2010年05月26日更新

#480 『ヒーローショー』


ヒーローショー

『ヒーローショー』

5/29より角川シネマ新宿ほか全国にて
配給会社:角川映画
(C)2010『ヒーローショー』製作委員会




お笑い芸人を目指すもまるで陽の目を見ない気弱なユウキは、
子供向け戦隊ヒーローショーの悪役のバイトを始める。


そのヒーローショーの本番舞台上で、
バイト仲間のノボルと剛志が痴話喧嘩をおっぱじめる。


ボコボコにされた剛志は、腕力のある悪友に頼んでノボルをゆするが、
ノボルも自衛隊上がりの勇気を引き入れて報復に出る。


ユウキはなす術もなくその抗争へと巻き込まれていく。


そして、彼らの暴力は次第にエスカレートし、
遂には取り返しのつかない事態へと発展してしまう・・・。


『パッチギ! LOVE & PEACE』以来3年ぶりとなる井筒和幸監督の新作ということ以外、
予備知識無しの状態で見た。


鑑賞直後は、いまいち井筒監督が何を伝えたいのか良く判らなかったが、
劇中描かれてきた物事やセリフ、更には井筒監督の以前の発言を再考して、
ようやく全体像が見えてきた。


些細な出来事が原因で、暴力に駆り立てられる若者たち。
その暴力は抑制力を失い暴走し、やがて決定的な犯罪へと至る。


犯罪へと突き進む現代社会に生きる若者たちの“善悪”と、
勧善懲悪が謳われるヒーローショーの“正義の味方と悪人”の構図を結びつけ、
人間の性格やその関係性の“善悪”の曖昧さを浮き彫りにさせている。


また、若者に限らず、現代に生きる人たちの多くは、
家族の絆、対人関係が希薄になり、個人主義化が進んでいる。


この自分以外の人に興味を抱かない、
干渉しない、されたくないという個人主義がもたらす弊害は、
近年の井筒監督作品にも共通するテーマ性だ。


その弊害のひとつである“暴力”は、
多くの井筒監督作品に登場する。


『パッチギ!』で、口の中に石を入れてからぶん殴るという激痛描写があり、
今でもそれが忘れられないでいるんだけど、
今回はそれ以上。


井筒監督自身「今回はリミットをかけなかった」というぐらい、
超過激な暴力描写のオンパレードだ。


ヒーローショー


殴る、蹴るは当たり前。
金属バットによる殴打もモロに見せている。


この直接的な暴力描写にこだわった理由は、
殴られたらどうなるかということを
井筒監督がちゃんと伝えたかったからだと思う。


暴力をリアルに、そして露骨に見せることによって、
暴力の凄惨さがより見る者に伝わってくる。


何度死でもプレイ可能なゲームが、
人の死を軽くしたという説を唱える人もいるが、
映画だってそういう側面がある。


今回、井筒監督にインタビューした際、
近年の青春映画で暴力がファッション化している点を危惧していた。


タイトルこそ口には出さなかったが、『クローズZERO』とかのことなんでしょう。


井筒監督が描いている暴力は、
理不尽な仕打ちから生まれる暴力や、
自己表現の唯一の手段であるが故の暴力。


そういった暴力とは明らかに違う暴力が、
良いか悪いかは別として、最近の青春映画に蔓延している。


本作は、そんな日本映画界に対する井筒監督からのアンサーという感じか?


その井筒監督の思いを代弁する主人公ユウキと勇気を演じたのは、
お笑いコンビのジャルジャル。


色がついていない分、映画の世界観に溶け込み易く、
見ている方も感情移入し易くなる。


また芸人さんは、ライブとかでもまれている分、
度胸も良いし、瞬間的な閃きにも長けているので、
下手な役者さんよりも演技が上手かったりする。


これは井筒監督がかつて紳助・竜介、ナインティナイン、藤井隆ら、
多くのお笑い芸人を使ってきた理由。


ただ、ユウキを演じた福徳秀介は井筒監督の狙い通りだったと思うが、
腕っ節の強い勇気役の後藤淳平は、もう一歩だったかな。


強そうに見えないし、正直セリフ回しとかちょっと微妙だった。


でも、その後、テレビでジャルジャルを見てビックリした。
特のその後藤淳平なんだけど、
映画の中の彼らとは全く違う印象を持った。


やっぱり2人とも凄いんじゃないかと思いなおした次第。


それから井筒監督作品はヒロインが重要。


伊藤Pのお気に入り女優である伊藤歩、中村ゆりは、
それぞれ『のど自慢』、『パッチギ!LOVE & PEACE』を見てときめいた。


『パッチギ!』の沢尻エリカだって、
見た時はまだその素性を知らなかったから、
「かわいい!!!」と思った。


で、『ヒーローショー』のヒロインは、
『パッチギ!』で沢尻エリカと一緒に出演していたちすん。


ヒーローショー


彼女がまた良いんだわぁ。


井筒監督が描くヒロインは、
観客が一番近づけて感情移入出来るようなキャラクター造詣がなされているケースが多いようだ。


そんなこんなで、井筒監督ワールドが炸裂した作品であることは間違いない。


映画以上に過激な発言が多い井筒監督ですが、
果たして世間は、本作をどのように受け入れるのかな?


最後に一言。
食堂でたむろっている若者たちが、PSPをやっているシーン。
このシーンが個人的にはたまらなく好きだ。


井筒監督は、ゲーム機器そのものではなく、
ゲーム機器を扱う一部の人たちに憤りを感じているんじゃないかな。


もしそうならメッチャ共感する。


先日、電車の中で30代と思われるサラリーマン3人がお喋りをしていた。
うち一人が下車した後、
残りの2人がおもむろに鞄からPSPを取り出し、
ゲームをやり始めた。


並んで座って、チャカチャカと音をたてながらゲームに熱中する2人。
物凄い違和感を感じた。


■『ヒーローショー』
※井筒和幸監督インタビュー テキスト
井筒和幸監督

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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