6/4よりTOHOシネマズみゆき座ほか全国にて 配給会社:ワーナー・ブラザース映画 (C) 2009 Brothers Production, LLC. All Rights Reserved. |
家庭でも仕事でも優秀な海兵隊大尉のサム。
サムとの間に二人の娘をもうけた美しい妻グレース。
サムの弟で刑務所に服役していた厄介者のトミー。
ある日、戦地へと赴いたサムの訃報が届く。
トミーは、悲しみに暮れるグレースとその家族を励ます。
徐々に笑顔を取り戻してきたグレースたちだったが、
突如、サムが帰還を果たす。
しかし、サムは以前とはまるで別人のようになっていた・・・。
デンマーク映画の『ある愛の風景』を『マイ・レフト・フッド』のジム・シェリダンが、
トビー・マグワイア、ジェイク・ギレンホール、
ナタリー・ポートマンという豪華キャストを集めリメイクした人間ドラマ。
『ある愛の風景』は未見だったので、
比較することなく本作を鑑賞。
元々、悪い評判を聞いていなかったし、
監督がジム・シェリダンだったので、楽しみにしていたんだけど、
期待以上の作品となっていた。
優秀な兄と出来損ないの弟。
お互い腹を割って話せる間柄ではあるが、
いつも日陰にいた弟の鬱屈した性格など、
兄弟関係の描写が絶妙だ。
伊藤Pには姉がいる。
姉はなんでもコツコツとやる性格で、
小さい頃から水泳をやり、水泳教室や学校の部活で選手として活躍。
チーム別メドレーリレーだが、当時の大会新記録を達成したこともある。
学校での成績もよく、高校では特待生で学費免除。
ストレートで大学に入学した親孝行者。
三日坊主になりがちな夜のストレッチ運動とかも、
毎晩欠かさずやっていた努力家だ。
普段から冷静沈着、
酒を飲んで取り乱すこともない。
一方、伊藤P。
すぐに諦める性格で、小学4年生の時点でカナヅチ。
流石にヤバイと思い水泳教室に通い泳げるようになるも、
選手コースに入る前に辞める。
中学時代は軟式テニス部に所属したが、高校は帰宅部。
自宅のリビングを占拠してビデオ三昧のうえ、
自室に引き篭もれば、今度はメタルを爆音で聴きまくる。
大学は現役合格ならずで、浪人。
姉以上に学費がかかた親不孝者。
大学生時代はバンドに明け暮れ、酒にも明け暮れ、
今では酒を飲んでは記憶を飛ばす。
サムとトミーだったら、
確実にトミーだね。
おいらは。
よって、弟のトミーの気持ちがちょっとわかる。
特に空港にサムを迎えにいくシーンが切ない。
兄が生きていたことは嬉しいが、
やっと陽の目を見たのに・・・という思い。
トミーは父親からも冷遇されており、
トミーほどではないが、あまり父親から褒められたことのない者として、
トミーの父親に対する反発と認められたいという複雑な感情も理解できる。
そんなシンパシーバリバリのトミーを演じたジェイク・ギレンホールが良い。
だらしない男が、兄の死によって自らの存在意義に目覚め、
今まで自分を毛嫌いしていた近親者たちに認められていく。
しかし、兄の生存により、再び日陰人となり、
更にはサムからは、グレースとの関係を疑われてしまう。
それでもサムは自分にとって、唯一無二の兄だ。
トミーの感情の流れを、ジェイク・ギレンホールが、
静かに、そして、確実に我々に伝えてくれる。
一方のサムを演じたトビー・マグワイアは、
本作でゴールデングローブ賞にノミネートされたのも納得の演技を披露。
聡明で真面目な人間が、戦地で経験した壮絶な出来事。
究極の選択を迫られ、今まで築き上げてきた全てを破壊されてしまう。
戦地に赴く前と後のサムの表情、動きはまるで違う。
生還後は、全身から発せられるマイナスなオーラまでもが目に見えるようだ。
何をしでかすかわからない異様な不気味さは、
大分おっかないだが、
そうなってしまった原因を考えると・・・。
そんなサムの負のスパイラルに最も影響を受けるグレースを演じたのが、
ナタリー・ポートマン。
実は高い評価を得た『クローサー』とか、
文芸作品の『宮廷画家ゴヤは見た』、『ブーリン家の姉妹』といった作品を見ておらず、
ナタリー・ポートマンといえば、
新「スター・ウォーズ」三部作のアミダラという印象を持っており、
本作を見て、その演技の上手さにちょっとびっくりしてしまった。
夫を支える良き妻、娘を育てる良き母。
夫の訃報の衝撃と悲しみ。
トミーによって次第に癒され、少しずつ惹かれていくと女心と寂しさ。
サムの生還に喜んだのも束の間、
地獄のような生活へと突き落とされ、戸惑う。
トミーとの生活の方がよかったのでは?と思ってしまう後ろめたさと嫌悪感。
そんなグレースのめくるめく心の機微を細やかに、
そして時に大胆に表現している。
トビー、ジェイク、ナタリーの説得力ある演技がなければ、
絶対に本作は成立しなったと思う。
クライマックスとなるある晩のシーンで見せた3人の芝居は、
芝居とは思えない凄みとリアルさがあって、
ゾクゾクしてしまった。
脇を固める役者たちも良い。
サムとトミーの父親であるサム・シェパード、
その伴侶であるメア・ウィニンガム(久しぶりに見て、老けたなぁ・・・って)といったベテラン陣は言わずもがなで、
サムとグレースの娘を演じたベイリー・マディソンとデイラー・ギアが驚異的。
ベイリーが11歳で、テイラーが9歳。
こういう優れた子役たちの芝居に対する姿勢を聞いてみたい。
特にベイリーによる「風船」のシーンは、
『エスター』ぽくて素敵だった。
ベテラン、中堅、子役まで芸達者な役者たちの才能を引き出しながら、
「家族」という身近なことから、
「戦争」と「戦争がもたらす影響」という社会派な両面を、
きちんと一つの作品に纏め上げたジム・シェリダンの演出力は流石だ。
自分の兄弟・姉妹がサムみたいになってしまったらどうするか?
自分の伴侶がサムみたいになってしまったらどうするか?
支えられるのか?
見捨ててしまうのか?
また、自分がサムみたいになってしまったら、
十字架を背負って生き続けることができるだろうか?
「家族」「生きること」についての様々な投げかけが、
とてもとてもヘビーに響きました。