2/26より丸の内ルーブルほか全国にて 配給会社:ブロードメディア・スタジオ (C)2010 PEPPERMINT&COMPANY CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED. |
婚約者を殺された男の壮絶な復讐を描いた
イ・ビョンホン、チェ・ミンシク二大スター共演の韓国クライム・サスペンス。
世の中には復讐を題材にした映画は数多あるが、
本作は今までにないタイプの復讐劇だ。
最愛のフィアンセを殺害されたスヒョンは、
早々にギョンチョルが実行犯だと特定し、居場所を突き止める。
更なる凶行に及ぼうとするギョンチョルの犯行現場に現れたスヒョンは、
ギョンチョルをボコボコにするが、トドメを刺さずに解放する。
ギョンチョルは、性懲りもなくまた犯罪に手を染めようとするが、
再びスヒョンが現れ、タコ殴りにされた後、また野に放たれる。
『悪魔を見た』は、捕獲→制裁→解放を繰り返すという全く新しい復讐劇だ。
執拗な仕返しをするスヒョンと懲りないギョンチョル。
やがて始まるギョンチョルの反撃。
次第にエスカレートしていく両者の攻防、
その応酬の不毛さと復讐がもたらす代償、
そして、やがてスヒョンがギョンチョルに同化していく様を丹念に描いていく。
韓国映画の暴力描写がエグいのは、今に始まったことではないが、
本作はその中でも群を抜いている。
残虐という点で、『冷たい熱帯魚』とよく比較されているが、
そのアプローチの仕方は真逆だ。
ボコ、ブチャ、ザク、サクッ、ブス、スパッ、バキッ、
ボキッ、ドス、ドビュ、アベシ、ヒデブ。
これらの擬音がドンピシャで当てはまるような、
あらゆるバイオレンスを直接的に描いている。
「ソウ」シリーズとかも痛覚に訴えてくるような残酷シーンがあるが、
あくまでも「見せ物」として描いているから割り切って見られるし、
仕掛けが大掛かりなんで、真似ることは出来ない。
しかし、『悪魔を見た』は、金槌、金属棒、椅子、メス、カマ、鉄パイプといった、
比較的身近なものを使い、バイオレンスをリアルに活写している。
だからこそ怖いんだけど、嫌悪感も増す。
「あくまでも映画だから」と、暴力描写に対して比較的寛容なスタンスなんだが、
流石に「ここまで見せるの?」って思った。
『キル・ビル』や『マチェーテ』みたいに、
残酷なシーンがギャグに転化するようなこともない。
R-18指定も納得だ。
お子ちゃまは見てはいけないよ。
それほどまでに凄まじい。
既存の韓国クライム・サスペンスよりも凄い暴力描写を追求した結果、
行き着いた究極系なのかもしれない。
そんな目を背けたくなるような(正視したけどね)バイオレンスが繰り広げられるので、
イ・ビョンホンが主演だからという理由だけで見に行くのは危険だ。
イ・ビョンホンのファンには年配の方々もいらっしゃるでしょう。
バイオレンスの半分以上は、イ・ビョンホンによるものだ。
「ビョンホンシ〜」って見に行ったら「ギョエ〜!!」って、腰を抜かしかねない。
でもね、逆に言えば、今まで見たこともないようなイ・ビョンホンを拝むことが出来る。
恋人の死による悲しみから、ギョンチョルに対する憎悪が生まれ、
自制出来ないぐらいその憎しみが膨張していくスヒョン。
イ・ビョンホンは、その変化の中で、様々な感情が交錯していく様を繊細に表現している。
特に目。
序盤と終盤では全然違うので、ちょっと注意して見て欲しい。
対して敵役となるギョンチョルを演じたのは、チェ・ミンシク。
『シュリ』、『オールド・ボーイ』など、
出演作のほとんどで強い印象を残す名優だが、今回のインパクトは強烈だ。
本作で初めてチェ・ミンシクを見た人は、トラウマになるんじゃないかな?
ギョンチョルは己の快楽のためだけに人を陵辱し、殺める。
罪の意識も道徳観のかけらもない。
そして、スヒョンにいたぶられ、ボロボロになっていくのにも関わらず、
殺人を繰り返す本当に悪魔みたいな男だ。
相当難しい役柄だと思うんだが、 流石はチェ・ミンシク、見事に演じ切っている。
この2大スターの激突が、本作最大の見所なんだけど、
イ・ビョンホンとチェ・ミンシクの現場での関係はどうだったのかな?
精神的にも、肉体的にも、
お互いが信頼し合わないと成立しないような死闘だった。
監督のキム・ジウンは、イ・ビョンホンと『甘い人生』、『グッド・バッド・ウィアード』で、
チェ・ミンシクとも12年前に『クワイエット・ファミリー』で組んでおり、
これまでの関係があったからこそ、本作のようなタフな作品にチャレンジ出来たのかもしれない。
2人の持ち味や新たな一面を引き出すだけでなく、
自身のスタイルもしっかりと作品に反映させている。
シチュエーションに合わせて強調する色を変えて、映像にメリハリをつけている。
照明の使い方も印象的だし、アクション・シーンも切れ味抜群だ。
韓国で最も権威のある映画賞「青龍賞」で撮影賞、照明賞、音楽賞の3部門を受賞している。
見ていて不快な気分になる部分もあるけど、それが下品にならず、
品格を保てているのは役者、監督他スタッフたちのプロフェッショナルな仕事の成果なのでしょう。
正直、ラストにスヒョンが取った行動には、異を唱えたいんだが、
その後に見せたイ・ビョンホンの表情が忘れられない。
■ガッツリと特集組んでみました。
「エンタメ〜テレ 最新映画ナビ」特集『悪魔を見た』