2/27よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国にて 配給会社:ファントム・フィルム (C)2009 CJ ENTERTAINMENT INC., FOCUS FEATURES INTERNATIONAL & MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED |
こんなバンパイア映画見たことがないというぐらい独創的な作品。
人を助けるために祈り続けた神父のサンヒョンは、己の無力に打ちのめされ、
謎のウィルスのワクチンを開発するための危険な人体実験に志願する。
生死を彷徨った末、サンヒョンは一命を取り留めたものの、
人体実験の輸血の影響により、身体に異変が起き始める。
それは生きるために血を欲するバンパイア化であった・・・・。
敬虔な神父であったサンヒョンは、
バンパイアになるが生きる糧である血液を得るための殺人は犯さず、
意識不明の人間の生き血や輸血の血を吸うことでなんとかしのいでいる。
しかし、幼馴染みのガンウの妻であるテジュと恋に堕ちたことから、
サンヒョンは更に波乱に満ちた運命をたどることになる。
一方のテジュも日々の閉塞的な生活に辟易しており、
サンヒョンとの出会いによって自らを解放させていく。
自制心と欲求。
このバランスが崩れ、歯止めがきかなくなった時、一体どんなことが起こるのか?
サンヒョンは、テジュに心を掻き乱され、快楽を貪ってしまうし、
今まで自戒していたことも破ってしまう。
テジュもある時点から本能の赴くままに行動し、自らを解き放とうとする。
本作はバンパイアを主人公にしてはいるが、
その感情や欲求は、人間のそれと大差ない。
吸血鬼が生きるために人を殺して血を吸うように、人間も殺生するし、
性欲に溺れてしまう人もたくさんいる。
パク・チャヌク監督はサンヒョンとテジュを通して、
人間が持ちえる欲望や甘さといった本質を否応なしに突き付けてくる。
サンヒョンとテジュは人間の性(サガ)を代弁している。
そのバンパイアであるが、多分に人間的なサンヒョンを演じたソン・ガンホは、
芝居を感じさせない流石の演技をみせている。
本当に素晴らしい役者さんだ。
対するテジュ役のキム・オクビンも凄い。
みすぼらしい姿から、次第に生気を得て輝きを増していくテジュを見事に演じ切っている。
その段階的な変貌ぶりは一見の価値ありだ。
そして、この二人がみせるセックス・シーンは濃厚の一言。
久しぶりにこんなに生々しいセックス・シーンを見た。
それとこの性描写だけでなく、
傷口にかぶりついて血を吸うシーンがまた官能的だ。
血を吸うシーンがエロいバンパイア映画は過去にもたくさんあったけど、
その多くがどこか退廃的な美しさだったのに対して、
『渇き』は色よい感じがする。
その血を得るために、
切ったり、突いたり、引き千切ったりと、
痛覚に訴える様な残酷なショットも満載だが、
何故か余り痛みを感じさせない上品な仕上がりになっている点も良い。
また、日頃、太陽の光を浴びることの出来ないサンヒョンは、
住まいの部屋一面を真っ白に塗り変え、
そこに真っ赤な鮮血が滴り落ちる。
この赤と白の対比がとても鮮明で、ビジュアル面もなかなかインパクトがある。
細かい設定も意味を成していて、本作に奥深さを与えている。
例えば、キリスト教徒の多い韓国。
自分の無力を悟り、禁断の扉を開けてしまう神父が主人公という点も非常に興味深い。
そして、堕ちたサンヒョンが、最終的に取る行動には、
人間が持つべき美学を感じた。
もうちょっと突っ込んで話したいところだが、ネタバレになるので、
この辺で留めておこう。
ともかく鑑賞後、暫く引きずった。
それぐらい重厚で奥行きのある作品だった。