる人物が限定されるため、
早い段階で想像がついてしまう。
もっと細かいことをいうと、
青柳は逃走用として、長らく放置されていた車を使用する。
バッテリーはある人物がセットしてくるので良いんだけど、
問題はタイヤの空気圧だよね。
10年近くも放置された車のタイヤの空気は、間違いなく抜けています。
エンジンオイルは必ず劣化、消耗するし、
樹脂製のタンク部が裂けて冷却水が漏れている恐れもある。
単にバッテリーを交換したからと言って、車が走るとは限らない。
更に車の前後は草ボウボウの藪の中。
果たして、どうやって藪から脱出したのか?
また、首相は爆弾を仕掛けられたラジコンヘリによって暗殺される。
そのラジコンヘリを青柳が河川敷で操縦している映像が、
報道番組で流される。
映像には青柳と一緒にいる若い女性の姿が映し出されている。
彼女は事件前に青柳に近付いてきたラジコンヘリが趣味の井ノ原小梅という女で、
実は仕組んだ側の人間なんだけど、
第三者(劇中の視聴者たち)はそれを知らない。
だから青柳が疑われるのなら、彼女も疑われて然るべき人物だ。
なのに劇中、誰も触れない。
どんな形であれ、彼女のその後の行方をきちんと語らないと、
第三者的には事件解決という心境には至らないのではないだろうか?
てな感じで、ポツポツと「あれ?」と思うところがあったのは事実。
でもね、そんな疑問は、
「まぁ、いっか」という気持ちになる。
それは決して投げ槍なのではなく、
整合性が例え取れていなくても、許せてしまうパワーが本作にはある。
そのパワーの源は、豪華な出演者たちであり、
ひねりの効いた中村義洋監督の演出なのでしょう。
あと、本作のタイトルである「ゴールンデンスランバー」はビートルズの曲名で、
解散直前に制作された1969年アルバム『アビーロード』に収録されており、
「ゴールデンスランバー」〜「キャリー・ザット・ウェイト」〜「ジ・エンド」
という流れのメドレー形式になっている。
既に不仲が進行し、バンドの空中分解が決定的となる中、
なんとかかつてのビートルズに戻そうと試みたポール。
しかし、結局、メンバー間に生じた亀裂はどうすることも出来ず、
ポールはこのメドレーを失意の中で繋いだ。
その時のポールの心境について劇中触れられる。
「ジ・エンド」が、メンバー4人揃って録音した最後の曲だったことは知っていたし、
ポールがこのメドレーを繋いだことも認識していた。
しかし、ポールがその時、どういう気持ちでいたのかは、
あまり考えたことがなかった。
ちょっと切なくなった。
映画『ゴールデンスランバー』には青柳の学生時代の仲間が登場する。
人数は青柳含めて4人で、今はそれぞれ別々の人生を歩んでいる。
事件によって全員が一同に介することはないが、青柳を中心に接点を持つ。
その関係性がビートルズのメンバーたちとちょっと重なった。
■『ゴールデンスランバー』
※堺雅人&竹内結子 インタビューテキスト