『ヒミズ』
2012年1月14日より新宿バルト9、シネクイントほかにて全国順次公開
配給:ギャガ
©「ヒミズ」フィルムパートナーズ
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15歳の少年・住田祐一の願いは、「普通」の大人になること。
大きな夢を持たず、ただ誰にも迷惑をかけずに生きたいと考える住田は、
震災で家を失くした人たちが集う実家の貸しボート屋で、平凡な毎日を送っていた。
15歳の少女・茶沢景子の夢は、愛する人と守り守られ生きること。
他のクラスメートとは違い、大人びた雰囲気を持つ住田に恋焦がれる彼女は、
猛アタックをかけ、疎まれながらも次第に住田との距離を縮めていく。
そんなある日、借金を作り、蒸発していた住田の父が現れ、
金の無心をしながら、住田を激しく殴りつけ、去っていった。
さらに、母親も中年男と駆け落ちしてしまい、住田は中学3年生にして天涯孤独となる。
同じく両親から疎まれて育った茶沢は、辛い境遇の住田に共鳴し、必死で励ます。
やがて彼女の気持ちが徐々に住田の心を解き放ち始めた矢先に、
ある“事件”が起きてしまう・・・。
『愛のむきだし』、『冷たい熱帯魚』、『恋の罪』と、
センセーショナルな作品を多く世に送り出している園子温監督。
園子温監督は、常にオリジナル脚本を貫いてきたが、
初の原作ものにチャレンジ。
「現代の青春像を描きたい」という思いから、
2001年から2003年にかけて「ヤングマガジン」誌上で連載された
古谷実のコミック「ヒミズ」を自ら選んで実写映画化した。
青春映画といえば、恋や友情ものが多いが、
園子温監督が自選し、映画にしただけあって、そんな甘っちょろいもんじゃない。
痛みを伴う青春映画になっている。
主人公の住田は、母に捨てられ、父親からは「いらない」といわれ、殴れる。
そして、ある事件のために「普通の大人になる」という願いは否応無しに潰され、
住田の人格は完全に崩壊してしまう。
そこに至るまでの過程だけでも痛烈なのに、人格崩壊後もかなり痛い。
そんな住田に寄り添う茶沢の健気さが、また切ない。
映画化に際して、時代設定を原作の2001年から2011年3月11日以降に変更しており、
不安定な若者の心理と、現代社会の不安を見事にシンクロさせている点も見逃せない。
日本の劇映画で現在進行形の事件や災害を取扱うことは難しいとされているが、
果敢にているチャレンジしているのも園子温監督らしい。
らしさといえば、役者の演技を引き出す演出方法も健在。
住田を演じたのは染谷将太。
今回、初めて演技を見たけど、説得力、迫力がありました。
精神的にも肉体的にも相当キツかっただろうなってことが、
容易に想像できる難役を見事にこなしている。
相手役の茶沢に扮したのは二階堂ふみ。
住田がどちらかというと劇的な変貌を遂げていくのに対して、
茶沢は微妙な変化をみせていく。
二階堂ふみは、その繊細な茶沢のうつろいを巧みに表現している。
ぶっちゃけ、最初の方とかかなり変な女の子で、
あまり可愛くもないし、単なる変人?ってな感じたっだんだけど、
時間が経つにつれ、段々と愛らしくなり、共感できるようになる。
園子温監督は、原作にあった“性の目覚め”を今回あまり取り入れなかったそうなんだが、
二階堂ふみが、徐々に少女から大人の女性になっていく茶沢を体現している。
女優を追い込むことで知られる園子温監督。
今回もビシビシいったようだが、
二階堂ふみはそれを「快感だった」と言い放っている。
つえぇぇ。
因みに住田と茶沢が殴り合うシーンが度々あるんだけど、
染谷将太と二階堂ふみはマジでやっている。
この2人以外の出演者は、
渡辺哲、諏訪太郎、吹越満、黒沢あすか、でんでん、
園子温監督夫人の神楽坂恵といった『冷たい熱帯魚』チームが総出演。
でんでんが渡辺哲をぶん殴るシーンとか、
『冷たい熱帯魚』で、でんでんが演じた村田幸雄が思いっ切りフラッシュバックした。
『冷たい熱帯魚』、『恋の罪』で強烈な演技指導を受けた神楽坂恵は、
本作で、一言もセリフを発しない。
今回は脇役なだけに、そんなにムチは打たれずに済んだのかな?
この他、
『紀子の食卓』の光石研、吉高由里子、
『愛のむきだし』の渡辺真起子、西島隆弘といった感じで、
園子温監督作品にかつて出演したことのある役者が大挙出演。
常連組みに混じって、窪塚洋介、村上純、鈴木杏、堀部圭亮、モト冬樹らも出演。
出番はそれぞれ多かったり、少なかったりするんだけど、
みんなそれなりのインパクトを残している。
原作ものの映画化ということで、園子温監督らしさが少しは薄れるかとも思ったんだが、キチンと“印”をつけている一方で、
今までの園子温監督にあまりなかったテイストもあった。
それはピュアな思い。
『愛のむきだし』や『恋の罪』もピュアといえばピュアなんだが、
『ヒミズ』は、見ているこちらが赤面してしまうようなピュアさがある。
茶沢が、住田に「希望」を語るシーンでのセリフとか、
園子温監督の今の思いを茶沢が代弁しているのかと思うと、
見ているこちらが恥ずかしくなるぐらい超ピュアだった。
そういえば、この映画は青春映画だった!
ということを見ながら思い出したりして。
そして、トドメは、ラストで茶沢が住田に投げかける言葉。
その言葉は、住田だけではなく、多くの人に向かって発せられている。
震災以前から使い方が難しい言葉だと思っていたんだけど、
これだけ堂々と、しかもまっすぐに言われると、やっぱり心に響きます。
園子温監督作品は、なんだかんだいって最後には「希望」を持たせることが多いが、
これほどストレートにエールを送るとは・・・。