6/18よりTOHOシネマズ シャンテ、シネクイントほか全国にて 配給会社:20世紀フォックス、ギャガ (C)2010 TWENTIETH CENTURY FOX |
ロッククライミングを楽しむため、誰にも行き先を告げず、
ブルー・ジョン・キャニオンにやってきたアーロンは、
運悪く落石に右腕を挟まれ、谷底から一歩も動けなくなってしまう。
びくともしない岩。
無人の荒野。
水も食料もわずか。
果たして、アーロンはこの絶体絶命の危機を乗り越えることが出来るのか?
『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイルが、
実際に起きた2003年の事件をベースに映画化。
実話の映画化は数多あるが、
“実話”ということがこれほど観客に重くのしかかってくる映画は、
他にないかもしれない。
本作の主人公アーロンは、特殊な任務を帯びたスペシャリストでも、
戦場に行かなくてはならない兵士でも、
危険な職務を全うしなくてはならない立場の人間でもない。
どこにでもいるような青年だ。
誰もいない谷底で、右腕を岩に挟まれて身動きがとれなくなるという事態は、
日常生活でそうそうあることではないと思うが、
例えば、地震で家が倒壊して家屋の下敷きになったとか、
人里離れた山道を車で走っていたら崖に転落したとか、落石があったとか
シチュエーションは違えど、
同じように何かに挟まれて動けなくなってしまう可能性が、全くないわけではない。
で、アーロンは、自分の持ち得る限りの知識と経験と道具を活かして脱出を試みるが、
どれも玉砕し、心身ともに疲弊していく・・・。
こんな極限状態に置かれた人が、本当にいた。
もうこれだけでも十分衝撃的なのに、
岩に挟まってから127時間後に取ったアーロンの行動が・・・。
一般試写会で見たのですが、
クライマックス時、場内はちょっと異様なテンションに包まれた。
ザワザワザワザワって。
上映開始前に、会場では「実話を元にした映画」という場内アナウンスが流れたので、
多くの人が、
「これ実話でしょ?」
「自分だったら・・・」
って、思ったはず。
迫り来る死を前にして、今までの自分を見つめ直し、改心し、
希望を持ち、“生”へ執着していく青年の感動の物語であり、
鑑賞後、「生きている喜び」を感じさせてくれるんだけど、
それ以上に、クライマックスの印象が強烈に残ってしまった。
正直、宣伝で煽っているほどの感動は得られなかったんだけど、
映画としてはとてもレベルが高いと思う。
まず、主人公が動けないという状況設定であるにも関わらず、
まったく単調になっていない。
アーロンがあの手この手を駆使して、脱出を試みる工程を見せた後、
アーロンの今までの生い立ちをフラッシュバックさせる。
そのフラッシュバックも単なるフラッシュバックではなく、
肉体的&精神的疲労に起因する幻覚と絡めてみせたりする。
幻覚は、アーロンの希望も映し出す。
そして、アーロンの胸中は、ビデオカメラに向かって独白させる。
こうして、「説明ゼリフ」を使うことなく、
アーロンの過去と今の心境と希望を描き出している。
それから、これは鑑賞後に知ったことだが、
本作では『スラムドッグ$ミリオネア』のアンソニー・ドット・マントルと、
『28週後...』のエンリケ・ジャディアックが、
それぞれ撮影を担当している。
1本の作品に2人の撮影監督が携わるのは稀なことだが、
撮り方の異なる2人の撮影監督を起用することで、
バラエティに溢れたショットを生み出すことに成功している。
ダニー・ボイルは、巧みな構成で人間ドラマを無理なく作り上げ、
持ち前のユニークな映像、アップテンポな編集と音楽で、一気に見せる。
困難に立ち向かう男を躍動感たっぷりに見せている点は、
『スラムドッグ$ミリオネア』と同じなんだが、
移動が限定されている分、
もしかしたら『127時間』の方が、成立させるのが困難な映画だったかもしれない。
あと、この作品の成功を語る上で、
アーロンを演じたジェームズ・フランコの存在は外せない。
段々と衰弱していく外面的な部分はもちろんだが、
アーロン・ラルストンという人物をとても魅力的に演じている。
アウトドア派で陽気に振舞っているが、
実はわがままで、ダークな部分も持っている。
人間として当たり前なんだけど、
そういうのを全部ひっくるめて、とても共感出来た。
見る者がアーロンに感情移入できるからこそ、他人事にならず、
より一層、「自分だったらどうしよう」って、思えるのでしょう。