2011年03月24日更新

#564 『ザ・ファイター』


ザ・ファイター

『ザ・ファイター』

3/26より丸の内ピカデリーほか全国にて順次公開
配給会社:ギャガ
(C)2010 RELATIVITY MEDIA. ALL RIGHTS RESERVED.




かつては名ボクサーとして活躍したが、挫折し今は怠惰な生活を送っているディッキー。


兄と同じくボクサーの道を歩むが、
トレーナーとなったディッキーとマネージャーの母親の言いなりで、
うだつが上がらない異父弟のミッキー。


マサチューセッツ州の労働者の街ローウェルを舞台に、
ボクシング世界チャンピオンを目指すミッキーと、
彼をサポートするディッキーや周囲の人々との葛藤や絆を描いた人間ドラマ。


人間ドラマを描く上で重要なのポイントは、
ドラマチックな物語としっかりとした登場人物の描写でしょう。


『ザ・ファイター』は、不遇のボクサーが、自身の努力と家族、そして恋人の支えで、
栄光をつかむという物語。


一見ありがちな話に見えるが、
ミッキーを中心としたキャラクターたちが、幾層にも渡るドラマを紡ぎだし、
見る者の感情を揺さぶる味わい深い物語になっている。


しかも実話をベースにしているというから驚きだ。


地道な努力を重ねる性格だが、自己判断が出来ないブラコン&マザコンのミッキー。


過去の一時の栄光にすがり、弟の成功と自分の成功を混同しがちなディッキー。


ディッキーを溺愛し、ミッキーを意のままにコントロールしようとする母アリス。


家族に翻弄されるミッキーを見かねて、自立を促す恋人のシャーリーン。


その他、シャーリーンを目の仇にするアリスの娘たち(すげー大人数)や、
アリスの尻に敷かれながらも常にミッキーを気に掛ける父ジョージ、
ミッキーのトレーナーを務めたローウェルの警官オキーフ(本人が演じている)、
更にはディッキーの息子と、メインから脇までありとあらゆるキャラクターが、
物語のエッセンスになっている。


ザ・ファイター


そして、濃すぎる登場人物たちに息を吹き込んだ役者たちの演技が、
本作の大きな見所だ。


周知の通り、ディッキーを演じたクリスチャン・ベールと、
母アリス役のメリッサ・レオがアカデミー賞助演部門をダブル受賞している。


同一作品から助演男女優賞が出たのは、
マイケル・ケインとダイアン・ウィーストが受賞した86年の『ハンナとその姉妹』以来。
(マイケル・ケインは、凡作『ジョーズ'87 復讐篇』の撮影のため、授賞式を欠席。
 こんな映画のために、人生において滅多に味わうことが出来ない場にいられないとは・・・不運だ)


更に、シャーリーンを演じたエイミー・アダムスも助演女優賞にノミネートされており、
『ザ・ファイター』の役者陣の層の厚さが分る。


クリスチャン・ベールは、『マシニスト』ほどではないが大幅な減量を敢行し、
髪の毛抜き、歯並びまで変えた。


メリッサ・レオとエイミー・アダムスは、
化粧もそこそこの生々しい女性像を表現。


エイミーなんて、結構な腹の贅肉まで披露している。


主役なのに賞レースから蚊帳の外状態のマーク・ウォルバーグも、
悩めるミッキーを見事に体現。


太ったり、引き締めたりと、デ・ニーロみたいな肉体的役作りにも挑んでいる。


役者たちの本気度満点の演技に、圧倒されまくった。


ザ・ファイター


そして、個人的にはミッキーの入場テーマ、
ホワイトスネイクの「ヒア・アイ・ゴー・アゲイン」に燃えた。


物語の途中、一瞬だけこの曲がかかり、
随分ともったいない使い方しているなぁーと思っていたら、
入場テーマだったのねぇ〜。


格闘技ファンにとって、選手の入場テーマはかなり重要。


ザ・ファンクスの「スピニング・トーフォールド」(クリエイション)
ザ・シーク、タイガー・ジェット・シン、ブッチャーの「吹けよ風、呼べよ嵐」(ピンク・フロイド)
ミル・マスカラスの「スカイ・ハイ」(ジグソー)
ロード・ウォリアーズの「アイアンマン」(ブラック・サバス)
三沢光晴の「スパルタンX」
前田日明の「キャプチュード」(キャメル)
高田延彦の「トレーニング」(『ロッキーIV』)
田上明の「エクリプス」(イングヴェイ・マルムスティーン)


などなど、この曲を聴くと、あのレスラーを思い出す!というぐらい切っても切れない間柄。
レスラーにとっても思い入れが強いはず。


で、ミッキーの入場テーマ「ヒア・アイ・ゴー・アゲイン」ですが、
歌詞の内容とミッキーの状況がシンクロしており、
なるほどと思わせる選曲。


完全アウェイとなるイギリスでの試合の入場シーンに使われているんだけど、
ホワイトスネイクはイギリスのバンド。


アメリカのバンドの曲で入場しないミッキーは、
「ヒア・アイ・ゴー・アゲイン」がかなり好きなのでしょう。


影響受けちゃって、
久しぶりにホワイトスネイクの「サーペンス・アルバス」を聴きながら帰宅しました。


この他にも、
レッド・ツェッペリンの「グッドタイムス・バッドタイムス」が、ほぼフルで流れたり、
エアロスミス、レッチリの楽曲が使用されたりと、
ロックファン大喜びの選曲だ。


てな感じで、褒め褒め状態ではありますが、
見ている最中、ちょっと足りないなぁと思う部分があるにはあった。


それは、一旦拒絶されたディッキーがトレーナーに復活した後のトレーニングシーン。


もう少しディッキーじゃないとダメだということを重点的に描いて欲しかった。


そうすれば2人が血だけではなく、
真のパートナーとして切っても切れない間柄であることがより明確になり、
試合のシーンがもっと盛り上がったと思う。


そんな感想を抱きながら、試合シーンを見終えたのですが、
ラストのラスト、
クリスチャン・ベールの“目”にノックアウトされ、
そんなちょっとした不満も吹っ飛びました。


演技を超越した素晴らしいラストシーン。


トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.t-shirt-ya.com/blog/cgi/mt-tb.cgi/1994

この一覧は、次のエントリーを参照しています: #564 『ザ・ファイター』:

» ザ・ファイター 送信元 to Heart
頂点へ。 原題 THE FIGHTER 製作年度 2010年 製作国・地域 アメリカ 上映時間 116分 脚本 スコット・シルヴァー/ポール・タ... [詳しくはこちら]

» 映画「ザ・ファイター 」自分の出来ることをやり遂げる人は少ない 送信元 soramove
「ザ・ファイター 」★★★★ マーク・ウォールバーグ、クリスチャン・ベイル、 エイミー・アダムス、メリッサ・レオ出演 デヴィッド・O・ラッセル監督、 ... [詳しくはこちら]

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)




リンク

プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
Powered by
Movable Type