『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス』
2012年4月14日より全国にて
配給:東宝
&coyp臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK・2012
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今週末は、ウォルト・ディズニー生誕110周年記念作品『ジョン・カーター』、
ユニバーサル映画100周年記念作品『バトルシップ』といったアニバーサリー映画が公開されるが、
もう一本記念作品が封切られる。
主演はテイラー・キッチュではなく野原しんのすけ。
わが愛する「クレヨンしんちゃん」の劇場版が20周年を迎えたのだ。
節目となった『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス』は、
ひまわりがヒマワリ星のお姫様として迎えられてしまい、野原一家がバラバラの危機に陥るというお話。
20周年記念作品ということで、
今までの集大成か?何か新機軸を打ち出してくるか?と期待も膨らむ。
しかし、そんな気負いは製作陣にはなかったようで、
特別感めいたものはあまりなかった。
芸歴20周年のお笑い芸人とフリーアナウンサーの羽鳥慎一がゲスト声優として参加しているが、
ゲスト声優は今までもあったので、別に今回に限ったことではない。
さて、中身ですが、序盤はボチボチな感じ。
しかし、野原一家がヒマワリ星に着いてから、
とたんにペースダウン。
ある一定の場所で、セリフの多いやり取りがなされる。
大人はまだいいけど、子供にはちょっとしんどいんじゃないかな?
その後もまったりとしていて、
『アクション仮面VSハイグレ魔王』、『ブリブリ王国の秘宝』など、初期劇場版を思い起こさせる。
原点回帰?
いやいや違うでしょう。
あと、見ていて、なんかモヤモヤした気分にさせられた。
多分そういう心境に陥った理由は、本作に絶対的な悪人が登場しないからでしょう。
ひまわりが姫として連れていかれるヒマワリ星の住民たちは、決して悪い人たちではない。
どちらかといえば、いい人の方が多い。
野原一家が立ち向かうことになるボスキャラ、ヒマワリ星・大王サンデー・ゴロネスキーにしても、
悪人とは言えない。
ヒマワリ星と地球は持ちつ持たれつの関係だし、
サンデー・ゴロネスキーが推し進めようとするひまわりの王妃戴冠は、地球のためでもある。
娘を取り上げられてしまったひろしとみさえの心境もよーくわかるんだけど、
視野を広げて見ると、単純にひろしとみさえを応援できない事情があったりする。
そのひろしとみさえの葛藤が見所でもあるし、
いまの日本、地球がおかれた環境へのメッセージも込められているが、
あまり子供向きとは思えない。
子供向きでないといえば、怖さも挙げられる。
前半恐怖映画な『伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!』ほどホラーではないが、
子供だったらびびるであろうシーンがそこかしこに。
いつものような一般試写会で見たんだけど、泣いている子供が結構いた。
大傑作『嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』にも、
親たちがやる気がなくなるちょっと怖い演出があった。
でも『嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』や『伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!』には、
その後、ちゃんと怖さを払拭する笑いや展開があった。
今回は終盤に怖いシーンがあり、あまりフォローがないまま終わってしまう。
実は「しんちゃん」の恐怖演出は、別の恐怖を引き起こす恐れがあり、
それが心配だったりする。
このブログで何度も言っているが、
「クレヨンしんちゃん」は、基本、ギャグアニメである。
笑いを求めて見にくる子供たちも多いはず。
ところが見たら笑いよりも恐怖の方が勝ってしまった。
これがトラウマになって子供たちの「クレヨンしんちゃん」離れが進行したら嫌だなってね。
このところ『オタケベ!カスカベ野生王国』以外、
劇場版「クレヨンしんちゃん」にはギャグが少ないように思う。
今回も場内がドカン!と沸いたのは、1、2回ぐらいだった。
かつて「クレヨンしんちゃん」のテレビアニメや劇場版を多く手掛けた原恵一監督は、
『河童のクゥと夏休み』でインタビューした際、
“「クレヨンしんちゃん」では義務的にギャグを入れていた”と語っていた。
そう義務なんですよ。
笑いを生み出すことは難しいし、20年も続けたらネタも尽き、
マンネリにもなるでしょう。
しかしながら、「クレヨンしんちゃん」は、日常的な笑いはもちろん、
有り得ないシチュエーションでのギャグもOK。
万国共通の下ネタギャグという強い武器だってある。
しんのすけを筆頭に、シロを含めた野原一家、カスカベ防衛隊、ふたば幼稚園の先生たち、
ななこおねいさん、お隣さんのおばちゃんやミッチー&ヨシリン夫妻など主要から脇に至るまで、
個性豊かなキャラクターたちがたくさんいる。
これらの素材をうまくいかせば、まだまだギャグを産み出せるんじゃないかな。
「ドリフ」みたいにキャラを生かしたお決まりの定番のギャグの積み重ねでも全然良いと思う。
20周年で一区切りつけて、ギャグに特化した作風になって、
また場内が爆笑の渦になる光景が見たい。
「クレヨンしんちゃん」には、『嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』ではまった口だが、
この作品を劇場で見たときの子供たちの素直な反応が、いまでも忘れられない。
ギャグシーンで、ドッカン!ドッカン!笑っていた。
映画そのものの出来も素晴らしかったが、
映画館で体感したライブ感がとても新鮮であり、楽しかった。
あの感動を味わうためには、やっぱりギャグが必要だと思う。
今回は、ちょっと厳しい内容になってしまいましたが、
これも愛するがゆえ。。。