2011年11月04日更新

#630 『1911』

1911


『1911』
2011年11月5日より丸の内TOEIほか全国にて
配給:東映
(C)2011 JACKIE CHAN INTERNATIONAL CINEMA CULTURAL HOLDINGS LIMITED JACKIE & JJ PRODUCTIONS LIMITED All Rights Reserved.


秦の始皇帝以来、2000年以上続いた封建的な帝国主義に終止符を打った中国の辛亥革命。

この1911年に起きた中国初の民主主義革命の100年周年を記念して製作された大作なのですが、
本作にはもうひとつ100という節目がある。


それは総監督と主演を務めたジャッキー・チェンの100本目の出演作品であるということ。


1962年に「大小黄天霸」で子役としてデビュー。
ブルース・リーなど先輩アクションスター主演作での脇役を経て、
新たなカンフースターとしての地位を築いた70年代。


危険なスタントアクションに挑み続けた全盛期ともいえる80年代。
念願だったハリウッドでの成功を掴んだ90年代。
シリアスな演技とファンが求めるアクションの両立を目指した00年代。


常に進化しながら、様々なヒーロー像を体現し、
見る者に夢と勇気と感動と興奮を与えてくれたジャッキー。


1911


このブログで何度も書いているように、自分もジャッキー・チェンから受けた影響は大きく、
多分、ジャッキー作品に出会わなければ、ここまで映画が好きにならなかっただろうし、
違う仕事をしていたとも思う。


自分の人生を大きく変えたともいえるジャッキー・チェンの記念すべき出演100作品目ということで、
それを祝いたいし、『1911』を応援したい気持ちは多分にあるのだが・・・。


ジャッキー云々を抜きにすると『1911』を見てまず感じたのは、「勿体無い映画」。


辛亥革命に至るまでの過程が孫文と、
ジャッキー演じる孫文の腹心で革命軍司令官の黄興を中心に描かれる。


1911


中国で指命手配されているため、海外で母国の状況を訴え、支援を求める孫文。
清朝軍、清朝からの命を受けて革命軍の鎮圧に乗り出した袁世凱の軍隊との戦闘を繰り返す黄興。


それぞれの活動が断片的に取り上げられ、サクサクと進む。
特に戦闘シーンはただドンパチやっているようにしか見えず、戦いごとの山場がない。


史実をなぞっているだけで、物語としての連続性に欠けるし、盛り上がりもしない。


1911


中国人にとっては、「黄花崗七十二烈士」とか、武昌起義とか、
国民として知っていて当たり前なのかもしれないが、日本人は知らない人が多いと思う。
それを駆け足で見せられたら、追いかけるのがやっとですよ。


追いかけるといえば、字幕。
字幕版で見たんだが、画面下に出る字幕の他に、
年号、場所、登場人物名とその肩書のテロップが同時に出る。


しかも地名、人名、肩書きは読み慣れない漢字ばかりで、
字幕、テロップのどちらも読み切ることが出来ないままシーンが切り替わってしまう。


途中で、そのシーンのみに登場する人物が多いと分り、
テロップは無視することにした。


こういう人たちが、こういう場所で戦ったという史実を伝えることに徹した構成とテロップ、
更に、今の中国の繁栄は、100年前、辛亥革命に参加した人々の上に成り立っているんだよ
というテーマ的な部分も含め、
『1911』は、あくまでも中国人に向けて作られた作品のような気がしてならない。


この作品に対する作り手たちの誠意を感じ取ることが出来るだけに、
歴史をなぞっただけの内容が勿体ねぇって。


黄興と彼を陰で支えた徐宗漢との交流も、「いつ恋に落ちたんですか!?」ってぐらい描き込みが足りない。
もう少し人間ドラマを丁寧に描いてくれたら、万国の人たちが感銘を受けたかもしれない。
なんだか一番可愛そうに見えるのが、清朝の隆裕皇太后ってのも問題だ。


1911


といった感じで、ボチボチなのですが、肝心のジャッキーはどうかと言いますと、
『新宿インシデント』に続いて、アクション、笑顔封印版のジャッキーです。


作品的にそれは分りきっていたことなので、いつもジャッキーを端から求めちゃいません。
よって、すんなりとシリアスなジャッキーの演技を堪能することが出来ました。
ちょっとだけジャッキー・アクションがあったので、逆に驚いた。


1911


あと、北京にある清朝の王宮・紫禁城が舞台として登場するんだが、
そこに幼き愛新覚羅溥儀の姿が。


溥儀といえば、アカデミー作品賞を受賞した『ラストエンペラー』だ。
日本が建国した満州国の皇帝に担ぎ上げられた溥儀に焦点を当てたこの作品を見たのは大分前。
久しぶりに見たくなった。


あと『ラストエンペラー』の陰に隠れて、あまり知られていないが『火龍』という、
日本敗戦後の溥儀の生活を描いた作品がある。
かつて紫禁城で暮らしていたとは思えないような、寂しい晩年を過ごす溥儀の姿が切ない一本。


この他、『1911』関連作品としては、
日本ではトンデモ映画的な扱いで公開された『西太后』、
辛亥革命の前に起きた義和団の乱を西洋側の視点から描いた『北京の55日』がある。


この2本を見た後、『1911』、『ラストエンペラー』、『火龍』を続けて見れば、
清朝末期から清朝の末裔の最後までを知ることが出来る。


いや〜、映画って本当にいいもんですネェ。


そんなこんなで、『1911』を見て一番良かったと思うことは、
歴史探究心が少しもたげたってことですかね。


最後に『1911』をこれからご覧になる方に、アドバイスを。


・ある程度、清朝末期の歴史背景を理解してから見たほうが良いでしょう。
 (日本公開版には冒頭に解説映像が流れます)
・いつものジャッキー・チェンを期待するのはやめましょう。
・滅多に日本語吹替え版を薦めることはありませんでしたが、
 この作品に限っては日本語吹替え版の方が良いでしょう。
・辛亥革命と日本とは、深い関わりがあるので、鑑賞後ちょっと調べてみるのも良いでしょう。

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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