2011年09月27日更新

#621 『天国からのエール』


天国からのエール

『天国からのエール』

10/1より全国にて
配給会社:アスミック・エース
(C)2011『天国からのエール』製作委員会




美ら海水族館で有名な沖縄県本部町に全てが無料の音楽スタジオ「あじさい音楽村」がある。
現地で小さな弁当屋「あじさい弁当」を営んでいた仲宗根陽(なかそねひかる)氏が、
1998年に、夢を持つ高校生たちを応援したい一心で、借金をして自分の手で作ったスタジオだ。


このスタジオから数多くのアーティストがプロデビューを果たし、
現在も音楽を目指す多くの若者たちが集っている。


スタジオを建設した数年後、仲宗根氏は志半ばで病に倒れるが、
余命を知りながらも懸命に若者を信じ、愛し続けた。


一方、若者達たちも仲宗根氏を“ニイニイ”と呼んで慕い、
彼から“生きること”や“夢を追いかけること”の大切さを学んだ。


『天国からのエール』は、この感動の実話の映画化した作品。


天国からのエール


モデルとなった仲宗根陽さんの信念は素晴らしいと思うし、
こういう方がいらっしゃったんだという興味も沸く。


それを伝えようとスタッフ、キャストが誠意を持って本作に取り組んできたことも、
作品を見れば容易に判る。


実際に仲宗根さんが作ったスタジオからプロのミュージシャンが巣立っていて、
その中の一組であるステレオポニーの歌が、エンドロールに流れるのもドラマチックだ。


良い話しだと思うし、悪い映画でもないと思う。


でも、あまりに演出がベタ過ぎて、本来感動すべきシーンでやや白けてしまった。


例えば、大城陽を演じた阿部寛が電信柱にしがみついて、
「ミーン!ミーン!」って蝉の泣き真似をするシーン。
陽の熱血漢ぶりを表現したいんだろうけど、
いまどきこの展開はないだろう・・・って、ちょっと赤面してしまいました。


天国からのエール


あと決定的だったのが、最大の見せ場である高校生たちのライブシーン。
ネタバレになるからあんまり書けないけど、
ステージに立った桜庭ななみが歌い出す前の観客とのやり取りはかなり青臭い。


観客からの「がんばれ!」はマズイでしょう・・・。
それじゃ“天国からのエール”ならんがなぁ・・・。


その後の桜庭ななみが涙を堪えながら歌う姿や、バンドの演奏がとても良かっただけに、
勿体ないなぁって。


あと、陽と高校生たちとのぶつかりあいが圧倒的に足りない。
もっともっとぶつからせて、より濃密な関係を描き切ったうえで、
ラストシーンに雪崩れ込んだら、もっと感動出来たと思う。


天国からのエール


史実に反するかもしれないけど、高校生たちを不良にしちゃうとかどうでしょう?
でも、そうしたら「スクールウォーズ」になっちゃうか?


仲宗根さんは「あじさい音楽村」を98年に建設して、09年に亡くなった。
映画ではここまでの年月を描いてはいない。
映画化に際して相当脚色が成されているわけだから、全て史実通りにする必要も無い。


例えば、劇中、陽の娘さんが放置されていて可愛そうだったんだが、
逆にこの娘さんを上手く生かす方法を考えちゃうとかどうだろう?


天国からのエール


スタジオ建設と高校生たちのやり取りが忙しくて、
ちっとも遊んでくれない父親に対して、寂しいと感じる娘さん。
そんな娘さんを不憫に思ったバンドのメンバーが、娘さんに「ごめんね」と声をかける。
しかし、娘さんは「いいの、私、寂しくない!」と気丈に振舞う。


そのことを高校生たちが陽に伝えると陽も反省し、娘さんと向き合い関係を取り戻す。
そして、高校生たちと娘さんも友好関係になり、娘さんはバンドの成功を願うようになる。


というように娘さんは、物語のエッセンスとして、
いろいろと使えるような気がするんだけどなぁ・・・。


うーん、「スクールウォーズ」の間下このみだな。


よし!こうなったらいっそのこと音楽版「スクールウォーズ」にしちまえ!


陽と奥さんとの家庭内バトルが、もう少しあっても良いような気がしたんで、
「スクールウォーズ」で山下真司と岡田奈々が演じた滝沢夫妻がそうであったように、
以下のようなやり取りを盛り込んでみたらどうだろうか?


あなた!自分の娘をほったらかして、何やっているのよ!
だからあれほどスタジオの建設に反対したいじゃない!!
娘より高校生たちの方が大切なの!?
私、実家に帰らせてもらいます!!


でも、結局戻ってきて、


やっぱりあなたを信じます。
付いていきます。
支えます!


こういう、そうは言っても結局は旦那を支える奥さんの内助の功って、
結構、ジーンと来ます(これって、男目線?)。


しかし、これこそベタベタだな・・・。


天国からのエール


とにもかくにも『天国からのエール』は、実際にあったことからなるべく脱線することなく、
誠心誠意を込めて、丁寧に作ろうとした結果、
全体的に古くさくって、ベタな作品になってしまったような気がする。


とはいえ、映画にはそれほど感動できなかったものの、
仲宗根陽さんという存在を知ることが出来たし、
彼が高校生たちに教えたことの中には、今の自分に足りないと感じているものもあり、
ハッとさせられる部分もありました。


あと、先日、東日本大震災の被災地で上映された際には、
すすり泣く声がそこかしこから聞えたという。


人が人を信じ、支えあう。
今の日本に必要な要素も含まれた作品なんだなと思いつつ、
やっぱりベタなんだよなぁ・・・。

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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