3/26より丸の内ピカデリーほか全国にて順次公開 配給会社:ギャガ (C)2010 RELATIVITY MEDIA. ALL RIGHTS RESERVED. |
かつては名ボクサーとして活躍したが、挫折し今は怠惰な生活を送っているディッキー。
兄と同じくボクサーの道を歩むが、
トレーナーとなったディッキーとマネージャーの母親の言いなりで、
うだつが上がらない異父弟のミッキー。
マサチューセッツ州の労働者の街ローウェルを舞台に、
ボクシング世界チャンピオンを目指すミッキーと、
彼をサポートするディッキーや周囲の人々との葛藤や絆を描いた人間ドラマ。
人間ドラマを描く上で重要なのポイントは、
ドラマチックな物語としっかりとした登場人物の描写でしょう。
『ザ・ファイター』は、不遇のボクサーが、自身の努力と家族、そして恋人の支えで、
栄光をつかむという物語。
一見ありがちな話に見えるが、
ミッキーを中心としたキャラクターたちが、幾層にも渡るドラマを紡ぎだし、
見る者の感情を揺さぶる味わい深い物語になっている。
しかも実話をベースにしているというから驚きだ。
地道な努力を重ねる性格だが、自己判断が出来ないブラコン&マザコンのミッキー。
過去の一時の栄光にすがり、弟の成功と自分の成功を混同しがちなディッキー。
ディッキーを溺愛し、ミッキーを意のままにコントロールしようとする母アリス。
家族に翻弄されるミッキーを見かねて、自立を促す恋人のシャーリーン。
その他、シャーリーンを目の仇にするアリスの娘たち(すげー大人数)や、
アリスの尻に敷かれながらも常にミッキーを気に掛ける父ジョージ、
ミッキーのトレーナーを務めたローウェルの警官オキーフ(本人が演じている)、
更にはディッキーの息子と、メインから脇までありとあらゆるキャラクターが、
物語のエッセンスになっている。
そして、濃すぎる登場人物たちに息を吹き込んだ役者たちの演技が、
本作の大きな見所だ。
周知の通り、ディッキーを演じたクリスチャン・ベールと、
母アリス役のメリッサ・レオがアカデミー賞助演部門をダブル受賞している。
同一作品から助演男女優賞が出たのは、
マイケル・ケインとダイアン・ウィーストが受賞した86年の『ハンナとその姉妹』以来。
(マイケル・ケインは、凡作『ジョーズ'87 復讐篇』の撮影のため、授賞式を欠席。
こんな映画のために、人生において滅多に味わうことが出来ない場にいられないとは・・・不運だ)
更に、シャーリーンを演じたエイミー・アダムスも助演女優賞にノミネートされており、
『ザ・ファイター』の役者陣の層の厚さが分る。
クリスチャン・ベールは、『マシニスト』ほどではないが大幅な減量を敢行し、
髪の毛抜き、歯並びまで変えた。
メリッサ・レオとエイミー・アダムスは、
化粧もそこそこの生々しい女性像を表現。
エイミーなんて、結構な腹の贅肉まで披露している。
主役なのに賞レースから蚊帳の外状態のマーク・ウォルバーグも、
悩めるミッキーを見事に体現。
太ったり、引き締めたりと、デ・ニーロみたいな肉体的役作りにも挑んでいる。
役者たちの本気度満点の演技に、圧倒されまくった。
そして、個人的にはミッキーの入場テーマ、
ホワイトスネイクの「ヒア・アイ・ゴー・アゲイン」に燃えた。
物語の途中、一瞬だけこの曲がかかり、
随分ともったいない使い方しているなぁーと思っていたら、
入場テーマだったのねぇ〜。
格闘技ファンにとって、選手の入場テーマはかなり重要。
ザ・ファンクスの「スピニング・トーフォールド」(クリエイション)
ザ・シーク、タイガー・ジェット・シン、ブッチャーの「吹けよ風、呼べよ嵐」(ピンク・フロイド)
ミル・マスカラスの「スカイ・ハイ」(ジグソー)
ロード・ウォリアーズの「アイアンマン」(ブラック・サバス)
三沢光晴の「スパルタンX」
前田日明の「キャプチュード」(キャメル)
高田延彦の「トレーニング」(『ロッキーIV』)
田上明の「エクリプス」(イングヴェイ・マルムスティーン)
などなど、この曲を聴くと、あのレスラーを思い出す!というぐらい切っても切れない間柄。
レスラーにとっても思い入れが強いはず。
で、ミッキーの入場テーマ「ヒア・アイ・ゴー・アゲイン」ですが、
歌詞の内容とミッキーの状況がシンクロしており、
なるほどと思わせる選曲。
完全アウェイとなるイギリスでの試合の入場シーンに使われているんだけど、
ホワイトスネイクはイギリスのバンド。
アメリカのバンドの曲で入場しないミッキーは、
「ヒア・アイ・ゴー・アゲイン」がかなり好きなのでしょう。
影響受けちゃって、
久しぶりにホワイトスネイクの「サーペンス・アルバス」を聴きながら帰宅しました。
この他にも、
レッド・ツェッペリンの「グッドタイムス・バッドタイムス」が、ほぼフルで流れたり、
エアロスミス、レッチリの楽曲が使用されたりと、
ロックファン大喜びの選曲だ。
てな感じで、褒め褒め状態ではありますが、
見ている最中、ちょっと足りないなぁと思う部分があるにはあった。
それは、一旦拒絶されたディッキーがトレーナーに復活した後のトレーニングシーン。
もう少しディッキーじゃないとダメだということを重点的に描いて欲しかった。
そうすれば2人が血だけではなく、
真のパートナーとして切っても切れない間柄であることがより明確になり、
試合のシーンがもっと盛り上がったと思う。
そんな感想を抱きながら、試合シーンを見終えたのですが、
ラストのラスト、
クリスチャン・ベールの“目”にノックアウトされ、
そんなちょっとした不満も吹っ飛びました。
演技を超越した素晴らしいラストシーン。