井筒和幸監督にインタビューしてください。
と言われたら、
多分、多くの人がびびるのでは?
テレビでのコメントは辛らつだし、
撮影現場でもおっかないって話をよく聞くから。
しかしながら、一度でも井筒監督に取材をしたことがあったり、
その場に立ち会ったことのある人ならば、
びびる必要などまるでないということを知っているはず。
伊藤Pは、井筒監督のインタビューに2度携わったことがある。
一回目は、『パッチギ!』か『ゲロッパ!』の時で、
当時、伊藤Pが担当していたテレビ番組のパーソナリティーを務めていた襟川クロさんが、
井筒監督と対談した際に、スタッフとして立ち会った。
2人は気心知れているので、和気藹々とした現場だった。
ニ回目は『パッチギ! LOVE & PEACE』の時。
主演の中村ゆりとツーショット・インタビューで、
インタビュアーをやらせてもらった。
襟川クロさんとの対談を生で見ていたので、
それ程、気負うことはなかったけど、
あの和やかな雰囲気は、襟川クロさんだから作り出せたのかも?
という思いがあり、インタビュー前はちょっと緊張した。
でも、実際に話をさせて頂き、
井筒監督がとても気を遣ってくれていることがわかった。
「映画は見た?」
「どうだった?」
「感動した?」
といった感じで、開口一番、逆に質問してしてくる辺りも、
その気遣いの一部のような気がする。
質問の狙いも理解してくれて、
こっちが欲しいと思うようなコメントをしてくれた。
そんな経験のお陰で、
今回、『ヒーローショー』で再びインタビューさせて頂くことになった際、
以前よりは気が楽だった。
5/29より角川シネマ新宿ほか全国にて 配給会社:角川映画 (C)2010『ヒーローショー』製作委員会 |
しかし、そうは言っても井筒監督に通り一辺倒な質問ばかり浴びせたら、
「お前、アホかぁ?」と思われるに違いなく、
それなりの準備が必要となる。
よって、いつもは比較的パッパッと質問事項が思いつくんだけど、
『ヒーローショー』のテーマ的が重いというのも相まって、かなり熟考した。
取材の時に、自分の意見や感想ばかりを言うインタビュアーがいる。
個人的にはそれはあまりやりたくない。
何故なら、インタビューはインタビュー対象者から、
限られた時間内でいろんな話を引き出すことが、
最優先事項だから。
インタビュアーが筑紫哲也さんとかおすぎさんとか、
名の知れた人であるならば、意見のぶつけ合いは成立するけど、
自分はそんな立場ではない。
ということで、
質問事項はなるべく簡潔にするよう心がけているんだが、
今回はなんだが長くなってしまった。
それだけ練って、準備したってことか?
と自己弁護。
そして、迎えた当日。
予定していた時間からちょっと遅れて、井筒監督が登場。
早速インタビュー!と行きたいところだったが、
おもむろに携帯電話を取り出し、
誰かに連絡を取り始める井筒監督。
しかし、つながらない。
「あれぇ、おかしいなぁ〜」と言いながら、
何度もかけ直す。
「あの〜・・・インタビューなんっすけどぉ・・・」と内心思うも、
そんなことは言えるわけもなく、ひたすら待っていると、
こちらの思いが伝わったのか、
「ごめんなぁ〜。ちょっと待っててぇ」と言われる。
結局、電話はつながらず、
「ごめん、ごめん」と謝られる。
正直、井筒監督の行動は非常識なんだけど、
そこに微妙な気遣いがちょいちょいあり、
「まぁ、いいっか」となってしまう。
井筒監督のキャラなんでしょう。
続いて、ピンマイクをつけるべく、
カメラクルーが井筒監督に近付くと、
「こんなん意味ないわぁ〜。手で持ってやるよぉ」という。
いや・・・そういう訳には・・・
更には宣伝スタッフに、
「なぁ、のどか湧いたわぁ。ヤクルトない?」とオーダー。
お茶、コーヒー、水といった飲み物ならば、
まぁ、用意してあるでしょう。
でも“ヤクルト”なんだよね。
普通、あるか?ヤクルト。
で、結局、ピンマイクは付けるし、
ヤクルトもなくて、妥協してお茶になる。
こういうプチ我侭が、また井筒監督らしいといえばらしい。
そして、前回同様、
「映画見た?」
「面白かった?」
「飽きずに見られた?」
と質問攻め。
この辺の匙加減が、上手いんだよねぇ。
そんなこんなで、ようやくインタビューが始まった。
練り練った質問が活かせたかどうかは、ちょっと判断つかんのですが、
まぁ、インタビューとしては、
短い時間の中で、聞きたいこと聞けたし、
欲しいと思っていたコメントももらえたんで、良かったんじゃないかと。
そして、井筒監督の話の中に、
アメリカン・ニューシネマという言葉が何度も出てきた。
「若い頃はアメリカン・ニューシネマばかり見ていた」
「アメリカン・ニューシネマが自分の原点」
「今回、アメリカン・ニューシネマを意識してつくった」
伊藤Pもアメリカン・ニューシネマが大好きなんで、
いろいろと話がしたかったんだけど、
時間がないし、先述の通り伊藤Pの意見なんてのはこの場ではドーデモいいので、
自粛した。
こういう自己抑制は、インタビューの際にチョイチョイある。
毎度毎度もどかしいねぇ。
「あぁー!!!飲み屋で話しテェ!!!!」って思う。
最後にWEB用に写真撮影。
学生時代に写真を勉強した女性スタッフにお願いしたんだけど、
井筒監督が食いついた。
「女性カメラマンなの?」
「大変だねぇ」
「でも昔はもっと機材が必要だったからね。デジタルになって大分楽になったよね」
「今回の映画もデジタルで撮ったんだよ」
「でもね、やっぱりフィルムはいいよね。黒の色の出方が違う」
「デジタルも良いけど、フィルムの良さを忘れたらダメだよ」
などなど、結構長いこと井筒節を展開。
「なんてね、ゴメンな。関係ない話長々として。ほな、ありがとう」
と言って、照れながら取材部屋を出て行きました。
なんだかんだとオチャメで憎めない。
そこが井筒監督の良いところだと思う。
■『ヒーローショー』
※井筒和幸監督インタビュー テキスト