全国にて公開中 配給会社:ロングライド (C)2009 TORNASOL FILMS - HADDOCK FILMS - 100 BARES PRODUCCIONES - EL SECRETO DE SUS OJOS (AIE) |
8月14日に公開された映画で、「何を今更」というところではありますが、
10月下旬まで公開しているようなので、掲載しておきます。
舞台はアルゼンチン。
刑事裁判所を退職したベンハミンは、
自身が関わった25年前のある事件をテーマに小説を執筆することを決意し、
かつての上司で、今は判事補になっているイレーネを訪ね、事件を回想する。
その事件とは、軍事政権下の重苦しい空気が漂う1974年に起きた殺人事件。
新婚の美しい女性が自宅で強姦されたうえ、殺害されのだ。
渋々事件を担当したベンハミンであったが、
捜査を進めるうちに、自分ではどうすることも出来ない渦へと巻き込まれていく・・・。
人生36年目にして、多分、初めて見たアルゼンチン映画だと思う。
あまり馴染みがないということは、
監督の作風も、どんだけ凄い俳優が出ているのかも分らないということ。
その分、かえって監督がどうだとか、役者がどうのという先入観無く見ることが出来る。
もちろん、キャストも作品の一部なんだけど、
スターが出ている分、贔屓目にということにはならないので、
楽しめるか楽しめないかは、作品そのものに拠ることになる。
そして、『瞳の奥の秘密』は、
監督の作風を知らなくても、スターが出ていなくても、
十分に楽しめる作品でした。
残忍だかこそ、逆に求心力を生み出す殺人事件の謎。
犯人を追い詰めるサスペンス。
妻を殺された夫の執念。
どうすることも出来ない国の圧力。
裁判所における上下関係の軋轢。
事件を通して痛感してしまうベンハミンの劣等感。
一つの殺人事件から、様々な要素が飛び出してくる。
そして、一本、ドスンと芯を貫いているのが、愛だ。
ベンハミンとイレーネの愛。
そして、殺された妻とその夫の愛。
一見、サスペンス・スリラーの体を成しているが、
これは愛の物語だ。
が、しかし、
その愛の形にイマイチ共鳴できず、
乗り切れなかった・・・。
特にベンハミンとイレーネの愛の形は、
“オトナ”過ぎちゃって、まだ、30代のオイラには到達できない世界なのかも。
また、サスペンスとしても、
オチの部分は、ある段階(と言ってもかなり終盤)で、確信はないけど、
なんとなく予測が出来てしまった。
愛は響かないし、オチにも衝撃を受けずで、
そこは残念ではあったのだが、
映画全編に漂う緊張感は凄まじく、
あらぬ方向に向かっていく物語の展開には圧倒された。
過去と現在を行き来する構成も見事だし、
ミスディレクション(騙されなかったけど)や布石となるセリフの置き方も良い。
役者たちの存在感も抜群だ。
クローズ・アップとやや引き目のショットの使い分けも良いし、
ここぞ!というシーンでは、役者の立ち位置も完璧に計算されている。
サッカー場のシーンでは、
空撮からスタジアム、フィールドを舐め、
一気に客席へとズームするというかっちょいいカメラワークが見られる。
そして、スタジアム内の追跡劇は、
ポイント・オブ・ビューかと思わせておいて、
実は違うというよく分らない手法だったけど、とてつもなく臨場感があった。
「そこワンショットで撮るの?」というシーンもある。
オーソドックスな撮影が主だったので、
このスタジアムの一連のシーンは、特に印象に残った。
2時間強。
凝縮した世界を堪能。
なるほど、評判が良い訳だ。
アカデミー外国語映画賞を受賞する訳だ。
見応え十分の逸品だった。
と、納得&満足して家路に着いたのですが・・・。
ちょっと待てよ。
よーく考えると、
物語、都合よすぎねぇーか?
少し前に松本清張の「影の地帯」というサスペンス・ミステリーを読んだ。
まぁ、面白かったは面白かったんだけど、
主人公と謎の小太りの男が、やたらと偶然の遭遇をする。
この「偶然」がとてつもなく気になった。
『瞳の奥の秘密』も「必然」ではなく、
「偶然」に支配されているような気がしてならない。
特に犯人への道のりが相当、安易だ。
まぁ、見ている最中は、全くそんなことに気が付かなかったんだけどね・・・。