3/6よりTOHOシネマズみゆき座、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国にて 配給会社:ブロードメディア・スタジオ (C) 2008 Hurt Locker, LLC. All Rights Reserved. |
2004年夏、戦時下のイラク。
爆発物処理の仕事に従事する若き兵士3人が体験する、壮絶な38日間を追う。
第82回アカデミー賞に『アバター』と並んで最多9部門にノミネート!
あらゆる映画賞で栄冠を獲得!
スティーヴン・キングが選ぶ2009年のベスト1!
それも納得の出来栄え。
全編に渡って張り詰めた緊張感にシビレまくった。
特に冒頭の爆弾処理シーンは、
まだこちらがその環境に慣れていないからか、
開始3秒でもうドキドキだった。
続いて本作の主人公となるジェームズ二等軍曹が登場。
爆弾はリモート操作も可能なので、
近くに不審者がいないかどうか常に目を光らせる必要がある。
そのためにチームを組む。
しかし、ジェームズ二等軍曹は、
チームワークが必要不可欠である爆弾解除の際のルールを守らない。
全く死を恐れず、ムチャクチャな手順で爆弾を解除する。
当然いつ爆発してもおかしくないから、他の作業をサポートする兵士たちはびびる。
そして、見ている我々も、
サポートする兵士と同じ様にびびる。
この恐怖は、そんじょそこらのホラー映画の比ではない。
爆弾処理だけでなく、
挙動不審のタクシー運転手の登場、砂漠での狙撃合戦、
テロ犯を深追いしての住宅街での追跡劇と、どれもこれもが息詰まる内容。
唯一、少しだけホッと出きるのが基地の宿舎なんだけど、
そこもいつテロの攻撃目標になるか分からないので、
結局のところ気を休める場所がなかったりする。
気を紛らわせるためか、ジェームズ二等軍曹は浴びるように酒を飲み、
遊びとは思えないような殴り合いを仲間とする。
爆弾処理の仕方だけでなく、オフの時間帯の過ごし方も、
まともじゃない。
そして、ジェームズ二等軍曹は、
オープニングにインサートされたある言葉通りの行動を取る。
まさに戦争ジャンキー。
そういう人間を作り出してしまう戦争。
しかも石油の利権問題とか間接的には祖国のためかもしれないが、
基本的には他国の治安維持のための闘いだ。
どうにもやり切れないはずなのに・・・。
脚本家のマーク・ボールはイラクで取材を敢行し、
イラクにおける米兵の戦死理由の半分以上が、
“爆死”であり、爆発物処理に携わる技術兵の死亡率が高いことを知る。
物語はフィクションだが、
マーク・ボールが目にした事実が作品の随所に散りばめられているという。
そう考えるとこの作品が伝える内容には、
ますます恐怖を感じる。
監督のキャサリン・ビグローは、マーク・ボールの書いた脚本を映像化するにあたり、
炎天下のヨルダンで撮影を敢行した。
そのため中東地域にある独特の雰囲気を捉えていて、
まるでドキュメンタリーを見ているかのような錯覚に陥った。
防護服に身をまとい玉の様な汗をかきながら作業するジェームズ。
見ているこちらも暑苦しいんだけど、
一方で常に恐怖がつきまとうので、内心はヒヤヒヤだ。
ジェームズ二等軍曹を演じたジェレミー・レナーが見せる迫真の演技も良い。
そして、この映画は絶対に巨大スクリーンと音響設備が整った劇場で見るべきだと思う。
爆発シーンでは低音の響きと共に風圧を感じ、
更にチリチリとした高音が耳をつんざく。
凄まじいばかりの爆発の衝撃を味わうからこそ、
爆弾処理時の恐怖も増す。
知覚と聴覚、そして触覚を研ぎ澄まさせながら、
狂気の世界を体感して初めて、この映画を見たと言える。
先日、本作のプロデューサーがアカデミー会員の知人、友人に、
「『ハート・ロッカー』に是非、1票」という規程に違反する内容のメールを送ってしまい、
ノミネートの権利剥奪騒ぎが起きた。
結局、そのプロデューサーの授賞式への出席停止処分と、
もしも『ハート・ロッカー』が受賞したとしても、
オスカー像は後日受け渡しという処置になった。
アカデミー賞作品賞受賞から一歩後退な感じだけど、
賞を受賞しようがしまいが、この作品の素晴らしさはなんら変わらない。
遠く離れた異国の地で、
こんな狂気じみた出来事が日常的に起きている。
酷い話だ。
でもって、なんでこの作品がPG12なん?
戦争の現実を子供たちに見せて何が悪いのだ。
親同伴ならOKだから、親は子供を映画館に連れて行こう!!
<追記>
この記事を書いた翌日に、“『ハート・ロッカー』訴えられる”という記事が・・・。
以下、ロイターの記事の抜粋。
“訴えを起こしたのは、イラク戦争に従軍したジェフリー・S・サーバー氏。
同氏は弁護士が発表した声明を通じ、脚本家マーク・ボール氏は、
同映画の「ほぼすべての場面」を自分にまつわる出来事を基に書いており、
「ハート・ロッカー」というフレーズを初めて使ったのも自分だと主張している。
サーバー氏側は3日に弁護士事務所での記者会見を予定しており、
「巨額の賠償訴訟」となる今回の訴えについて詳細を明らかにする。
一方、同映画の配給会社サミット・エンターテインメントは2日、
作品は「フィクション」であることをあらためて強調。
「サーバー軍曹が誇りと責任を持ち、大義のために命をかけて国に尽くしたことは疑い ないが、
映画はマーク・ボールが書いたフィクションの脚本に基づいている」
との声明を出した。
ボール氏はイラクで従軍記者として爆発物処理班と行動を共にし、
その経験談をプレイボーイ誌に寄稿。兵士たちの話を脚本にまとめ、
それが映画「ハート・ロッカー」になった。
サーバー氏側は、ボール氏が従軍していたのはサーバー氏の部隊であり、
映画内での主人公のニックネーム「ブラスター・ワン」は、
戦地でサーバー氏を表すコールサインだったとしている。”
流石、訴訟大国アメリカ。
『パーフェクト・ストーム』は、遺族から「事実と違う」と訴えられ、
『ファインディング・ニモ』、『ディスタービア』は、「盗作だ!」と訴えられた。
『ハート・ロッカー』は兵士たちの話を元に脚本化したということで、
様々なトゥルー・ストーリーをまとめて、
そこに整合性の取れた物語にするために必要な要素を加えたのでしょう。
全てが全て事実ではないから、フィクションといえばフィクションだけど・・・。
問題はどういう条件でマーク・ボールが、兵士たちに密着取材をしたかだと思う。
取材した時点では映画化は構想外であり、
映画化に際して、取材した兵士たちへ一言もなかったのかもしれない。
一方で訴訟に出たタイミングからしても、サーバー氏の売名行為のような気もする。
だって自分たちの仕事が命がけであり、
どれだけ戦争が凄惨なのかってことが世に知れ渡ることは、
決してマイナスではないでしょう?
映画化する際に、サーバー氏ら兵士たちと話し合って、
「イラクに赴いたアメリカ兵の話に基づく」とか、
エンドクレジットに取材させてくれた兵士たちの名前を入れて、
「彼らからインスパイアを受けた」って一文を入れるとか、
あるいは予め取材費を出すとか、そういう処置をしたら良かったのかもね。
そういえば、『スラムドッグ$ミリオネア』もアカデミー賞の発表前に、
スラム住民を蔑視しているって、訴えられたっけ。
まぁ、これはインドの話だけどね。
『ハート・ロッカー』が脚本賞を受賞すると思っていたんで、
この訴訟を耳にしてちょっと複雑な気分になった。
アカデミー賞の投票はもう終わったのかな?
何にしても、プロデューサーのポカといい、この訴訟といい、
何かとお騒がせな作品だ。
当事者には悪いけど、俄然、アカデミー賞が楽しみになってきた。