8/27ヒューマントラストシネマ有楽町&渋谷ほか全国にて 配給会社:日活 (C)2009 R.P. FILMS - FRANCE 2 CINEMA - ELFTE BABELSBERG FILM GmbH - RUNTEAM III LTD |
元英国首相アダム・ラングの自叙伝の執筆していたマカラが、
フェリーから転落して溺死した。
代役を引き受けたゴーストライターの“僕(もしくは君)”は、
ラングが滞在するアメリカ東海岸にある孤島を訪れ、
ラングへ取材をしながら、原稿を書き進めることに。
やがて、ラングの過去とマカラの死に違和感を抱き始め、
真相を突き止めようとするが、
その背後にはとてつもない秘密が隠されていた・・・。
ロマン・ポランスキー監督が久々に手掛けたサスペンス映画。
カーフェリーの駐車スペースに放置された運転手不在のBMW。
海辺に倒れた男の引きのショット。
セリフがほとんどない、たった数分の冒頭だけで、
一気に映画の世界に引き込まれてしまう。
また、この一連の印象的なシーンが、
映画を多いに盛り上げる布石となっていることが、追々にわかる。
流石です。
全編を通して、元英国首相の過去に疑問を持ったゴーストライターが、
徐々に深みにはまっていく過程を丹念に、そしてスリリングに描き、
山場の作り方も上手い。
最初はあまり気に留めていなかった登場人物が、
実は物凄い重要だったりする。
そして、なんといっても謎解きがある。
セリフのひとつひとつに意味があり、
謎を解く鍵にもなっているし、人間関係や思惑を表してもいる。
いやー、無駄がないっす。
ロマン・ポランスキーの熟練した技が光まくる。
そんなロマン・ポランスキーは、
第二次世界大戦時、ユダヤ人であるがために故郷ポーランドを追われ、
逃亡生活を強いられた。
(因みにアウシュヴィッツで母親を失っている)
終戦後、ポーランドに戻った後、映画に興味を持ち始めるが、
当時、ポーランドは社会主義国家。
より自由な表現を求めてフランス、イギリス、アメリカへと活動の場を移し、
その後、『水の中のナイフ』(62)、『反撥』(64)、
『ローズマリーの赤ちゃん』(68)といった傑作を発表する。
私生活でも『ポランスキーの吸血鬼』(67)に出演していた女優シャロン・テートと結婚。
公私共に順調だったが、
1969年、ヒッピーの教祖チャールズ・マンソンの手によって、
妊娠8ヶ月のシャロン・テートを殺害されてしまう。
更に、1977年には、ジャック・ニコルソンの自宅で13歳の少女への淫行の罪に問われ、
拘束されてしまう。
法廷で無罪を主張するも、有罪濃厚。
映画の撮影と偽ってアメリカを出国し、逃亡する。
以来、一度もアメリカに入国していない。
その後もアメリカ以外の国で映画を撮り続け、
『戦場のピアニスト』では、米アカデミー賞監督賞を受賞するなど、
浮き沈みがありながらも、監督としてのキャリアを築き上げてきた。
しかし、2009年9月にスイスにて、
1977年の猥褻事件が原因で拘束されてしまう。
アメリカからの身柄引き渡し要求にスイスが応じなかったため、
2010年10月に保釈されるが、30年以上も前の事件を未だにアメリカは許していなかった。
とにかく波乱の人生だ。
ポーランド、アメリカといった“国”に対して、
ロマン・ポランスキーが、どのような感情を抱いているのかはわからないけど、
多分、複雑な思いがあるはず。
(特にアメリカに対しては、良い感情を抱いていないと思う)
今回の『ゴーストライター』も、国家間の問題が浮き彫りになってくる。
元英国首相のラングは、母国イギリスから捕虜を拷問したとして告発を受けてしまう。
国に裏切られたラングは、アメリカ人弁護士の意見を聞き入れて、
アメリカに救いを求めようとする。
しかし、アメリカの国民は、ラングに対して「国に帰れ!」と訴える。
あんまりこんな見方をする人はいないかもしれないけど、
このラングというキャラクターが、ロマン・ポランスキーと重なってしまった。
しかも、ラングが助かる道は、アメリカ。
なかなかの皮肉だ。
そんなラングを演じているのが、
「007」シリーズでジェームズ・ボンドに扮していたピアーズ・ブロスナンってのも、
また憎いキャスティングだ。
本作では、ブロスナン以外にもイギリス人俳優が、重要な役を演じていて、
イギリス人であることが、本作のポイントにもなっている。
、
主人公である名無しの権兵衛のゴーストライターを演じるのは、ユアン・マクレガー。
ジャンキー(『トレイン・スポッティング』)、アクション(「スター・ウォーズ」新三部作、『アイランド』)、
キモイ人(『天使と悪魔』)、ゲイ(『フィリップ、きみを愛している!』)と、
どんな役でもこなしてしまう器用な役者さんだけど、
今回は、“普通のイギリス人”を演じている。
事件に巻き込まれる主人公が普通の人だと、
観客は感情移入しやすくなる。
なので、ユアン・マクレガーが、普通の人をどれだけ普通に演じられるかは、
本作の肝だったりする。
また、“ゴーストライターは世に名前が出ない”ということを文字って、
主人公の名前が最後まで明らかにされないんだけど、
イギリス人らしいユーモアのある会話のおかげで、
それが成立していたりする。
女優陣もイギリス人で固めていて、
ラングの妻をオリヴィア・ウィリアムズ、専属秘書をキム・キャトラルが、
それぞれ演じている。
この2人は対照的で、ラングを巡って“女の戦い”を繰り広げており、
ミステリーとは別の緊迫感を生み出している。
この他、真相の鍵を握る人物を演じたトム・ウィルキンソン、
ラングを攻撃する元外相役のロバート・パフといったベテラン・イギリス人俳優が出演し、
作品に重みを与えている。
一方、『普通の人々』に出演していたティモシー・ハットン(ラングの弁護士)、
故ジョン・ベルーシの弟ジェームズ・ベルーシ(出版社の偉い人)、
90歳を越える超ベテランのイーライ・ウォラック(島の住民)といったアメリカ人俳優も出演。
孤島の住民を演じたイーライ・ウォラックは別として、
このイギリス人俳優とアメリカ人俳優のキャスティングそのものが、
実はこの映画の最後に明かされる真相の背景を表しているのでは?
と思うのは深読みし過ぎか?
というのは、
実は、この映画、いくつか良くわからないところがあって・・・
1.自叙伝を出すそもそもの目的は?誰にとって何のメリットがあるのか?
2.最後にある人物の真実が明らかになるんだが、
そもそもこの人が何をしたかったのかが、よく理解できない。
3.その人物の不利益にならないように、物事が進んでいくんだけど、
その人物の力だけではどうすることも出来ない事態も発生する。
(ご都合主義?)
この他にも理解できないところがあるんだが、
あまり書くとネタバレになるので・・・
ちょっと混乱していて、話の大枠が掴めていない自分が情けなく、
イギリスとアメリカの関係が、事の真相に大いに関わってくるので、
イギリス人とアメリカ人とに分けて整理すると、全体像が見えるかなぁと思いまして・・・・。
で、相関図まで自作してみたんだけど、
結局、見えてないんですよねぇ・・・。
ひょっとして理解していないのは、おいらだけ?
おいらはバカ!?
それにしても、ジェームズ・ベルーシが、
どこに出ているのか最初見たとき全くわからなかった。
わざわざ調べちゃいましたよ。
まさかあのハゲデブが、ジェームズ・ベルーシとは・・・。
と、話を逸らして終わりにしておきます。