9/18よりポレポレ東中野にてレイト上映 配給会社:SPOTTED PRODUCTIONS (C)2009 Cine Bazar |
知的障害者の兄・実生と2人で暮らすサラリーマンの幹生が、
実生の性欲処理のためデリヘル嬢マリンを呼んだことから、
3人の奇妙な共同生活が始まり、それぞれが生き甲斐を見つけていく。
傑作。
混沌とした世の中で漠然と生きる人々。
それなりにシビアなんだけどけど、見ている最中も、
見終った後もなんだかすがすがしい気分にさせられた。
もうちょっとこの世界に浸っていたいと思わせる。
この感覚は個人的に良い映画の条件だったりする。
ポイントはマリンだ。
本名を明かさず幹生にはファラと呼ばせるこの女性は、
デリヘル嬢をしながら、秋葉原で自称アイドルとしも活動している。
見るからにアイドルというには年がいっちゃっているにも関わらず、
なんら臆することなく、秋葉原の路上で堂々とライブをやっちゃたりする。
具体的な将来像を描いている訳ではないけど、
自分だけの島「ファラ・アイランド」を購入したいという夢があり、
コツコツと堅実に金を貯めている。
やることも結構大胆なんだけど、決して浮世離れし過ぎている訳でもない。
そして、何よりも優しく、前向きだ。
主人公の幹生が彼女の影響から、プラスに変化していくように、
見ているこちらも癒されていく。
このマリン&ファラを演じた内田慈(うちだちか)が素晴らし過ぎる。
主に舞台で活躍している女優さんで、キャリア8年と結構長い。
決して美人じゃないけど、時折見せる表情が美しくハッとさせられる。
マリン&ファラはステレオ・タイプな役柄ではないので、
演じるのはかなり難しかったと思うけど、完璧に役を自分のものにしている。
彼女が放つ様々なオーラを一言で表現するのは困難なので、
その辺は実際に作品を見て体感して欲しい。
対する幹生を演じた小林且弥も良い。
『ビルと動物園』、『ランニング・オン・エンプティ』といった小規模作品への出演が多い。
たまたま見ている映画がそうだったからなのか、
もの静かな青年役というイメージがあったんだけど、
本作では激昂したりと感情を爆発させる。
役に対して真摯に向き合うタイプの俳優さんらしいので、
今回もバッチリ幹生に成り切っている。
中盤、重要な役で登場する奥田瑛二は流石の貫禄。
年を追うごとに演技に凄みが増してきている。
「男女七人夏物語」のチャラケた感じが懐かしい・・・。
監督は本作がデビューとなる白石和彌。
若松孝二監督の下で働いていたからか、
演出力はかなりしっかりしていて、迷いのなさが画面から感じ取れる。
力強いショットもたくさんあった。
1974年生まれだから伊藤Pと同い年だ。
同い年の人が、繊細で奥深くて、勇気をもらえるような映画を作ると、
「この人の脳みそはどうなっているんだろう?」
「どういう生い立ちなんだろう?」
と気になってしまう。
橋口亮輔監督、山下敦弘監督のような作家性の高い映画監督になって欲しい。
誰もが知っているようなキラ星のスター俳優が出ていない地味な作品だけど、
くだらないブロックバスター映画を見るよりも、
数百倍有意義な時間を過ごすことが出来た。
こんなに良い映画なのに、
上映がポレポレ東中野のレイトのみってのが残念でならない。
(10月16日(土)〜 名古屋シネマスコーレと11月上旬に大阪での上映が決定している)