『SHAME−シェイム−』
2012年3月10日よりシネクイント、シネマスクエアとうきゅうほか全国にて順次公開
配給:ギャガ
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ニューヨークの洒落たマンションに独りで暮らすブランドン。
仕事も有能なブランドンは、仕事以外の時間を<性>に注ぎ込むことで、
日々の精神のバランスを保っていた。
しかし、ある日、突然、恋愛依存症で自殺願望のある妹のシシーが、
自宅マンションに転がり込んできた。
その日を境に、ブランドンの生活は徐々に変化をきたし始める・・・。
『大脱走』、『ブリット』で知られる名優スティーヴ・マックィーンと同姓同名のイギリス人監督が、
ある男性の恥部を赤裸々に描いた人間ドラマ。
(監督は69年生まれだから、マックィーンの全盛期。両親がファンだったのだろうか?)
ブランドンは、コールガール、行きずりの女性とやりまくるだけでなく、
自宅でアダルトサイトを閲覧し、エロ本、エロDVDをも収集。
職場のパソコンでもエロ動画を鑑賞し、さらには便所で自慰行為を行う。
それにしてもお盛んで、よくそんな精力あるなぁ〜って逆に感心してしまった。
ってか、そんなに酷使したら、チ○コ痛くなんねぇーか?
しかしながら、ブランドンが<性>を貪るのには、理由がある。
何故なら彼はセックス依存症に陥っているからだ。
セックス依存症とは、セックスだけでなく、自慰行為も含めて、
性行為をやらないと空虚感を埋められない依存症のこと。
対象は違えど、アルコールや薬物依存と考え方は一緒のようだ。
なんだか性に溺れているなんて、汚らわしいと思うかもしれないが、
マイケル・ダグラス、デイヴィッド・ドゥカヴニー、ビル・クリントン元大統領、
タイガー・ウッズとかが、セックス依存症である、もしくはあったことを公表しているぐらいなので、
決して珍しい症状ではない。
原因はストレスからの解放、自身の存在意義、生きていることの証明、
自傷行為などらしい。
で、ブランドンですが、なぜセックス依存症に陥ってしまったのか、
不明のまま物語が進んでいく。
押しかけてきた妹のシシーとのやり取りや、
シシー自身の立ち振る舞いから、
過去に、この兄妹に何かしらよろしくないことがあったらしいことが、仄めかされる。
暴力的な両親の下で育ったのかもしれない。
近親相姦的な臭いを感じなくもない。
しかし、結局、二人の過去に何があったのかは語られないまま終る。
これはあえてそういう演出にしていると思うんだが、
どうして兄妹揃ってあんな精神不安定状態に陥ってしまったのか、
それがわからない限り、この二人に感情移入することは、個人的に容易ではなかった。
自分はブランドンみたいにセックス依存症じゃない。
シシーのように恋愛依存症でもないし、手首に自傷痕もない。
だからそこまで強く、ブランドンの辛さがわからない。
シシーの寂しさもわからない。
どうしても他人事になってしまうのだ。
彼らの苦しみがわからないなんて、
もしかして、オイラはブランドンよりも醒めているのか!?
本作のマスコミ用資料に、映画評論家の久保玲子さんが、
「劇中、兄妹のトラウマの原因に触れないことで、スリルを生み出し、
ブランドンの葛藤にのみ観客の意識を集中させることに成功している(要約)」
と書いている。
確かにそうだと思うんだけど、
小生の映画の鑑賞の仕方は、いわゆるエンターテイメント作品以外、
どちらかというと“登場人物との共有”に重きを置く傾向があるので、
感情移入できないと「だから?」ってなんちゃうんだよねぇ・・・。
とはいえ、まぁ、恋愛感情ありのセックスが出来ないブランドンは、
かなり可哀そうだとは思いますが・・・。
そんなブランドンを演じたのは、マイケル・ファスベンダー。
『イングロリアス・バスターズ』、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』と、
このところメキメキと頭角を現し始めているドイツ人俳優だ。
スティーヴ・マックィーン監督の長編デビュー作「Hunger」(08)にも出演しているうえ、
次回作も同監督の「Twelve Years a Slave」ということで、二人は完全に意気投合した模様。
双方信頼関係が築ければ、監督は無理を言えるし、役者も安心して委ねられる。
マイケル・ファスベンダーは、本作でかなり難しい役に果敢に挑み、成功している。
フリチンでカメラの前に立ったり、セックスや自慰シーンを演じるのも大変だと思うけど、
それ以上に表情がいい。
ものを語らずして、多くを語っている。
シシー役は、キャリー・マリガン。
ブランドンとは対照的に、シシーは感情を露にするんだが、
なんとも不安定で、ブランドンだけでなく見ているこちらもハラハラする。
ってことは、キャリー・マリガンが上手いと言うことか?
そんなキャリー・マリガンは、
マイケル・ファスベンダー、スティーヴ・マックィーン監督と一緒に仕事がしたいから、本作への出演を熱望したという。
(かなり強引だったらしい)彼女の情熱を受け入れたスティーヴ・マックィーン監督のプロフィールは、
大学でアートとデザインの勉強をし、映画監督以外にも、写真家、彫刻家としても活躍していたという。
まぁ、芸術肌なお方。
デカイ黒人がスティーヴ・マックィーン監督
監督ならではの感性が、カメラアングル、映像の色合いなど、
随所に散りばめられている。
撮影も、ブランドンの表情をじっくりと撮ってみたり、
移動のあるショットをワンカットで撮ってみたり、
会話を長回しで撮ってみたり、
カットを割って撮ってみたりと様々な方法を駆使している。
題材が題材なだけにセックスシーンは多いんだけど、
そういうシーンも極めてドライな撮り方をしているので、
全くと言っていいほどいやらしさを感じさせない。
逆にセックスという行為自体に虚無感を感じさせる撮り方をしている。
唯一エロを感じたブランドンと同僚のマリアンヌとのやり取りの後、
ブランドンが、ある女性とバック体位でセックスするシーンがとても印象に残っている。
窓の外からの短いショットの後、斜め上からのアングルで捕らえた男女の性行為。
なんだか、滑稽であり、物悲しかった。
その後のブランドンの行動は、エロを越えてグロテスク。
ちゅうことで、「エロ」を求めて本作を見ない方が良いと思います。
確かにセンセーショナルかもしれないが、至ってアーティスティックで真面目な映画です。
ブランドンが、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、ティア・レオーニ、
ヒラリー・クリントンのような女性と出会えることを祈る。
(タイガー・ウッズは離婚したんだっけ・・・)
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