『愛のむきだし』の鬼才・園子温監督が、
1993年に起きた埼玉愛犬家連続殺人事件や、
そのほかの猟奇連続殺人事件をモチーフにして、
ひとりの男とその一家が破滅へと突き進んでいく過程を鮮烈に描いた『冷たい熱帯魚』。
1/29よりテアトル新宿ほか全国にて 配給会社:日活 (C)NIKKATSU |
本作の特集ページを「エンタメ〜テレ 最新映画ナビ」で組むべく、
主演の吹越満さん、でんでんさん、園子温監督のお三方に、
それぞれ個別にインタビューすることに。
ということで、『冷たい熱帯魚』取材記。
まずはでんでんさんから。
本作で、表は善人、裏は猟奇殺人犯というとんでもないオヤジ村田を怪演していますが、
でんでんさんと言えば、気のいいおっちゃんが似合う名脇役。
実際にお会いしたでんでんさんは、まさにそんな感じだった。
役柄について尋ねると、でんでんさんは何故か言い淀む。
こちらがそのまま答えを待っていると、
「すみません、さっき受けた質問と同じで・・・。
意味合いは同じなんですけど、ちょっと違った答え方したいと思って・・・」
でんでんさんに限らず、インタビューで役柄に関する質問は、
当たり前の話だが、必ずと言っていいほど出る。
同じことを聞かれる側からすると、「また同じぃぃぃ・・・」ってなって、
同じようなコメントしか述べない俳優さんもいるというのに、
そんな気まで遣ってくださるとは・・・
更に役柄について述べた後、
「オレ、役作りがどうだとか言うの、嫌なんだけどね」と言って照れるところが、
またお茶目。
最後に一言コメントを貰うと、
「マラソンの時に選手のスピードに合わせて沿道で走っている人と一緒で、
見ているこちらも躍動してしまう映画」
という、ちょっと変わった表現をしていたので、
「面白い表現ですね」
という感想を述べたら、
「いやいや、そんな、いい加減ですからね、わたし」
と言ってまた照れながら、笑いを取ってくれた。
でも、いい加減な人間が、村田のようなセリフが多く、
精神的にもきついであろう難役を演じ切れるわけもないので、
真面目な方なのだと思う。
それは、「悪役やりたかったから、ワクワクした」、
「受けた以上はちゃんとしなくちゃいけない」といった、
役に対する姿勢について語ってくれたコメントからも伝わってきた。
そして、作品を見ればでんでんさんのプロ根性が良くわかるはず。
続いて、インタビューしたのが、吹越満さん。
「WAHAHA本舗」に在籍していた頃から好きな俳優さんだったし、
今後、インタビューできる機会もあまりないような気がしたので、
結構、楽しみにしていた。
(「WAHAHA本舗」は99年に退団)
第一印象は、渋い。
そもそも渋い役柄が多いので、イメージ通りという感じだったのですが、
喋っている最中に、ニカッと笑ったりする。
このギャップが良い。
諸事情によりここでは書けないんだけど、
園子温監督のエピソードも面白おかしく話してくれた。
もちろん、作品の内容について、役柄について熱弁してくれもした。
今回、本作に出た理由のひとつとして、
「テレビでは無理で、映画だから出来る内容だったから」と語っていたんだけど、
これって映画に対する思いが強烈に込められたコメントだと思った。
見た目も含めて、
カッコつけていないのに、カッコイイ。
そして、最後は園子温監督。
『愛のむきだし』や『冷たい熱帯魚』みたいな凄い映画作っている監督だから、
気難しいのかな?という一抹の不安はあったんだけど、
そんな思いは危惧に過ぎなかった。
実は俳優よりも監督にインタビューする方が、好きだったりする。
もちろん、憧れのスターに会えるのは嬉しいし、
俳優さんに芝居のスタンスについて語ってもらうのも勉強になるんだけど、
監督の話が一番、学ぶべきところが多い。
やっぱり、なんだかんだ言って、映画って監督のものだと思う。
映画製作の全てに関わるわけだから、
作品に対する思いも人一倍強いでしょう。
また、作品には多かれ少なかれ監督の作家性というのが出る。
作家の個性が溢れ出ていて、尚且つ自分の波長と合う映画を多く撮っている監督だったら、
取材対象作品だけでなく、他の監督作品についても触れられる。
そして、それは映画監督の作家性に踏み込むことにもなる。
となると、独特の世界観を持った園子温監督はドンピシャなわけです。
で、今回のインタビューで、園子温監督にいろいろと語ってもらいまして、
より一層、園子温監督に魅了されました。
まず、『冷たい熱帯魚』に限らず、
園子温監督が追い求めているのは、役者の芝居を撮ること。
極端なことを言ってしまうと、
凝ったアングルとか、カメラ位置とか、細かいところはあまり気にせず、
とにかく役者がその時生み出せる最高の芝居を撮るということだ。
アングルを気にするよりも、役者の芝居を気にする。
だから役者もごまかせない。
ごまかせないからちゃんとやらなくてはならない。
そのためには稽古が必要。
そして、稽古は上手くなるまで終わらない。
下手な芝居を俳優にさせるのは、監督の責任。
そう言い切れる映画監督が、どれぐらいいるだろうか?
また、スター俳優を起用するよりも、
実力のある脇役、埋もれた俳優に脚光を浴びてもらいたい、
そして新人を使って、育てたいと思っている。
園子温監督は、それをすることは自分の義務だと言っていた。
役者が育てば、日本映画も良くなる。
更に今回の作品に込めた思いのひとつとして、
今の日本映画の風潮に対する園子温監督の憂慮がある。
自分の作品だけでなく、日本映画の今後を考えているところに、
園子温監督の映画に対する情熱を感じた。
もちろん、映画だからお金を儲けるということが大前提になるんだけど、
お金だけが目的ではなく、映画業界に貢献したい、
何かを残したいという映画人としての姿勢に尊敬の念を抱きました。
というわけで、
今回、「エンタメ〜テレ 最新映画ナビ」の特集ページのために、
『冷たい熱帯魚』に出演している吹越満さんとでんでんさん、
そして、園子温監督にインタビューしたのですが、
ひとつの作品で3つもインタビューというのは、ここ最近ない。
作品自体、奥行きがあって、いろいろと解釈できて、深堀りできて、
何よりも面白いというのもあるが、
ここまでドップリと映画に浸ったのはいつ以来か?
この忘れていたドップリな感覚が、心地よい。
そして、改めて思った。
やはり、自分は映画が好きだ。
■「エンタメ〜テレ 最新映画ナビ」 特集『冷たい熱帯魚』