2/5より丸の内ピカデリーほか全国にて 配給会社:ワーナー・ブラザース映画 (C)2009 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. |
1994年、長年の監獄生活を経て南アフリカ共和国の大統領に就任したネルソン・マンデラ。
アパルトヘイト(人種隔離政策)の余韻が残る中、人種の垣根を越え、
国をひとつにまとめようとするマンデラ。
その方法とは、1995年に南アフリカで開催されるラグビーのワールドカップで、
弱体化した自国の代表チームを優勝させることだった。
クリント・イーストウッドの記念すべき30本目の監督作品。
イーストウッドの作品は陰気で、どこかに死を匂わせるものが多いが、
本作は“こんな前向きなイーストウッド見たことない”ってなぐらい作風が違う。
前作『グラン・トリノ』のラストシーンを考えると、
もしかしたらそういった作品と決別したのかも知れない。
“もうそろそろ80歳だし、余生は明るく!前向いて!
みんなが元気になれる作品を作ろう!”って。
ラグビーを通して国が一つになっていく様子をじっくりと丹念に描き、
マンデラ役のモーガン・フリーマン、
ラグビー代表チームの主将役を務めたマット・デイモンの熱演も手伝って、
いつも通りの完成度の高い作品に仕上がっている。
ラグビーシーンは躍動感溢れ、汗の匂いが漂ってきそうなぐらいの熱気がある。
観客はエキストラにCGを加えているらしいんだが、全く気が付かなかった。
さりげなくテクノロジーを使うイーストウッドが心憎い。
ラグビーシーンだけでなく、人間ドラマも熱い。
27年間もの間投獄されていたにも関わらず、
マンデラは白人を抑えつけるのではなく、和解政策を執る。
白人を赦すというよりは、利用してしまう強かさが伺える。
そんなクレバーな一面も含め、
マンデラの人柄の良さと己の信念を貫く強い意志が伝わってくる。
マンデラが発する言葉の数々は、ずしりと心に響くものがある。
さて、誰もが知る実在の人物が登場するので、お分かりかと思うが、
本作は実話を元にしている。
硫黄島三部作、『チェンジリング』など、
イーストウッドは今までも実話ベースの映画を撮ってきたが、
今年の6月からサッカーのワールドカップが南アフリカで開催されるタイミングに、
この題材をぶつけてくるとは・・・。
バラバラで、憎しみあっていた国民が、
ラグビーによって一致団結するという感動的な話の裏側には、
今の南アフリカの現状を危惧するイーストウッドの思惑が見え隠れする。
残念ながら南アフリカは、犯罪増加、エイズ蔓延、失業率高、格差社会の拡大と、
あまりよい状態ではない。
今回のワールドカップの開催国である南アフリカの代表チームは、
無条件で出場できるわけで、
15年前にラグビーで成し得た奇跡を、再び期待しているのかもしれない。
普通の見て感動できるだけでなく、
15年前の出来事を引っ張り出すことによって、
現在の南アフリカに目を向けさせる。
イーストウッド監督の懐の深さにもう脱帽です。
そんなイーストウッドは、
現在、マット・デイモンを再び起用して「Hereafter」を撮影中。
どんな内容かは良く知らないけど、
『シックス・センス』みたいなスリラーらしい。
イーストウッドが、スーパーナチュナルスリラーをどう撮るのか?
今から超楽しみだ。
そして、やっぱり“死”を連想させる作風に戻るのでありました。