1/29よりテアトル新宿ほか全国にて 配給会社:日活 (C)NIKKATSU |
今や新作が発表される度に、国内外から注目を集める『愛のむきだし』の園子温監督。
『冷たい熱帯魚』では、善良で親切そうだが実は連続殺人犯という男、
そして、その妻と知り合ったことから、
破滅への道を突き進むことになる男とその一家を描く。
1993年に起きた埼玉愛犬家連続殺人事件や様々な猟奇殺人事件、
園監督の実体験がベースになっているが、いわゆる実録ものではなく、
事件からインスパイアを受けた園監督が、創造したフィクションも織り込まれている。
家庭不和を抱えながらも、小さな熱帯魚店を慎ましく営む社本は、
反抗的な娘・美津子が起こした万引き事件をきっかけに、同業者の村田と出会う。
スーパーの店員から強く叱責されていたところを親切な村田が助けてくれたのだ。
社本、妻の妙子、美津子の三人は、
やや強引な村田から言われるがままに、彼が経営する巨大熱帯魚店に立ち寄る。
そこで社本は村田とミステリアスな妻・愛子から、
「美津子を泊まり込みで預かる」という提案を受ける。
美津子がいるため、妙子との夜の営みもご無沙汰な社本は、それを飲んでしまう。
更に成り行きでいつの間にか村田の仕事を手伝わされる羽目に。
全く聞く耳を持たない村田に違和感を覚え、話を切り上げようとしたのも束の間、
社本の目の前でひとりの男が毒殺されてしまう。
そして、社本は、豹変した村田と愛子から死体処理を手伝うように言われる・・・。
まず、本作の最大の見所は役者たちの演技でしょう。
社本を演じるのは吹越満。
今まで適当に目立たぬように生きてきたと思われる社本は、
殺人事件に巻き込まれ、村田に励ましと罵倒を繰り返され、
初めて自分の歩んで来た人生と置かれた立場を考え、
真剣に現実と向き合うことになる。
そして、そこから今までにない感情が芽生え、やがて吹き出す。
吹越満は、そんな社本の人格変化の過程を見事に表現している。
スイッチが入る前と後の表情がまるで違う点に注目して頂きたい。
そして、でんでんも素晴らしい。
表向きは人が良さそうだが、
裏の顔は、全部自分の思い通りにならないと気がすまない超悪人。
何をしでかすかわからない陽気で、不気味な村田を怪演。
今までの出演作の全セリフを足したよりも多いんじゃないか?
ってぐらいの量のセリフをまくしたてる。
このセリフのテンポ、トーン、間が、絶妙。
吹越満もでんでんも脇役が多いが、本作は主役ということで、
全編に渡り2人の芝居が堪能できる。
攻めの芝居のでんでん。
それを受ける吹越満。
2人の実力を“これでもかっ!”ってぐらい見せつけられる。
圧巻でした。
他の主要キャストたちも、体当たり演技を披露していて、
役者もどきの役者では、
絶対にこなせない役ばかりだ。
さすが、役者の芝居にこだわる園子温監督。
そんな園子温監督のらしさといえば、独特な唯一無二の世界観なんだが、
当然の如く、本作でもそれは健在。
過激で容赦がないんだけど、ユニークでちょっと笑える。
描いている世界は、かなり不快なはずなのに、あまりそれを感じさせない。
シリアスさとブラックユーモアの調合が絶妙だ。
そして、一本の作品で様々なことを語りかけ、たくさんの感情を呼び起こしてくれる。
それがなんなのかは見てのお楽しみということで、ここでは触れないでおこう。
現在、化学薬品とディーゼル燃料積んだ列車が暴走する『アンストッパブル』という映画が公開されているが、
『冷たい熱帯魚』は、刺激に満ちた毒満載の暴走機関車だ。
『アンストッパブル』は未見なので結末はわからんが、
多分、最終的に列車は止まるのでしょう。
でも『冷たい熱帯魚』は止まらない。
毒を撒き散らしながら全てを破壊する。
破壊の後に訪れるのは、創造、もしくは再生だ。
しかし、映画の中ではそこは描かれない。
『冷たい熱帯魚』は、映画の中で破壊を描き、
その破壊を見た人が、「こりゃ、いかん」と実生活で創造、再生をする。
そんな映画だ。
■「エンタメ〜テレ 最新映画ナビ」 特集『冷たい熱帯魚』