『僕達急行 A列車で行こう』
2012年3月24日より全国にて
配給:東映
©2012『僕達急行』製作委員会
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大手企業のぞみ地所の社員・小町圭。
下町の小さな鉄工所の二代目・小玉健太。
鉄道好きの2人がひょんなことから出会い、意気投合。
仕事に恋に奮闘する姿を描いたハートフル・コメディ。
最近、映画を見る気力が萎えていたんだけど、
知り合いのライターさんから薦められたし、
なんとなくそんな心境を打破してくれそうな気がしたので見てみた。
で、見て正解でした。
最初から最後まで、映画を見ながら顔がほころびっぱなしでした。
このところ脱力コメディとかナンセンスコメディとか多かったけど、
本作は、「社長シリーズ」「男はつらいよ」を髣髴とさせる王道の人情喜劇。
昨年12月に急逝した森田芳光監督が、長らく温めていたオリジナル企画。
『家族ゲーム』など初期作品にあった“奇妙”な味わいをふんだんに盛り込んでおり、
人によってはダメと思うかもしれないが、個人的にはこの森田芳光節が心地よかった。
本来ないはずなのにインサートされる効果音は、時として嫌味になるが許容範囲内だったし、
会議中に聞こえるヘリコプターの音とか大いに笑った。
セルフパロディとしか思えない。
突然、あるはずのないところからコーヒーカップが出てきたり、
そこに今その人が登場するのはおかしいでしょうというシーンもある。
森田芳光監督ならではの、遊び心に満ちたファンタジーがそこかしこに。
奇抜な一方、ちゃんとした笑いもしっかりと提示してくれる。
主演の松山ケンイチ、瑛太の表情や間だけで、何度笑ったことか。
脇を固める貫地谷しほり、ピエール瀧、村川絵梨、伊武雅刀、
伊東ゆかり、笹野高史、西岡徳馬、松坂慶子らも全員キャラが立っている。
それぞれのキャラクターを生かし、交わらせることによって笑いを引き出す。
ストーリーは、ありがちで予定調和なんだけど、この手の映画はそれでよいと思う。
あと、あまり映画のテーマになりそうもない“趣味”に着目している点も注目だ。
しかも、“鉄道”。
小町と小玉ははっきり言って鉄道オタクなんだが、
彼らはあまり意図せずして、その趣味によって人との繋がりを得て、喜びを共有することになる。
小生は鉄ちゃんではないが、小学生の頃にNゲージを買ってもらい、
レールを繋げて、列車を走らせては、飽きることなく眺めていたという過去を持っている。
資金力と技術力によって叶わなかったが、Nゲージのレイアウト(ジオラマ)には相当憧れた。
ケイブンシャから発刊されていた「Nゲージ大百科」も持っていて、
ボロボロになるまで読み返したし、
実際にその本を参考にして、紙粘土で自家製トンネルを作ったりもした。
確か、新聞紙を湿らせて、その上に紙粘土を貼り付けていくという工程だったと思うんだが、
新聞紙を湿らせる段階で、オレンジ色のカビが生えてしまったりと、
ガキらしい失敗を繰り返しつつ、一生懸命トンネルを作った。
床に這いつくばり、
ライトを点灯しながらトンネルを抜けていくブルートレインを見つめ、ひとり悦に入っていた。
憧れのNゲージ レイアウト
今も、通勤電車は嫌いだけど、地方に行った際、車窓を眺めるのは割と好きだったりする。
(駅弁と酒があったらもっと良い)
『僕達急行 A列車で行こう』の劇中、トレインビューのネタが出てくるんだが、
電車が走っている様子を眺めるのも嫌いじゃない。
外堀通りから見ることの出来る、御茶ノ水駅周辺を走る中央線には「絵」を感じる。
吉祥寺在住なので井の頭公園にちょいちょい行くが、
井の頭公園駅の桜の木の間を通過する井の頭線とか、美しいと思う。
てなわけで、鉄ちゃんではないけど、鉄道に少なからず魅力を感じている。
話がちょっと逸れますが、
ハードロック/ヘビーメタルが好きな人をメタラーと呼ぶ。
そして、小生は若干メタラーの気があります。
で、メタラーと鉄ちゃんはだいぶ似ているように思う。
分からない人には絶対に理解出来ないであろう魅力に魅せられてしまったのが、
メタラーであり鉄ちゃんだ。
鉄道の系統=楽器のモデル。
鉄道の走る音=楽器や歌のフレーズ。
鉄道の色や形、パーツ=バンドやアーティストの持つ特徴、メンバー。
列車の看板や駅の表示板=アルバムのジャケット。
なんとなく通ずる点が多い。
小町は音楽を聴きながら車窓を見るのが好きで、
小玉はモーター音や電車の金属パーツに目がない。
鉄ちゃんは鉄ちゃんでも様々な鉄ちゃんがいる。
メタルはLAメタル、スラッシュメタル、ブラックメタルなど、
メタルの中でもジャンルは細分化される。
もっと言うと四大スラッシュメタルバンド、
メタリカ、メガデス、スレイヤー、アンスラックスでさえ、まるで音楽の志向性は違う。
ファンはその違いを理解しながら、それぞれ各バンドの音楽を楽しんでいる。
メタラーにもいろんなメタラーがいる。
でも興味のない人には細かい違いなんて分からない。
全部同じに見えるし、聞こえてしまう。
鉄道もメタルも、映画や漫画に比べると門戸が狭く、理解を得られ難い。
今はそれほどではないかも知れないけど、
電車オタクといえば、根暗であり、
メタルといえば、汚い、むさ苦しいという風に見られることが多かった。
極端な言い方かもしれないが、気持ちの悪いマイノリティ的存在だった。
好きな音楽はヘビーメタルですといえば、
「あんなうるさい音楽のなにが良いの?」と白い目で見られてきた。
小生は、年少時代、鉄ちゃん的な趣味を持ち、永らくメタルを愛してきた。
だからこそ、小町と小玉にはシンパシーを感じることが出来た。
なので、2人を見ていて本当に楽しかった。
小町と小玉は端から見たらちょっと同性愛ぽい。
でも彼らは普通に女性に恋をする。
普通に仕事も頑張っている。
自らも鉄道ファンであった森田監督の暖かい視線がまた嬉しかった。
その森田監督は、時代を意識したテーマを作品に取り入れることが多いが、
今回も現代の人たちをちゃんと見つめ、捉えている。
単なる人情喜劇に終わらせていない。
昨年12月に訃報を耳にし、驚き残念に思ったが、
本作を見ている最中に、何度も何度も森田監督の急逝をより惜しんだ。
小町、小玉の交流、奮闘を、
そして、レギュラーになるであろう周りの人たちとの関わり合いを見続けたいと思った。
もっと日本の鉄道の魅力を伝えて欲しかった。
景色を見せて欲しいかった。
「社長」シリーズ、「男はつらいよ」、「釣りバカ日誌」など、
国民的シリーズに成り得る要素が満載の作品だった。
誰かが個性に満ちた森田芳光監督の遺志を継ぐのも難しでしょう・・・。
誰か森田芳光監督を生き返らせてくれないだろうか?
とにもかくにも、
鑑賞中も、鑑賞後も温かい気持ちにさせてくれる素敵な作品でした。
<追記>
先日、本作を見たとメタラー友達の佐藤アサトに伝えたところ、
彼も中学ぐらいまで鉄ちゃんだったと。
さらに彼の大学時代の親友であり、
2011年のデフ・レパードのライブを共に体感して以来交流のある「歩く“Burrn!”」N氏が、
現役バリバリの鉄ちゃんであると聞き、驚いたというか、笑った。