11/13より丸の内ピカデリーほか全国にて 配給会社:パラマウント ピクチャーズ ジャパン、松竹 (C)2010「ゴースト」製作委員会 |
年商150億の企業を運営する星野七海は、
ある晩、陶芸家を目指す韓国人青年キム・ジュノと出会い、やがて恋に落ちる。
永遠の愛を誓った二人だが、出会ってちょうど一年目となる七海の誕生日の夜、
ひったくりに遭った七海は、転倒し命を落としてしまう。
天国へは行かず、ゴーストとなってジュノの傍に留まった七海は、
ジュノの身に危険が迫っていることを知る・・・。
90年に劇場公開されて大ヒットを記録したアメリカ映画
『ゴースト ニューヨークの幻』をベースにしたラブ・ファンタジー。
舞台を日本に移し、主人公たちを日本人と韓国人カップルにして、
男ではなく女の方がゴーストになるなど、大小様々な設定変更が施され、
新しさや独創性を生み出そうと試みている。
しかし、大枠のストーリーラインは変わらないので、
オリジナルを見た人は、物語の展開で面白さを見出すのはなかなか難しいだろう。
更に松嶋菜々子演じる七海は、
自身の力で会社を成功させたやり手のキャリアウーマン。
庶民派としては別世界の人で、あまり親近感を抱けないし、
キャラのせいなのか、松嶋菜々子の演技のせいなのか、理由はわかりませんが、
浮いているというか、なんというか、見ていて寒い。
特に七海がゴーストになるまでの前半は、作品を破壊していると言っても良いぐらい。
酔っ払った七海が、噴水のある広場でジュノと出会うシーンは、
そのあまりの酷さに思わず噴出しそうになってしまった。
昔のトレンディドラマ級のチープさ。
その後も、酔っ払ってジュノ宅に泊まった七海が、
昨晩と同じドレス姿で出勤するなど、
「そりゃねーだろう」という突っ込み所をコツコツとボディブローのように浴びせてくる。
そして、勘違いしてジュノをひっぱたいてしまった七海は、ジュノに謝りに行く。
ここから見ているこちらが恥ずかしくなるような、
七海とジュノのチチクリ合いが頻発する。
教会で指輪の変わりとして花の輪を使って永遠の愛を誓うに至っては、
やっていることが中学生以下で、新手のギャグかと思ったよ。
この路線がずっと続くのか?と恐れおののいたが、
七海の死を境にちょっと状況が変わってくる。
ゴースト化した七海とジュノは触れ合えなくなるので、
当然、赤面シーンが減る。
それに反して、物語に関わる人が増えてくる。
この変化によって、
突っ込み所が冷笑ではなく、素直に楽しめるようになってくる。
何の説明もなく瞬間移動するなど、ゴーストが出来ることのルールはご都合主義だし、
「そのタイミングで泥棒に入るなよ!」というタイミングで、犯人が家に侵入するし、
有り得ないようなところから重要なアイテムが出現する。
ゴースト七海は、ある時点からモノに触れることが可能になり、
パソコンのキーボードを打ったり、鉛筆で絵が出来るようになるんだが、
それが出来るのならば、
もっと簡単にジュノへ自分の存在や危険を知らせることが出来たんじゃねーの?って。
こんな感じで、“それはないでしょう”のオンパレード。
鈴木砂羽演じる七海の右腕である上条未春が、
社長が死んだ直後なのに誰も残業していない夜のオフィスで取る言動や、
ラスト近くの嶋田久作、波岡一喜扮する刑事の登場の仕方とかは、爆笑モノだった。
(特に前者は凄い)
クライマックスとなる商店街の乱闘なんてドタバタコメディだよ。
流石に声出して笑わなかったけど、心の中で大笑していた。
役者たちが一生懸命、真面目に演じている分、余計に滑稽で笑える。
見ている最中、この笑いを誰かと共有したい!と強く思ってしまった。
製作側は決して狙ってないのにコメディと化してしまう。
たまに見かけるよね、そんな映画。
プロデューサーは、一瀬隆重。
『さらば愛しの大統領』の時にコメディを製作するなんて意外と書いたが、
どうやらコメディ好きのようだ。
Jホラーの次はJコメディで世界進出だ!
さて、笑いが一杯の『ゴースト もういちど抱きしめたい』ですが、
本作に最も期待するのは、オリジナルにあってまさに大ヒットの要因となった涙でしょう。
しかし、散々コメディを見せられてしまったので、
いくら愛だなんだと感動を煽られても、もう手遅れ。
まるで琴線に触れず。
でもその要因は、作品の予期せぬコメディ化だけのせいじゃなくて、
演出そのものの不味さもあると思う。
本作の見せ場であり、一番感動するべきシーンの前に、
霊媒師を演じる樹木希林とお客さん役の宮川大輔による寸劇みたいなやり取りがある。
実は霊媒師が出来る能力を示す重要な説明シーンなんだけど、
ちょっとしたおぞましさで、笑いを取ろうとする演出がなされている。
樹木希林のいつもの強烈さもあって、確かに笑えるんだが、これは良くないと思う。
この後に、同じ方法で、七海とジュノが遂に触れ合うことが可能になるんだが、
樹木希林と宮川大輔のやり取りが脳裏に焼き付いているので、
どうしても雑念が入り込む。
映画的で、美しいシーンになるはずなのに、
頭の片隅には、樹木希林・・・。
樹木希林と宮川大輔のシーンを綺麗に見せないから、
最大の見せ場が台無しになってしまった。
でも、台無しになった=ギャグ化なわけでして、
見方によっては“とんでもギャグ”として、楽しみながら見ることが出来るのです。
ということで、『ゴースト もういちど抱きしめたい』は、
コメディだと割り切って見れば、なかなか面白い作品です。
しかしながら、こんな穿った見方をする人はあまりいないと思われ、
純粋に考えると、やっぱりオリジナル版の足元にも及ばない出来なのかもしれない。
ただ、本作がどんなに珍作であったとしても、
対象者が、恋人なのか、奥さんなのか、子供なのかは分りませんが、
誰かを抱きしめたいという気持ちを喚起させ、
そして、抱きしめたいと思える人が存在することの有難さを
改めて認識させてくれるとは思います。
最後に、幸せを手にしながらも命を落とす羽目になった七海は不幸ですが、
劇中登場するトラックの運転手も不幸だと思う。
とんだ災難。